| 初めて訪れた砂漠。 見渡す限りの砂が広がるその世界はテレビや本でしか見たことがない。 「本当に有るんだよね」 いまいち現実味のなかったその風景が目の前に広がっていると不思議な感覚だ。 空を見上げると冴え冴えとした月が浮かんでいる。 地球に降りて以来毎晩月を見上げるようになった。 昼間は忙しいし、何よりいつ戦闘が起こるかもしれないからずっと艦内だ。 夜になると多少は規制が緩くなる。 今日もデッキに寝転んで空を見上げていた。何度か夜間に戦闘があったが、そのときは空を見上げるのは諦めているが、それでも時間が取れるときは空を見上げるようになった。 月を眺めながら自分が勝手にそう喩えた彼の髪を思いだす。 しかし、この砂漠で眺める月の光は少し違った。 此処まで明るいとは... 周りに光がないから意外と月が明るく感じる。 もっと柔らかい光を月光とイメージしていたのに... 「元気..かな?」 生きているか死んでいるか分からない彼の顔を思い浮かべて呟いた。 『死』というのはなるべく考えないようにしているが、それでも自分はこの艦に居て何度かそれを覚悟したことがある。 だから、それはありえない可能性ではないということだ。 誰かを失う喪失感と言うのは、何度か経験したがそれでも慣れることはないようだ。 少なくとも、自分は。 「イザーク」 呟いてみると余計に恋しくなった。 「あー...私、バカだ...」 何となくそうなるだろうと思って今まで彼の名前を声に出すことを控えていたというのに。 キィ、と扉の開く音がして慌てて起き上がった。 「お?先客か」 そうおどけた口調で言ったのはこの艦を守っているパイロットの一人、ムウ・ラ・フラガだった。 「ごめんなさい、私はもういいです」 そう言って立ち上がったの手を取ってそのまままた座らせた。 「まあ、いいから付き合えよ」 ジリジリとはフラガから距離を取る。 「おいおい。何でそんなに距離を取るんだ?」 「いえ、色々と耳に入った噂がありますので」 フラガの地球軍での噂は中々色のついたものも少なくない。食堂勤めのの耳には意外と噂話が入り込んでくる。 「ははっ。いくらオレでも凹凸のない子供に手は出さないって」 「それなら安心です」 はそう言って距離を取るのをやめた。 「いや、少しは疑った方がいいぞ?男は口では何とでも言えるんだからな。お兄さんは心配だなー」 少しの素直な性格が心配になる。 フラガの言葉を聞いては再び警戒し始めた。 「いや、オレは良いんだって。この先、他の男にそう言われて素直に信じるなって話」 そうやって自分を除外したものの、の警戒心は解かれない。 まあ、その方が後々彼女が酷い目に遭わずに済むからいいか、などと思いながら適度な距離を保ったままフラガは空を見上げた。 「おー、見事な満月だな」 「綺麗ですよね。でも、私月の光ってもっと柔らかいものだって思ってました」 の言葉を聞いてフラガは彼女を見る。 月を見上げているの瞳には『誰か』が映っているようだ。 それはそれで面白いものを目にすることが出来たな、と思いながら 「そうかー?月ってどちらかといえば冷たいだろう?オレはそんなイメージだったけどな。ほら、実際軍事施設があるしな」 「フラガ..少佐って夢がないですね」 あ、階級を覚えてないんだなとか思いながらを見る。指を折りながら何やら確認していた。 まあ、階級なんて馴染みがないんだろう。前は何処かの船の食堂で働いていたといっていたし。 「夢、ねぇ...お譲ちゃんは、月にどんな夢を持ってるんだ?」 フラガに言われては少し黙る。 「と、いうか。誰と重ねているんだ?」 フラガが追い討ちのように続けた言葉には驚いてフラガを見た。 フラガは笑いそうになったがそれは堪えた。こうも月の光で周囲を照らされると顔が赤くなるのも分かるものなんだな... そんな事を思いながらがどういう返答をするのか興味を持った。 「とても大切な人です。私をいつも助けてくれてました」 「恋人か?やるね、お譲ちゃん」 そう言ってフラガがからかうが、は静かに首を振る。 「いいえ、違います」 顔を真っ赤にしたからそうだと思っていたのに。 意外と片想いとかだったのかな、と少し残念に思って「そうか」とフラガは相槌を打った。フラガから見ては『いい子』だと思う。それこそ、同じ年代だったら気になる存在だったかもしれない。少なくとも、悪い印象を受けるような相手ではなかっただろう。 「さて、お譲ちゃん。もう中に入れよ。砂漠の夜は冷える」 「じゃあ、フラガ少佐も」 「いや。オレは、少し酔いを醒まさないと」 確かに、少しアルコールの匂いがする。 が思わず顔を顰めると 「付き合い。いいだろう、大人の特権だ」 「まあ、たいした量でもないでしょうから。これ、どうぞ」 そう言ってさっきまで自分が包まっていた毛布をフラガに渡す。 「風邪でもひかれたら大変ですから。おやすみなさい」 はそう言ってデッキを後にした。 「しかし、まあ。その彼は生きてるのかね」 聞きづらくて聞かなかった。 先ほどのの言葉は過去形だった。 だから、もう会えない存在なのかもしれない。 不用意なことは聞くものじゃないな... そう思いながらゴロリとデッキに寝転んだ。 あの子は、月の光に夢を馳せることができるところで育ったんだな... 今更ながらがここに居ることに違和感を感じた。 視線を月に向ける。 やはり冷たい光を放つそれに自分は夢なんて馳せることはできなかった。 |
桜風
08.9.1
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