| 少し離れた席だったら良かったのに... はそんなことを思いながら相手の話を聞き流していた。 そんなの真後ろでは他の男女が賑やかに騒いでいる。いや、騒いでいるのは女の方で男の方は今のと同じような反応だった。 「!」 目の前の人物に呼ばれて顔を上げる。 必死の形相。 今更、だ。 の表情に、何を言っても無駄だと悟ったのか目の前の男は立ち上がる。 「お前、俺以外は無理だと思うけどな」 そう捨て台詞を吐いて男は去っていく。 こっちは片付いたよ。 そう思いながらやっと目の前のコーヒーに手を伸ばした。 出されてからもう長い間手を伸ばしていなかったので随分と冷めていた。 背後でガタンと音がした。 ああ、こちらも交渉決裂か? そう思っていたらバシャッと背中が濡れた。 ...避けるな。 心の中で盛大に文句を言い募った。 店員はどのように対処していいのか分からないといった様子でこちらを伺っている。 「すみません」と声をかけてきたのは男の方だった。 「避けないで」と返すと彼は苦笑した。 「反射的に。大丈夫ですか?」 水だと思っていた。 「...これってジュース?」 甘い匂いがする。 「あー..うん」 は盛大に文句を言おうと振り返るともう女の姿はなかった。 「逃げた。わるい」 「話のケリはついたの?」 の言葉に彼は曖昧に頷く。 「はっきりさせないと」 「そっちは綺麗にケリがついたみたいじゃん」 は不機嫌に彼を見上げた。 「聞き耳立てないで」 「聞こえたの」 彼は肩を竦めてそういった。 「取りあえず、クリーニング代出すよ。いや、新しい服のほうが良い?何処のコロニー?」 「月」 が短く答えると彼は目を丸くした。 「遠いなぁ...」 「自然消滅しなかったのが不思議でしょ?」 苦笑して答えるに彼は「それだけ貴女が魅力的だったってことじゃないのかな?」と返す。 「懲りないなぁ...」 「オレの性分。仕方ないよ。三つ子の魂何とやら」 は眉を上げて、そして苦笑した。 「取りあえず、此処を出ましょう。いたたまれなくなってきた」 そう。周囲の視線は既に彼らに集中している。 注目されているのに慣れているらしい彼は「ああ、そっか」と返してのテーブルの上の伝票も手にとっての手を引いて出口に向かう。 「ところで、お名前を伺っても?」 の手を引いたまま振り返った彼は何故かウィンクをしながらそう言った。 「。・。あなたのお名前は?」 「ディアッカ。ディアッカ・エルスマン。意外と良い男だと思うよ?」 「自分でそんなことを言うヤツは信用しないことにしてるの」 「オレは例外的に信用してよ」 言えば言うほど胡散臭くなることを自覚した上で言葉を募っているのだと分かる。 「ダメよ。良識的な女の子と付き合えない男は信用ならない」 からかうようにが言う。 「じゃあ、。オレと付き合わない?」 心底呆れた。 店を出てディアッカは車のドアを開けてに乗るように促した。 「信用ならないから、今日はパス」 笑ってそう返し、は自分が乗ってきたバイクに跨る。 ああ、ヘルメット... 今はヘルメットをしたくない。 髪を伸ばしているはその髪をまとめてヘルメットの中に収納する。 しかし、今はジュースをかけられたその髪をヘルメットの中に収納しなければならない。 まあ、仕方ないか... 髪をまとめてヘルメットを被り、「じゃあね」と言ってはそのままバイクを走らせた。 |
桜風
11.9.6
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