| 彼女はいつもトレーニングルームに残っていた。 それに気づいたのは2ヶ月前。 そして、それから彼女は毎日トレーニングルームで日が沈むまで一人で居残り勉強をしている。 「まだ居た」 ふいに声が聞こえて彼女は驚き、振り返る。鍵を掛けていなかった廊下側の窓に上半身の体重を預けた少年が居た。 夕焼け色の髪が優しく見える。 「誰?」 驚きのあまり、不躾な問いが口に出た。 「ああ、ごめん。オレはパイロットクラスのラスティ・マッケンジー。最近ずっと居残りしてるね」 彼はそう言って人懐っこい笑みを浮かべる。 「え、あ..うん。わたし、鈍いから」 彼女は恥ずかしそうに頭をかきながら俯く。自分で嫌になっているところだ。 「ふーん。オペレータークラス、だよね?」 そう言いながら彼は窓から入ってくる。 「はい」 少し体を引き気味に彼女は答えた。 「えーと。・ちゃん。可愛い名前だね」 にこりと微笑む彼に警戒しつつも「どうも」とは返す。 初めて会って、初めて会話をするのに何だか馴れ馴れしい。そういう人は苦手だ。 「何でひとりなの?友達、付き合ってくれないの?」 ラスティは気にせずに話を続ける。 「友達..って。仲良しになりに此処に居るわけじゃないもの。居ません、そんなの」 彼女はそう言った。 ああ、そうなんだ... ラスティは何となく残念に思う。 「で、何でここ2ヶ月ずっと居残りしているの?」 ラスティの言葉に彼女は驚いた。 「ああ、ストーカーじゃないから。オレも、結構残る日があってね。この部屋の前を通らないと教官に鍵を返しにいけないでしょ?」 彼は両手を顔の高さまで挙げて自分は無害だと主張する。 そして、はラスティの言葉に納得した。 教官室に行く道はこの部屋の前の廊下しかない。 「あなたも、居残り?」 何だか色々と得意そうなのに... 「ラスティ」 彼は訂正した。名前で呼ぶように、と。 「まあ、最初は何となくで残ってたんだ。けどさ。残っていて、鍵を返しに行く途中に毎日一生懸命な顔をして勉強している子がいるでしょ?まあ、オレも頑張んないとって思っちゃったわけ。ああ、勿論、オレは優秀だよ」 やな奴... は少しだけそう思った。けど、言うほど嫌な気はしない。 自分の出来が悪いのは事実だし、彼はその言葉通り優秀に見えるから。 「卒業するときには『赤』じゃないとね。やっぱやるからには。トップは..熾烈すぎてその間に入る気がしないからさ」 同期のメンバーを思い出して苦笑する。 熾烈なのは誰かさんが一方的にそういう状況を作り上げているだけのような気もするが... 「凄いね」との口からポロリと漏れる。 「何か、一生懸命頑張っても結果でないし。才能ないのかな...」 少し泣きそうな表情を浮かべて彼女が言う。 「才能、ね。才能だけじゃ、戦争は出来ないでしょ?たぶん、生きて帰れないよ」 ラスティが言う。 じゃあ、何が必要なの? は視線で問うた。 「一番必要なのは、『運』。そして、生き抜くっていう意思じゃない?まあ、日常生活と変わんないよね」 「でも、才能がないと戦場では命取りじゃないの?」 「オレは、そうとは限らないと思うんだけどな」 思いがけず長い時間話していることに気づいて彼女ははっとした。 「ごめん、もう勉強しないと」 はそう言ってテキストを広げて実習の復習をしていた。 「最後、いっこだけ」 ラスティがそう声を掛けた。 「努力に勝る才能はなし。どんな天才でも努力した凡才には追いつかれちゃうよ。まあ、努力する天才だったらそれはもう敵わないものとして諦めるしかないけどね」 彼はそう言って笑う。 「うわ、オレ今、凄いクサイ台詞吐いちゃった!?」 驚いた表情になったかと思うとを見てニッと笑う。 「続けてたら、きっと成果が出るよ」 ラスティはそう言って部屋を後にした。 アカデミーを卒業する日。トップテンが発表される。 殆どの者が予想していた通りザフトレッドと呼ばれる成績優秀者の大半がパイロットだった。 が、ひとりだけ前代未聞でオペレーターがその中に名前を連ねていた。 『・』 それを聞いたとき、ラスティは小さくガッツポーズをした。 仲間と帰路についている途中、彼女の背中を見つけ、「先行ってて」と仲間に声を掛けて駆け出す。 「」 彼女は振り返る。 声を掛けてきたのはラスティ・マッケンジー。 前にちょっとだけ話をした人物だ。 太陽の下で見ると、やはりラスティの髪は夕焼け色で、そして瞳は青空の色だった。 「オレに惚れるなよ」 ぼけっとラスティを観察していたは突然そう言われて大仰に溜息を吐いた。 「惚れない、惚れない」 パタパタと手を振って否定する。 「なーんだ」と言ってラスティは頭の後ろで手を組む。 「ありがとう」 が突然言った。 「ん?オレ、何かした?」 すっとぼけるように彼がそう言い、は「特にこれと言って何も」と返して笑う。 「赤服、おめでとう」 ラスティの言葉に「そっちこそ」とは返す。 「ねえ、ラスティ」 に声を掛けられて彼女を見る。 「わたし、運は強いと思うの」 彼女が大真面目な顔をしてそう言った。 ラスティは思わず噴出して「そりゃ、勝ったも同然じゃん」といい、「でしょ?」とも返す。 「ラスティ、ありがとうね」 「おう」 2人は顔を見合わせ、そしてまた笑った。 |
桜風
08.5.1
08.7.1(再掲)
ブラウザバックでお戻りください