provisional contract 8





ディアッカがバイトをはじめたと言う噂を耳にしたイザークは眉を上げた。

その理由をラスティから聞いて納得した。

「ディアッカがバイトを始めたらしい」

「あの子に勤めが出来るの?」

真顔で返されて苦笑する。

月に用事があり、の会社を訪ねて世間話をしているところでイザークが情報を流した。

のディアッカに対する評価は分かりやすい。

「まあ、働くことを知るのはいいことね。で、イザークはバイトとかしないの?」

聞かれて肩を竦めた。

「俺は今は研究が楽しいからな。そっちに集中したい」

「経済の一端を担うのも結構楽しいと思うけど?」

「勿論勉強になるだろうし、楽しいだろうが...まあ、今しか出来ないことをしておきたいんだよ」

なるほど、とは納得した。

イザークの場合、学生でなくなったとたんに色々と背負うことになるのだろう。

今急いでこっちに入ってくる必要は無い。

「ああ、そうだ。今度エザリア様に相談したいことがあるんだけど...」

の言葉に「スケジュールを聞いておいたやる」とイザークが請け負う。

勿論、正式にアポは取るが、その前に調整をしてからにしておきたい。

「あれからディアッカは来るのか?」

「来る?此処に??」

床を指差してが問うと、イザークが頷いた。

「まあ、偶に来るかしら。物凄い冷やかし。こっちに知り合いが居るんですってね」

「アイツは顔が広いからな」

「ああ、社交的なのは想像つく。情報戦をさせたら重宝するんじゃない?」

「だろうな」とイザークは頷いた。

のディアッカに対する評価はつくづく正鵠を得ている。



ある日、が商談のためにプラントのある企業の本社の中を案内されながら歩いていると、ふと、視界の隅にヒラヒラと手を振る何かが見えてそちらに顔を向けて思わず二度見をする。

スーツを着たディアッカだ。

バイトってこういうところのバイトなの?!

心の中で驚きの声を上げただったが、「どうかされましたか?」と声を掛けられ「いえ」と応えてそのまま商談の場へと向かった。

商談が成立し、細かい話を後日としたところで社を後にした。

「よ!」とオフィスを出たところに私服のディアッカが立っていた。

「あら?スーツは?」

「あれは更衣室のロッカーに仕舞ってる。学校に毎日スーツで行くはず無いだろう?」

「というか、こんな大きなところにバイトって...ディアッカのお父様ってタッド・エルスマン?」

に問われてディアッカは気持ちが沈む。

やっぱり自分の評価の基準はその背後の親か...

「そ」と短く応えるディアッカには何となく彼の心境を察した。イザークもそうだが、ディアッカは中々『自分』を評価してもらえないのだろう。

一度溜息を吐いたディアッカは気分を切り替えたかのように「でさ」と少し明るい声を出す。

「なに?」

「何か食べてかない?」

「いいわよ。けど、今日はディナーの約束があるので軽くね。ここらでオシャレなカフェは何処かしら?」

全く地理に疎いのでは素直にディアッカの判断に委ねることにした。

ディアッカが連れてきたのは「さすが」と評価したくなる本当にオシャレなカフェだった。

「オレ、ご馳走するから」

「お言葉に甘えましょう」

が素直に応じたのが意外だったのかディアッカは眉を上げた。

「ちょっと前にね。ディアッカがバイトを始めたって話は聞いてたのよ」

「誰から..ってイザーク」

唸るように友人の名前を口にする。

「口止めした?」

「してない。してたらイザークは絶対に言わないから」

「でしょうね」

は苦笑した。

本当は聞かなかったことにしようかなとも思ったが、先ほどディアッカが不思議そうにしたので、種を明かすにはイザークから聞いた話しもしなくてはならなくなったのだ。

「ディナーってウチの社長?」

「いいえ。エザリア様」

ディアッカは眉を上げる。またしても驚きだ。

「何の話?」

「それは内緒。ビジネスですもの」

人差し指を唇に当てては笑う。

「イザークは?」

「さあ?エザリア様と2人だと思ってるんだけど、わたしは」

の言葉にディアッカは何だか安心したようだった。









桜風
11.10.25


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