provisional contract 9





ディアッカは植え込みの傍に座っていた。

時計を見るとやっぱり遅い時間だ。

「もうトシなんだから、お肌とか考えてやれよー」

苦笑しながらひとりごちる。


久しぶりに冷やかしに来てみた。

最近になって会社のシステムが楽しいものに思えてきたディアッカは結構優秀なアルバイトである。

会社的にはもっとディアッカを使いたいと思っているようだが、残念ながらアルバイトなのでそこまで重要なポジションに置けない。

学校の卒業後の進路を偶に重役から聞かれるようになったディアッカも満更でもなかった。


自動ドアが開き、が出てきた。

「やっとかよ...」

バイトを始めて以来、はディアッカがご馳走をすると言ったら3回に1回くらいは応じてくれるようになった。

認めてもらえたようでそれが嬉しい。

ただし、大抵ファストフードだとかそういう手ごろな値段が売りのものしか認めてもらえないのはやっぱり自分がまだまだ子供と思われている証拠なのだろうと思う。

」と声を掛ける。

彼女がげんなりしたような目で自分を見た。

別に嫌われているのではなくて、彼女曰く「学生の本分は何かしら?」である。

つまり、遊びに来る暇があれば勉強しなさいということだ。

だが、偶には息抜きをしてもいいだろう、と言うのがディアッカで息抜きのほうが多いと言う周囲の指摘はこの際黙殺させてもらう。

「まったく、ディアッカは...」

溜息混じりには苦笑してこちらに足を向ける。

不意にディアッカの表情が変わった。

不思議に思いつつもは首を傾げて「どうしたの?」と言うだけで足は止めなかった。

しかし、さすがに「!」とディアッカが駆けて来たところで驚き、足を止める。

ディアッカはの手を掴み自分に引き寄せた。

乱暴にも思われるその行為にが文句を言おうとしたが、そのときになってやっと自分の後ろに人が立っていることに気が付く。

振り返った先に居た男の顔に見覚えがある。

それもそのはず。

数ヶ月前にファミレスで別れた男だ。

ポタ、とやけに大きな音が聞こえて地面を見る。

「っつ...」とディアッカが漏らした声が耳に届く。

「ディアッカ?!」

「オレってカッコイイ」

苦笑しながら言うディアッカに「ばか!」と言っては男を見上げた。

男の目には狂気が浮かんでいる。

は思わず息を飲んだ。

「お前が...」と熱にうなされたように男が唸る。

それでもは後ずさりそうな自分を心の中で叱咤し、ディアッカを背に庇おうとした。

しかし、それはディアッカ本人に阻まれる。

「アンタはもうお呼びじゃないんだよ」

男を睨むディアッカの横顔をは呆然と見上げた。

ディアッカってこんな顔してたっけ...?

を庇って負傷した腕からは血が流れ、アスファルトを染める。

ディアッカの気迫に完全に飲まれた男はじりじりと後ずさり、そのまま逃げていった。

「オレってカッコ、イイ」

先ほどと同じ言葉を繰り返すが、その声音には余裕が無い。

ずるっと地面に座り込んだディアッカを追うようにも地面に膝をつく。

「ちょ..救急車...」

が慌ててバッグから携帯を取り出したが、「いや、そんな大げさなもんじゃないって」と笑いながらディアッカが止めた。

こんな逆恨みのスキャンダルでの会社の名前が傷つくのはよくない。

しかし、はディアッカの制止を無視してそのままコールする。

ディアッカはその横で溜息を吐いた。


「あ、。ごめん」

が電話をしているところで気がついたディアッカが謝罪する。

「なにが?」

パチンと携帯を閉じたが返す。

少し不機嫌なに心の中で肩を竦め、「スーツ、汚れてる」と血のついた箇所を指差した。

ちなみに、今ディアッカの傷を止血するために巻いているスカーフもの巻いていたもので、ディアッカが固辞するのを無視して強引にが巻いた。

汚れた箇所を見て

「ああ、いいのよ。こんなの代わりはいくらでも買える」

と何でもないことのように言う。そしてディアッカを見て睫を伏せた。

「こっちこそ、ごめんね。わたしの不始末なのに...」

「いいって。代わりに今度、オレが今まで付き合った女の子に刺されそうになったら庇ってね」

「それは遠慮するわ」

考えることなくがそう返した。

その反応にディアッカはクスクスと笑う。

「なによ」

「いいやー、べっつにー」

やっぱり笑いながらディアッカはとぼける。

暫くしてサイレンが遠くから聞こえてきた。

「てか、たぶん救急隊に怒られるよ。オレ、ピンピンしてるもん」

「応急処置だけしてもらったらタクシーでも捕まえて病院に行くわよ。まだ血が止まってないでしょ」

じわりとスカーフに広がる染みの面積が広がっている。

確かに、強がっているが、ちょっとやばいかもとは思っている。

「なあ、

「何よ」

救急車に居場所を知らせるために立ち上がろうとしたの手をディアッカが引いた。

「オレってかっこよかった?」

「え?ええ、まあ。感謝してる」

「じゃあ、キスして。お礼に」

「何言ってんの?ばかじゃないの??」と素気無く返されると思った。

しかし、その言葉の代わりにおでこに柔らかい感触があった。

「え...」

「こんなもん、お安い御用よ」

そういっては立ち上がり救急隊へ駆けて行く。

「出来れば唇...」


そう呟き、気が遠くなったディアッカが次に気がついたときは病院だった。









桜風
11.10.31


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