| 久しぶりに戻ってきたザフト軍本部で空を見上げるとうっすらと煙が空に向かって伸びていた。 ミゲルは溜息を吐いてその煙の上がっている倉庫へと向かった。 「おいおい、やっぱりアンタか」 ミゲルが倉庫の屋上に上って確認してみれば、思ったとおり、・がいた。 彼女は頭の下で腕を組んでおり、さらには足を組んでぶらぶらと揺らしながら屋根の上で寝転んでいる。 そして、口にはタバコを咥えているため煙が上がっていた。 下から見えたのはこの煙で、ミゲルはこれ見よがしにもう一度溜息を吐いた。 「おー、久しぶり。黄昏の魔弾殿」 そんなミゲルに視線だけ寄越して彼女は何でもないことのように声を掛けてきた。 「『おー、久しぶり』じゃないっての」 ミゲルは乱暴にの口元のタバコを奪い取る。 「おいおい、いいのかな?そんな口の利き方をして」 笑いを含んだ声でが着崩した自身の軍服の左の襟元を指差した。 そこには特務隊『FAITH』の徽章が輝いている。 火を消すために屋根にタバコの先を押し付けながらミゲルは「いいんだよ」と答えた。 「俺は今、軍人として言ってるんじゃなくて『ミゲル・アイマン』として『・』に言ってんだから」 そう言ってまたしても溜息を吐く。 「幸せが逃げるぞ?」 「誰のせいだ?」 「さあ?気の毒な事だ」 「ああ、本当にな。ったく...」 一通り挨拶らしからぬ会話をして、ミゲルもの隣にゴロリと寝転ぶ。 「タバコ、やめろって言ってるだろう?」 「...言ってるな」 「お前、パイロットなんだから」 「まあ、『超優秀な』という形容詞がつくパイロットだな」 「厭味か」 「いいや、事実だ」 ミゲルは首を巡らせて隣で寝転ぶを睨む。 その視線を受けて彼女は肩を竦めて上半身を起こした。 「補給か?」 「まあ、そういうこと。は?」 「んー、まあ最後の休暇と言うか...明日から出ないといけないんだ。今後は当分本国には帰れない」 視線はあくまでもまっすぐ遠くの街並に向けたまま彼女は返事をした。 「親父さん、元気か?」 ミゲルの言葉には肩を竦めるだけで言葉は返さなかった。 とミゲルは遠い親戚の幼馴染で、家は軍人家系だ。 ミゲルがザフトに入るときに色々面倒を見たのはこの家でもある。そして丁度その頃、の父が倒れた。 現在はが家を支えていると言っても過言ではない。 代々続く軍人家系、つまりエリートと言う訳だが、それを快く思っていない人物も少なくなく、そんな感情を受けながらも彼女は独りで立ち続けなければならない。 何とか助けたいと思う一方で、自分は赤服ではないし、ましてやFAITHなんて大きな力を持つ立場のものでもない。何の力も持っていないのだ。 「ああ、そういえば」 思い出したかのようにが呟く。 「弟は、元気か?」 「あ?ああ。一応、元気だって聞いてる」 「それは良かったな。丁度明日はクリスマスだし、何かプレゼントでも買ってあげれば喜ぶぞ」 そう言っては立ち上がり一度伸びをする。 「じゃあ、またな」 そう言ってスタスタと屋上から去っていった。 今のの言葉で初めて思い出す。 今日はクリスマスイブだ。 屋上から下を覗き込めばきちんと軍服の前を合わせた、軍人の鑑を演じる・が歩いている。 「」 屋上から声を掛けると彼女は振り仰ぎ、眩しそうに目を細めて掌で影を作る。 ああ、ここはから見たら逆光か。 そんなことを思いながら、首から提げているロケットを外して投げた。 見えにくいはずなのに彼女は上手にそれを受けとった。 「やるよ。メリークリスマス!」 ミゲルの言葉には少し瞳を大きくして驚いたが 「1日早いぞ」 と笑いながらそれを軽く掲げ、そのまま背を向けて遠ざかって行く。 ミゲルは、そんな彼女の背中を暫く見送った。 |
桜風
07.12.20
08.1.14(再掲)
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