Moonshine 15





ジュール家に着いてすぐにイザークの母、エザリア=ジュールに庭に案内される。

今日は天気のいい日だから庭のテラスでお茶をしようということになったのだ。

「さあ、さん。お茶を用意しますわ。そうだわ、ちょっと待っててくださる?」

そう言ってをテラスに案内したエザリアは屋内に入っていった。

「どうしたんだろ、エザリア様」

「さあな」

テラスに残されたとイザークは首を傾げつつエザリアが戻ってくるのを待った。


待たされること数分。

戻ってきたエザリアを見ては固まり、出された紅茶を飲もうと手にしたカップをイザークが落としてしまった。

「母、上...」

エザリアは大量のドレスを持ってきていたのだ。

「エザリア様、それは...?」

「ええ、さん。私のドレスですけれど、着てみませんか?」

「母上、いきなりどうされたのです?!」

突然のことに対処できていないに代わってイザークが疑問を口にした。

「だって、私も娘が欲しかったのよ。一緒にショッピングをしたり、お化粧をしたり、色々としてみたかったんですよ。でも、イザークは男の子でしょ?お化粧やドレスなんて無理じゃない?」

「...着てあげたら?ドレス。お母さんが喜ぶみたいだよ?」

「黙ってろ!」

エザリアが陶酔しながら語ってるのを余所に、とイザークがこそこそと会話をしている。

「だから、せめて可愛い女の子が我が家ににいらしてるときくらい、そんな気持ちを楽しみたいと思ったのよ。ダメかしら、さん」

窺うように、でもやっぱりイザークの母。強い意思を込めた瞳で見つめられたは気圧され、イザークに助けを求めるが、

「そうでしたか...母上、そのスカーレットのドレスは彼女の黒髪が映えてとてもいいと思いますよ」

先ほどのの言葉への仕返しとばかりにあっさり同意した。

「ちょ!」

がイザークに対して抗議の声を上げようとしたが、

「まあ!やはりイザークもそう思う?さん、こちらのドレス、着てみない?」

エザリアに制され、

「...そうですね。では」

と、(引き攣った)笑顔でドレスを受け取り、案内される別室に大人しく向かった。



少ししてイザークたちの前に姿を現したに、イザークは思わず息を飲む。

イザークの言ったとおりに、エザリアのスカーレットのドレスはの黒髪が映え、いつもの彼女とは思えないものがあった。

以前、ラスティが自分の軍服を着せてみたことがあったが、そのときは『赤い服が似合う』という程度の認識はあったがこれほどまでに彼女の魅力を引き出すとは思っていなかった。

あの時のはラスティの軍服ということもあって、だぶだぶで妙にアンバランスだったから気付くことができなかったのだ。

そして、それに皆が気づかなかったことにイザークは今、多少なりとも胸を撫で下ろす。

「まあ、良く似合ってるわよ、さん。ねえ、イザーク?」

「ええ。そうですね」

エザリアのリクエストもあり、はそのドレス姿のまま過ごしていたのだが、

「奥様」

「なに?お客様がいらしているのよ」

「申し訳ございません。先ほど評議会の方から連絡が入りまして、議会の招集が掛かった、とのことです」

メイドにそのことを伝えられ、エザリアは深く溜息を吐き、

「ごめんなさい、さん。これからまた会議が入ってしまったようだわ」

「お忙しいのですね」

「ええ。でも、今日はさんとお話が出来て楽しかったわ。また、プラントに戻って来たときにはいらっしゃいね?歓迎するわ。そのときにはきっとこの戦争も終わっているはずよ?」

そう言って慌しく用意を始めた。

エザリアは玄関まで見送りに出ていたとイザークの頬にキスをして出て行った。


「はぁ〜...」

エザリアの姿が見えなくなり、家の使用人がそれぞれの仕事に戻って行った後、は深々と溜息を吐いた。

「お疲れ。大変だったろう?」

「んーん。いいお母さんじゃない、可愛らしいって言ったら失礼かもしれないけど。なんていうか、私もお母さんを思い出しちゃって緊張しちゃった。お母さんと話をしたのなんて随分昔だったし」

そう言いながらは家の中に入っていく。

「そうか...あー。そのドレス、本当に似合ってるからな」

何となく、の後ろから家に入っていくイザークが呟くとくるりとが振り返り

「それって、諺でなんていうか知ってる?」

「ことわざ?いや、良く分からないが...」

「『馬子にも衣装』!」

そう言って笑って再び家の中に足を進める。


は着替え、ジュール家で食事を済ませてクライン邸までイザークが送る。

「本当、今日は悪かったな」

「ううん、楽しかったよ。...そうだ、イザーク」

「何だ?」

「うん。イザークって私の持ってる教科書とか凄く興味あるんだよね?」

「ああ。それがどうかしたのか?」

の言わんとしていることが分からないがイザークは頷き、続きの言葉を促す。

「あのさ、私がいなくなったら、あれ、イザークにあげるよ」

そんなの言葉を聞いてイザークは途端に不機嫌になる。 

自分たちは戦場に身を置く者だ。そんな自分たちの『別れ』と言ったら、いいものとは思えない。

それこそ、もう2度と逢えない、声が聞けない、つまり『死ぬ』ということを示しているのではないだろうか?

「えっと、あのね。死ぬとかじゃなくて、なんて言うかさ。私、過去から来たじゃない?ここの世界の人間じゃないでしょ?こっちに『来た』ということは、逆を言えば『帰る』ってことも有りだと思うのね?そのとき、傍に鞄が無かったら持って帰れないという事で、それなら、有効に活用してくれる人の手に有った方が良いなって思ってたの」

申し訳なさそうに言うを責めるつもりはないが、それでも『別れ』は聞きたくない。

ああ。...だが、俺はそれを望まない。お前のいない世界なんて...

「え?ごめん、ちょっと聞こえにくかったよ?も1回お願い」

「なんでもない」

バツが悪くてイザークはアクセルを踏み込む。

「ひゃあ!」






守りたいものが増えた。

それは不安定でいつ無くなるか分からない。

それでも、愛おしく思う。

そして、傍に居て欲しいと願う。

絶対に守ってみせる。そう心に誓う。




実はラスティに赤を着せてもらったことのあるヒロイン。
かなり赤のメンバーに可愛がってもらってますね(笑)
きっと船の中でも無防備なヒロインにイザ王子は気が気じゃないでしょうね〜...

桜風
05.4.3


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