provisional contract 2





仕事を済ませたのは既に周囲のオフィスの電気も消えている時刻だった。

まあ、自分は大抵こうだし...

「こんばんはー」

は驚いて振り返る。

「あらあら。学生さんは暇でいいわね」

の厭味も何のその。

寧ろこういうのに慣れているのか簡単に聞き流して「食事でもどうですか?」と誘う始末。

まあ、夕飯を外食で済ませようと思っていたので丁度良い。

「いいわよ」と返すと「オレにご馳走させてね」と言われて目を丸くした。

「何で?」

「この間。結局クリーニング代も新しい洋服代も出さないまま終わったし」

ディアッカの言葉に「ああ、何だ」と言う。

「あそこをご馳走してもらったでしょ?」

「あれくらい...」とディアッカは言うがは是が非でも頷くつもりはなかった。

「ディアッカって、バイトしてる?」

「いいや?その必要がないもん」

ディアッカの言葉にはこれ見よがしに盛大に溜息をついた。

「つまりね、ディアッカ。君は、お父さんかお母さんか、はたまた両方が稼いだお金で苦労することなく何不自由なく暮らさせてもらっているのね。それなのに、親の稼いだ金を自分のものであるかのごとく湯水のように使おうってのは、ちょっと甘いんじゃない?もう子供じゃないんだし」

こんなにずげずげものを言う女性は母親以外では初めてでディアッカはきょとんとした。

何より、自分と彼女は今日で2回目の対面だ。

「ははっ」とディアッカは笑った。


は不思議そうな表情をしたが、それについて聞くことはなかった。寧ろ、ディアッカを置いて歩き出す。

「何食べに行くの?」

数歩駆けてに追いついたディアッカが聞いた。

「というか、ディアッカは今日は帰らなくて良いの?あ、でも。今の時間はもうシャトルがないか...」

自分の腕時計を見ながらは呟く。

「うん。こっちに知り合いが居るから泊めてもらう。向こうも渋々良いよって」

「ま、そういうことなら安心ね」

「で?何食べるの?」

「ラーメン」

の言葉にディアッカは思わず足を止めた。

「何か、こう..色気が無いというか。ムード考えて?」

「色気でお腹は膨れません。というか、何で親の脛を齧ってるディアッカに色気を見せなきゃならないのかさっぱりわかんない。そんなもん、自分が一人前になってから求めなさい」

そういいながら少しだけ歩調を速めては歩き出した。


「ほら、此処」

そう言ってが足を止めたのは外装的には取りあえず入るのを躊躇うような店だった。

「ここ?」とディアッカが聞き返すとは答えることなく店の暖簾をくぐる。

「いらっしゃい!」と景気のよい声が飛んできた。

「お?さん。久しぶりじゃないか。あれ?弟さん?」

後ろから付いてきたディアッカを見て店員がに聞く。

「そんなとこ」と返しては適当に座った。

ディアッカもの目の前に座る。

「はい、いらっしゃい」と自分の母親よりも年上の女性が水とメニューを持ってきた。

「どうも」と返事をしたディアッカはメニューを開こうとして「何にすんの?」とに聞く。

「ああ、わたしはもう決めてるから。いつものね!」

カウンターの中に向かってが声を張ると「あいよ!」と返事がある。

「いつもの、って何?」

「んー?チャーシュー麺大盛りと、チャーハン。チャーハンは半分ね。あと、スープ」

「...こんな夜中にそれだけ食べたら、太る..!!」

テーブルの下で足を思い切り踏まれた。ディアッカは痛さのあまり声が出ない。

これは、ヒールのあとが絶対に付いている。

「で?」

が聞くと「オレもそれ」と声を絞り出して返事をし、また悶絶を続ける。

「同じのお願い!」とカウンターに声をかけると「あいよ!」と今度は笑いながらの返事があった。

少しして目の前に置かれた丼をや皿を見て少し胸焼けがしたが、それでも気が付けばペロリと平らげていた。

ディアッカは驚いてを見ると、彼女も平らげていた。

「美味かった...」

「そりゃそうよ。ディアッカは人を連れてくるのに美味しくないところに連れて行くの?」

自信満々にが言い、ディアッカは苦笑して「参りました」と頭を下げた。

は「まだまだね」と得意げに笑っていた。









桜風
11.9.12


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