Moonshine 45





帰艦しながらイザークはメンデルでのディアッカの言葉を反芻する。

が生きている?あの足付きに居る...?)

俄かに信じがたいことだった。

しかし、いくら軽薄そうなディアッカでもついていい嘘と悪い嘘くらいは分かるだろうし、それに、嘘ならディアッカの口からそんな言葉が出るはずがない。

ディアッカも、を妹のように可愛がり、心から心配をしていた人物の一人だ。

イザークは反転して戻る。

自分の目で確かめることにした。


「艦長、モビルスーツが1機、艦に近づいてきています」

「何ですって?!」

1機だけで何をしようというのか。

分からず迎え撃つ用意だけはしておくことにした。

少ししてモビルスーツがモニタに映った。デュエルだ。

「一体、どういうつもりかしら?」

ブリッジに来たフラガにマリューは声を掛けた。

「さあ、な。でも、1機だけで来るなんて軍人としてはオススメできない作戦だな」

そうこうしているうちに、デュエルから通信が入った。

「こちらはザフト軍クルーゼ隊所属、イザーク・ジュールだ。貴艦に聞きたいことがある、艦長と話がしたい」

「こちらはアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです。聞きたいこととは何かしら?あなたは何をしに戻ってきたの?」

マリューが応える。

「貴艦に『』というクルーがいると聞いた。それは本当か?本当なら話がしたい。許可して欲しい」

マリューとフラガは顔を見合わせ、お互い首を傾げた。

しかし、マリューはミリィに指示を出して艦内放送をかける。

放送で呼ばれたは、呼び出される何かをしてしまったかと悩んだが、心当たりがない。

ディアッカも面白そうだと言ってついてきた。

「艦長、です。お呼びでしょうか?」

ブリッジに上がっては敬礼をして声を掛けた。

「彼が..あなたに話があるそうよ?」

そう言ってモニタを見遣る。

もそれに倣ってモニタを見ると、デュエルのコックピットを開けてそこに立っているイザークの姿があった。

「イザーク?!」

一緒に来ていたディアッカが驚きの声を上げた。

は呆然とモニタ越しではない、艦から直接見えるイザークを見ていた。

その様子を見てディアッカはミリィに何か話しかける。

「さっき、ディアッカからがこの船に居ると聞いたからな。...本当に居たんだな」

「うん、ずっと。ずっといたんだ、この船に」

「そうか...生きていてくれて嬉しいが、心苦しいな」

「そう、かもね。でも、イザーク。イザークは自分の選んだ道を進んでよ。イザークの守りたいものを守ってよ」

「...は、何でその船に乗っているんだ?」

「そうすることを選んだの。色んなものを見た。いろんな言葉を聞いた。それで、私はこの船に乗って、最後まで見届けたいと思った。
海の上で見た夕焼けはラスティを思い出した。オーブの緑は優しいニコルと一緒だった。アラスカに行くときに見た朝日は、ミゲルのようでほっとした。
ねえ、イザーク。覚えてるかな?
皆に戦争が終わったら、って夢を聞いたよね。ミゲルは弟さんと遊んであげたい。ニコルは大きなホールでピアノの演奏会を開きたい。ラスティは、世界中を旅したい。皆それぞれ夢を持っていたよね。それで、きっと皆が描いていた未来は同じだったと思うし、その未来に一番近いものを作れるのは、今、私が歩いている道だと思っている。少なくとも、私はね?
もし、皆がいたら『違う』って言うかもしれない。でも、私が望む未来は今歩んでいる道の先にあるんだと思ってる。だから、私はこの道を進むことを選んだ。
今の時代、どの国でも話されている言葉が一緒だよね。それは何のため?きっとお互いを理解するため。私たちの手は何のためにあるの?銃を握るためじゃない。手を取り合うためだって思う。綺麗事だって分かってる。私の行動が矛盾していることも分かってる。
でも、私はこの道を歩くことにした。ありがとう、イザーク。イザークの顔を見たらほっとしちゃった」

そう言ってはイザークにはにかんだ笑顔を向ける。

「そうか...道を決めたのか」

「うん。あ、そういえば、コレ。見つけちゃったよ、歌」

そう言って懐から懐中時計を出して軽く振る。

イザークは驚いた顔をした後「見つかったのか...」と苦笑をした。

「ねえ、返歌、いいかな?」

「ああ」

あの歌を見たときから、この歌を返すことを決めていた。

朝霜の 消やすき命 誰がために 千年もがもと 我が思はなくに

の歌を聞いてイザークは目を伏せる。

そして、

「もうひとつだ、。『
君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな』」

「え?ええ??」

歌の意味を知っているはどう返していいか分からずに赤くなって頭を抱えた。

そんなの姿をイザークは満足そうに見て、

「艦長...」

とマリューに声を掛けたが

「大丈夫、ドックなら空いてるぜ?何てたってこの船はGシリーズ5機を乗せる予定だったんだからな。な、艦長?」

そう言ってディアッカはマリューを見た。

事態が飲み込めないマリューは曖昧に頷いた。

「艦長、俺は貴艦と共に戦いたい」

はっきりとそう言ったイザークには驚き、

「イザーク!何を言ってるの?!」

声を掛けた。

「俺が守りたいものは故郷のプラントだ。そして、もうひとつある。それの両方を守るにはこの艦で戦う以外の道が思い浮かばない」

まっすぐを見つめてイザークはそう言った。

「えーと、許可、してもいいのかしら?」

判断しかねたマリューがフラガを見あげると、フラガはいつもの軽い口調で「ま、いんじゃないの?」と答えた。

「そうですわね、許可します。よろしく、イザークくん」

「よろしくお願い致します。、返歌は船の中で聞くからな」

そう言ってイザークはコックピットを閉めてデュエルを動かす。

は頭を抱えてひとりその場をぐるぐる回っていた。


ディアッカに手を引かれてはドックに向かう。

「どうしよ〜...」

「自分の気持ちを言えばいいだけじゃん。何深く考えてるんだよ?」

「でもー...」

「でもじゃないだろ?!しっかりしろ!大和撫子!!」

わけの分からない発破をかけられた。


ドックに着くとイザークが先に来ていた艦長たちと挨拶をしていた。

「では、これからよろしくね」

「はい、お世話になります」

艦長との挨拶は済んだらしく、艦長たちがドックから出てくる。

「もう、イザーク君と話しても大丈夫よ」

そう言ってマリューは何かを悟ってるような笑みをによこした。

「イザーク...」

「やっと、逢えたな」

そう言ってイザークはの髪を梳く。

天地と いふ名の絶えて あらばこそ 汝と我れと 逢ふことやまめ

俯きながらはそう言った。先ほどのイザークへの返歌だ。

それを聞いてイザークはに愛おしそうに触れて

「もう、離さない。必ず、俺が守るから」

優しく口付けた。




歌の意味。というか、意訳
『朝霜の 消やすき命 誰がために 千年もがもと 我が思はなくに』
人の命なんて、消えやすいもの。簡単に消えてしまうもの。
それでも、あなたのためなら、いつまでも生きていたいの……
『君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな』
あなたのためなら惜しいとは思わない命も、あなたと会ったあとの今は、
長く生きたいと思うようになったよ。
『天地と いふ名の絶えて あらばこそ 汝と我れと 逢ふことやまめ』
空も大地もなくなってしまう、そんな時。
そんな時には、キミとボクが会うこともなくなるんだろうね……
世界が終わるまで一緒にいようね。

『君がため〜』をイザ王子に言って欲しかったというか...
この歌をヒロインに送ってもらうためにこの連載はやって来ましたよ〜。


桜風
06.07.02


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