Moonshine 34





砂漠を後にしたアークエンジェルは、インド洋を抜けてアラスカに向かっていた。

取り敢えず昼食の片づけが終わったは甲板に出ることにした。

「きっもちいい〜」

伸びをしながらは思わず叫んでいた。

「元気だね、

「あ?あ、キラか。もう、聞かないでよ」

一人で叫んでいたことを聞かれたは、少し赤くなりながら笑った。

「ごめん、聞こえちゃったんだよ」

「そんなときは、聞かなかったフリをするのですよ?」

腰に手を当ててイタズラっぽく笑いながら偉そうに言うを見てキラも笑う。

「ごめん、ごめん。今度からそうするよ」

「うん、お願い。『今度』もきっとあるから」

そう言って2人は並んで海を眺める。

「キラ、ちゃんと休んでる?」

「うん。も大変でしょ?」

「そんな事ないよ。皆良くしてくれてるから」

そう言ってが手摺に深く体重を掛けると『コツン』と金属の音がした。

「何か、持ってるの?」

「ああ、うん。私の宝物。仕方ないからキラには見せてあげるよ」

そう言って胸元から取り出したのは、青い石の飾りがついているあの懐中時計だった。

「僕が見ていいの?その、の宝物でしょ?」

「うん、いいよ」

そう言ってキラに手渡す。

「綺麗だね...この、の隣に居る人は?」

懐中時計の蓋を開けて目に入った写真の人物について訪ねる。

「お兄ちゃん。小さい頃に両親を亡くして、それ以来ずっと私を守ってくれてたんだ。最期まで、ね?」

そう言って兄の写真をなぞる。

「へえ、これがアンタの宝物?安っぽいわね」

不意に後ろから声を掛けられたかと思うとキラの手にしていた懐中時計が取られる。

「フレイ?!」

驚いたキラが振り返って、その人物の名を呼ぶ。

「ふうん、自分の家族を自慢したいんだ?でも、大したことないわね。それに、死んじゃったんなら、必要ないじゃない。こんなものッ!!」

そう言ってフレイはの懐中時計を甲板に投げつけた。

甲板を跳ねてそのまま海に海中時計が落ちそうになり、

「お兄ちゃんッ!!」

はそれを追って手摺を乗り越え手を伸ばす。

チェーンに指が絡まり、何とか海に落とさずに、失くさずに済んだと思ったが、自身が落ちていた。

!!」

必死にキラが手摺から体を乗り出して手を伸ばし、を掴む。

「手を、離しちゃ..ダメ、だからね」

そう言ってを引き上げてくれた。

「ありがとう、キラ」

「フレイ、に謝って」

キラに促されたが

「ふんッ!!」

そっぽを向いてフレイは甲板を去って行った。

「ごめんね、

「ううん、大丈夫。失くさずに済んだし、キラのお陰で生きてるし。..あ」

懐中時計の蓋を開けたは落胆の声を出した。

「どうしたの?...止まってる」

「壊れちゃったのかな?」

「待ってて、工具箱を借りてくる。僕が直せるかもしれないから」

そう言ってキラはを置いて甲板を出ていった。


少ししてドックから借りてきたのか工具箱を持ってキラが戻ってきた。

「僕が触ってもいい?」

「うん、お願い」

懐中時計を慎重に解体しながら

「アスランなら、こういうの得意なんだけどな」

とキラが呟いた。

「アスラン?!」

知っている人物の名前を耳にしたは思わず聞き返す。

「え、あ...うん。僕の月の幼年学校で一緒だった幼馴染なんだ」

「あの、ザフトに居るとかいうキラの友達って...」

「うん、アスランのことなんだ。こういう細かいのが得意で、僕のトリィもアスランに貰ったものなんだ」

「昔からモノ作りが好きだったんだね、アスラン」

しみじみと、懐かしむようにがそう言った。

「え?もアスランのこと知ってるの?」

「うん。お世話になったよ。他にも、コーディネーターの友達居るよ」

「そうなんだ...」

何だか嬉しそうにキラが呟き、「あれ?」と言って手を止める。

「何?もうダメ??」

「いや、そうじゃないよ。ほら、何か内蓋みたいなのがある」

そう言ってそれをに見せる。

「何だろ。文字のようだけど、でも、読めないや。模様かな?」

そこには

『宇治川の 水泡逆巻き 行く水の 事反らずぞ 思ひ始めてし』

と書いてある。

万葉集だ。

こんなことをするのは、いや、出来たのはただ独り。

この懐中時計をプレゼントしてくれた、あの月の光の髪を持つ少年。

?!どうしちゃったの?どこか痛いの??」

涙を流すに慌ててキラが声を掛ける。

「何でもないよ。大丈夫、ありがとう...」

「でも...」

尚も慌てたままのキラに向かって

「これをくれた人を思い出しちゃっただけ。とても、優しかった...私に真実を教えてくれた人。私を気に掛けてくれてた人。私の、大切な人...」

「そう...」

それ以上何も聞かずに、キラは時計を直してくれた。




えーと、歌の意味。というか、意訳?
『動き始めた、君への想い。もう戻れない、君への想い。』
だそうです。
この話には和歌を入れたいと思っていたのですが、中々いいのが見つからず(というか、多すぎ!!)。
ネットサーフィンをしていたときにステキなサイトに出会い、さらにその意訳にほれ込みこの歌にしました〜vvv


桜風
06.1.15


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