| 「、何してんの?」 夜中にひょいと厨房を覗き込んでラスティが声をかけてきた。 「ひゃあ!」 は一生懸命かぼちゃを刳り貫いていたため、声を掛けられるまでその存在に気づくことがなく、突然声を掛けられて悲鳴を上げる羽目に陥った。 「ラスティ..か。びっくりしたよ」 「俺は、の声にびっくりした。てか、それ何?の故郷の文化?」 台の上だと力が入りにくいため、床にシートを敷いてその上で彼女はかぼちゃを刳り貫く作業に入っていた。 「うーん、故郷の文化っていうか...なんて言ったら良いんだろう?もう今は残っていない文化みたいなんだけど」 イザークに聞いてみたらそんなのは知らないと言われた。 別に、自分の住んでいた日本でもそこまで馴染みのある文化というかイベントでもない。 が、知らない人間は少ないと思う。 「手伝おうか?」 「ううん、大丈夫。明日はパンプキンサラダだよ」 だろうなー、とラスティは納得した。 の傍にはあと数個かぼちゃが置いてある。 かぼちゃは結構硬いから力仕事だろうに。それを独りで作業するなんて... そう思って言ってみると 「ああ、違うよ。本当はチーフが機械で皮を剥くって言ってたけど、私がその皮がほしいってお願いしたからね。だったら、自分でやらなきゃ、でしょ?」 ラスティは肩を竦めて「手が要るようだったら声を掛けてよ。あと少し起きてるつもりだから」といい置いてその場を後にした。 「かぼちゃ?」 ラスティは自室に帰るつもりだったが、行き先をかえてみた。 「そ。さっき汗水流しながら一生懸命かぼちゃを刳り貫いてた。の家の宗教か何かかな?」 他人の部屋の冷蔵庫を開けてドリンクを勝手に飲んでいるラスティに眉を顰めたイザークは「たぶん、ハロウィンだろう」と応える。 「ハロウィン?って、何??」 同室のディアッカも問うた。知らない文化だ。日舞の仲間ではない文化のようだ。 「元は、秋の収穫を祝い悪霊を追い出す古代ケルト人の祭りが起源らしい。国によっては、かぼちゃの提灯などを飾って、仮装した子供たちが近所の家々からお菓子をもらうっていうイベントになっていたみたいだな。たしか、『Trick or treat』だったか」 「へー、態々そう言いながら家を回るんだ?お菓子をくれなきゃ、イタズラしちゃうぞーって。脅しじゃん」 少し感心したようにディアッカが呟き、 「だから、子供が回るんじゃないの?大人がそう言って回ってきたら俺はすぐに追い出す」 とラスティも応える。 「で、は何で突然ハロウィン?あ、もしかして今の時期なのかな??」 「いや、10月の終わりだ。もうとっくに過ぎている」 だから、最初この部屋を訪ねてきたラスティにかぼちゃの話を出されてもイザークはピンと来なかった。 が、先日にハロウィンについて聞かれたことを今更ながら思い出した。 「もハロウィンがいつの祭りかということくらいは知っているだろうに。何で態々時期外れのハロウィンなんて...」 溜息交じりにイザークが呟くとラスティとディアッカが顔を見合わせた。 「そりゃ、今残っていない文化を再現したら喜びそうな人物がいるからじゃないの?」 とディアッカ。 「あーあ。この話題もう飽きちゃった。じゃあ、俺部屋に戻るから」 そう言いながらラスティは部屋のドアを開けた。 「あ、そうそう。イザーク、知ってる?かぼちゃの皮って硬いんだよ」 そう一言投げて「おやすみ」と言って出て行った。 ラスティが部屋を後にしてからすぐにイザークがドアに向かう。 「イザーク?」 からかいの声音でディアッカが声を掛けた。 「散歩だ」 「へいへい。先に電気消して寝てると思うけど...」 「構わん」 短く応えてイザークは部屋を後にした。 「何でのトコに行くって言わないんだろうな」 少なくとも、同期の自分たちやいつも一緒に居るミゲルにはバレバレだというのに... 「まあ、そういうところは、可愛いよなー」 以前ミゲルがそう言っていたが、ディアッカも頷ける。 ただ、その照れ隠しに八つ当たりをしてくるときがあるから、それは勘弁して欲しい。 食堂に向かうとまだ電気が点いていた。 ラスティが部屋に来てから結構時間が経っている。まだ終わっていなかったのか。 「」 「いっ!」 名前を呼ぶと短い悲鳴のような声が耳に届く。 厨房の中を覗くとシートの上でかぼちゃを前に座っているが指を口に運んでいる。 「切ったのか?」 彼女の前に膝を突いてその顔を覗きこむ。 「まさに今」と苦笑しながらは返した。 もしかして自分が声を掛けたからか... イザークは少し責任を感じて「ちょっと待ってろ」と言い置いて食堂を後にしていった。 とりあえず、もうこれ以上は無理かな。 残りのかぼちゃは諦めて機械に掛けて皮を剥く。 結局、自分が作れたのは1個だけだった。あれだけ時間を掛けたのに、力仕事だったためか思ったよりも成果が得られなかった。 本当はもっと小さなかぼちゃで作った方が楽だし、可愛い。 しかし、それは食用ではないためこの船に積んであるはずがないから手に入れるなんて土台無理な話だ。 暫くして戻ったイザークが手にしていたのは救急箱というやつだ。 傷口を洗ってみたら血は止まっていた。 「もう大丈夫だと思うけど...」と遠慮がちに言うの言葉はイザークの耳に届かないのか、甲斐甲斐しく治療をしている。 包帯まで巻かれてちょっと大げさだな、と思ったがとりあえず嬉しかったし「ありがとう」とお礼を口にした。 「ジャックランタンか?」 「そう。でも、何かボコボコになっちゃった。初めて作ったから不恰好だよね」 恥ずかしそうにはそういう。 「初めて?はハロウィンをしたことがないのか?」 「うん、ないなー。聞いたことのあるイベントだけど、そこまで身近じゃないんだ。これも、私の記憶にあるジャックランタン。実際違うかもしれないんだけどね」 確かに、作り慣れているとは言い難い風貌のジャックランタンを目にしてイザークは苦笑した。 「そうか...、『Trick or treat』」 突然イザークのそう言われてきょとんとしたが俯いた。イザークは微笑み、唇を寄せる。 が、 「あった。はい」 はポケットから飴玉を取り出してイザークに渡す。イザークは寸止めに一応成功した。 「先生から昼間に貰ってたんだ。ミント系だけど、イザーク大丈夫?」 見事な肩透かしだ。 ちょっと色々と辛い思いをしながらイザークはそれを受け取った。 「ああ、別に嫌いじゃない」 「良かった」と微笑むにイザークは改めて肩を落とした。 でも、顔を上げたらの笑顔があったから「まあいいか」と呟き、貰ったばかりの飴玉を口に放り込んだ。 |
桜風
08.10.1
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