| その日のボルテール内には、何とも奇妙な光景が目に入った。 思わず二度見をする人物が多数。 ブザーが鳴り「・です」と言われてイザークは自室のドアを開けた。 「trick or treat!」 ドアが開いた途端、明るい声で飛び込んできた。 書類に目を通していたイザークは面倒くさそうに顔を上げる。 そこには、ネコミミを付けた・の姿があった。 「帰れ」 一言そう言ってイザークはまたしても書類に目を落とす。 「隊長、トリックオアトリート」 「だから、帰れ」 「イタズラしてもいいんですか?」 の一言にイザークは深く溜息を吐く。 引き出しを開けて何かを取り出してに投げて寄越した。 「もう良いだろう。俺は見てのとおり忙しい」 しっしと退出を促して手を振った。 は手に取ったそれを見て首を傾げて口の中に放る。 何だかトゲトゲした感じの薄い桃色のそれは、ほんのりした淡い甘さを持っていて不思議な味を感じた。 口の中の淡い甘味がなくなった頃、行きかう誰かにもは同じように「trick or treat!」と声を掛けては何か貰っていた。 ディアッカがそんなの話を聞いたのは、イザークの元にが襲撃してから数時間後のこと。 用事があってイザークの部屋に行ったときにイザークの口から聞いた。 「へぇ、」とディアッカは楽しそうに笑う。 「適当にやめさせておけよ」 「りょーかい」 イザークの言葉にディアッカはヒラヒラと手を振って答えながら部屋を出た。 適当に艦内を歩いていても、中々ラピスの姿を見ない。 行き交うクルーに聞いてはみるが、中々遭遇できない。 そろそろメカニックたちの交代の時間となるから、ドックにいれば会えるのだが、それでは面白くない。 残り少ない時間を取り敢えず全力でを探してみる事にした。 廊下の角を曲がったところで何かにぶつかった。 「悪い」 「いえ」 お互いその声で目が合う。 ディアッカの目の前には、イザークから聞いたとおり何故かネコミミを付けたの姿があった。 「あ、ディアッカさん」 「噂どおりだな」 口の端がフルフル震えている。 は一人でこの艦内で仮装をしている。 「。一人でハロウィンしているって聞いたけど、本当だったんだな」 何だか笑いを我慢しながらディアッカが感心している。 「え、はい...」 改めて言われては今更ながら恥ずかしくなってきた。 頭に付けているネコミミを取ろうと手を伸ばすと「」とディアッカに名前を呼ばれた。 手を止めて顔を上げると意外にもディアッカの顔が近くにあり、 「trick or treat!」 といわれる。 思いも依らないその一言に少し怯んで暫く呆然とディアッカを見上げていただったが、はっとして自分の繋ぎのポケットを探る。 が、貰った物はすべて口に放り込んでいたため、今現在何も持ち合わせがない。 「あ、ありません...」 の言葉を聞いてディアッカはにこりと微笑む。 その笑顔に何だか嫌な予感がした。 一歩後ずさって距離を取るが、ディアッカも一歩距離を詰める。 ディアッカの顔が近づき、はきゅっと目を瞑って体を硬くする。 チュッと音を立ててディアッカがの顔から離れる。 呆然と頬を押さえてラピスがディアッカを見上げる。 ディアッカは楽しそうに笑っての額にデコピンを当てる。 「ま、俺のイタズラ成功ってことだな」 笑いながらディアッカがそう言って去っていく。 数秒固まっていただったが、気を取り直したように顔を上げてディアッカを追いかける。 「ディアッカさん!」 「んー?」と振り返るディアッカに、は今までクルーに声を掛けたように「trick or treat!」と声を掛ける。 まさか改めて自分が言われるとは思っていなかったディアッカがぽかんとする。 「あー。持ってないな...」 正直に答えるディアッカにはにやっと笑う。 自分の頭に付けているネコミミを外してピョンと跳ねてディアッカの頭に装着させる。 そして、ディアッカを見上げて指をさして笑う。 「ディアッカさん、可愛い!!」 「オイ、こら」 半眼になったディアッカに睨まれたは慌ててキャーと言いながら逃げていった。 ネコミミを付けたディアッカはその背中を見送る。 そんなディアッカの姿を見たクルーの苦情に近い噂がイザークの耳に届き、イザークは俄かに頬を引き攣らせていた。 |
桜風
07.10.29
07.11.25(再掲)
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