| ディアッカの申し出もけちょんけちょんに断ったがご馳走し、「じゃあね」と店を出た途端に別れの挨拶をした。 「いやいや、ちょっと待ってって。まだ時間あるでしょう?」 「学生さんほど暇じゃないの。明日の会議の準備があるし」 「でも、帰るんだよね?」 「自宅に持ち帰ってね。じゃ、おやすみ。迷子にならないようにね」 そう言っては颯爽と歩き出す。 その背中を呆然と見送ったディアッカは「おもしれー」と笑った。 家に帰ってメールをチェックする。 こちらはプライベートの方だ。 「あら、珍しい」 送信者の名前を見ては呟く。 『イザーク・ジュール』と書いてある。 はイザークの母親、エザリア・ジュールに気に入られた。 ビジネスに厳しいあの母が、と以前イザークが驚いて零したのだ。それくらい珍しい状況だったらしい。 といえば、自分の何処がどのように気に入られているのかは不明だが、そのチャンスをフイにするのがどれだけ勿体無いことになるかはすぐに分かった。 良く分からないが、気に入られている間に出来ることは全部しておく。 そう思ってさらにがむしゃらに仕事をしている。 だから、付き合った男達に時には別れを告げられ、自分が別れを告げる。 そもそも、今は仕事が非常に楽しいのだ。 昔は良く電話とかもしたが、最近はが忙しくなったし、それなりに『お年頃』になったのか、電話をしてこなくなった。 はこちらから電話をする気が無いので、結局彼との連絡はメールのみとなる。 「パーティ..か。こりゃ、エザリア様に感謝だわ」 早速出席したい旨をメールで返そうとキーボードを叩いたが、時計を見ると、そこまで遅い時間ではないのに気が付き、電話をしてみることにした。 『夜中だぞ』 挨拶も無く、まずは文句。 苦笑しながら「せっかくだし、声を聞きたいって思ったの」と言うと『男にまた逃げられたのか』と溜息混じりに返された。 「逃げられたって何よ。あのね、お別れしたの」 『どうせが暖簾に腕押しだったんだろうが。空しくなったんだろうな、そいつも』 「そう?わたしは自分が仕事に生きるって最初からお話しているのよ?それでも良いって言うからお付き合いしてるんじゃない」 『大抵そんなのはよくないになるに決まってるだろうが』 「何で年下のイザークに男女の恋愛の機微を語られなきゃならないんだろう...」 心で思ったことを口に出してみた。 『お前が酷すぎる。俺の知り合いにも酷いのは居るが、どっこいどっこいだな』 やはり溜息混じり。 「あら。イザークと対極にある子なのね。それはそれで興味あるわ...」 『メールを見たか?もし今度のパーティに来るんだったらそいつも来ると思うぞ』 「ということは、良いトコの坊ちゃんかー...」 『で、はどうするんだ?』 「ああ、それそれ。その話で電話したんだった」 話題が随分と横道にそれていた。 『物忘れか...ぼけるにはまだ早いだろう』 「はっはっはー。お黙り」と一言言い、「エザリア様に大感謝。出席させて。で、イザークにパートナーが居なかったら今回もよろしく」と返事をする。 『母上に話しておく。あと、たぶん、パートナーはいないから大丈夫だ』 「助かる!」 『こういうときのために、長く付き合えるやつでも捕まえておけ。ビジネスの関係限定にしても、だ』 偉そうに言うイザークに文句を言いたいが、いつもこう言うときにお世話になっているのでグッと押し黙る。 向こうもが反論してこないだろうと踏んで言っている様である。 「じ、じゃあ。夜分遅くに失礼しました」 『本当にな。常識が疑われることになっても知らんぞ』 そう言ってイザークは通話を切った。切る寸前に「おやすみ」と挨拶をしたのは彼の育ちのよさから挨拶を疎かにできないのだろう。 いや、性格かもしれない。結構神経質なところがある。 は部屋の壁にかけている時計を見て「うわぁ...」と呟く。 明日の会議資料、これから徹夜での仕上げになりそうだ。 「ま、好きでやってることだしね」 そう呟いてオフィスから持ち帰ったバッグの中から資料を取り出した。 |
桜風
11.9.19
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