| 「本当にいいのか?」 議長の執務室でカナーバが問う。 「はい。今の私に出来ることは全てしました。プラントの復興計画も順調ですし」 迷うことなくイザークは頷いた。 「だが、任期が終了するまでにまだ幾分か時間はあるぞ?」 「ええ。でも、決めました。私の我侭を聞いてくださってありがとうございます」 「いや。こちらこそ、ずいぶん君には助けられた。ありがとう、イザーク・ジュール」 「では、失礼します」 「ああ、待ってくれ。・嬢のことで少し提案があるのだが」 突然カナーバ議長の口からの名前が出て少し構える。 「そう警戒しないでくれないか。彼女は、クライン家の遠縁だったな」 そういえば、そんな設定だったと思い出す。 「ええ」 「だが、今はクライン家はない」 「そうですね」 何が言いたいのか読めない。 「もし、必要があったら私が養女に迎えてもいいかと思う」 そういわれた。 「は!?」 思わず素っ頓狂な声が出た。 「いや。必要なら、という話だ。ジュール家も格式のある家だから色々あるだろう。一応、身元くらいはしっかりしておいた方がいいのではないかと、思ってしまってな」 そりゃ、身元がしっかりしているに越したことはないが。 思いもよらない展開にちょっと思考がまとまらない。そんな中、突然ドアが開いた。 白衣を着て何故か腰に手を当てて仁王立ちしてるラファエル・ティンバー女医だ。 「ちょっと待った!」 「何だ?」 もうどうとでもなれとイザークは溜息混じりにそう言う。 「叔母様。よくお考えになってください。叔母様もカナーバ家という格式のある家。確かに、同じくらいの格式の家同士が婚姻関係を結ぶのはいいことだと思います。ただ、そうなるとが政治的に利用されかねません。 生まれたときからそういう世界にいるイザークたちとは違ってとても大変だと思います。なので、は私が貰います」 イザークは心から『ちょっと待ってくれ』と突っ込んだ。 ラフのいう事は確かに分かる。駆け引きとかそう言うのが一切苦手な性格だ。 だが、ラフがもらうって事はラフの娘になるとかそういうのになるというコトで...ラフが自分の義母になるというのか... 非常に大変だと思う。というか、できれば避けたい。 「別に今のままでも困らないんじゃないか?」 「困るわよ!いい?後ろ盾のないは狼の群れに投げ込まれたいたいけな子羊なの」 何だ、その例えは? 「だから、それを守るには。狼すら寄せ付けない何かがあればいいでしょう?」 「あ、ああ...」 「私は医師として権威を持っている。あ、これ自慢ね?そして、政治的要素がないから利用されることがない。寧ろ、私が後ろ盾についててあの子を利用しようなんて思う輩がいたら名刺交換をしたいくらいだわ」 相変わらずの自信満々発言だ。 「というわけで、後ろ盾のために養女にもらうわ。早くを迎えに行きなさい」 ビシッと指さされてしまった... 「まあ、・が上がってきたときに改めてその意思を聞けばいいだろう」 「叔母様には負けませんわよ」 何だか、本人が与り知らぬところで火花が散っている。 空に上がってきて早々大変だろうなー、と思いつつイザークは予定通りオーブに降りる手続きを済ませた。 仕事が終わると着信があった。 『?』 「え、イザーク?こっちに来ているの?」 さすがにプラントとオーブの間でこの電話は使えない。 『ああ。今何処だ?』 「仕事が終わって帰るところ」 『じゃあ、迎えに行く。そこで待っていてくれ』 そう言って通話が切れた。 今、『迎えに行く』と言った。 これは一体どういうコトだろう? プラントの方での議員の任期はまだあるはずだ。選挙のニュースは流れていない。 取り敢えず言われたとおりに大人しく待つことにした。 クラクションが鳴らされ、振り返ればイザークがいる。 「早く乗ってくれ」 後続車からクラクションが鳴らされている。 は慌ててイザークの助手席に乗った。 「どうしたの?仕事は?」 声を掛けても気もそぞろといった感じで生返事しか帰ってこない。 暫く走って岬までやってきた。 イザークが降りて、もそれに倣う。 「」 「何?」 「迎えに来た」 その言葉が何を指しているのか分かったは言葉がない。 もう少し先だと思っていた。だって、プラントの議員のニュースは... 「プラントの復興は?まだ任期あったんでしょう?」 「今の俺が出来ることは全部やったつもりだ。だから、迎えに来た」 そう言って、の左手を取る。 「この世界での、これから先のの未来を俺に預けてほしい。愛している」 そう言って薬指に口付けを落とす。 は「はい」と掠れた声で答え、深く頷いた。 夕陽のオレンジがイザークの髪を照らして染める。 その光景を見て、の瞳から雫が零れる。 イザークはそれを唇で掬い、そして優しく口付けた。 がプラントへ行くという話はすぐに皆に伝わった。 元々荷物が少ないは引越しの準備にそう時間はかからない。 それでも、荷物を減らすために孤児院で使ってもらえるものは寄付させてもらった。 送別会を開いてもらったし、別れを惜しまれた。 改めてありがたいことだと実感する。 がプラントへ行く日にはアークエンジェルのクルーが見送りのために大勢集まった。 口々に別れの挨拶をして、もそれに応える。 「、そろそろ時間だ」 「あ、うん」 少し離れたところからイザークが声を掛けてきた。 の荷物はトランクひとつに纏まっている。 「じゃあ皆さん。ありがとうございました」 「しっかりね」とマリューが声を掛ける。 「連絡頂戴よ」とミリィが笑う。 「元気でな」カガリが言う。 「気をつけてくださいね」とラクスが微笑む。 「ありがとう」 は笑顔で手を振り、シャトルの中へと向かった。 プラントに上がると、嫁・姑戦争ならぬ、姪・叔母戦争が勃発していた。 一応、議会の代表であるカナーバ議長のところに移住のための挨拶をしに行ったに、彼女は自分の養女にならないかと提案したが、それを遮るようにラフがやって来て自分のところに来るように強く勧める。 本気だったのか... と半ば呆れながらイザークは静観していた。 が選んだのは、やはりと言うか、予想通りにラフだった。 カナーバ議長は悔しそうだったが、祝福してくれた。 がプラントでの生活の説明を受けている間、席を外していたイザークは手持ち無沙汰に廊下で待っていた。一緒にを待っているラフが 「そういえば、就職決まってたのね。後輩を育てるって聞いたわ」 と思い出したように言う。 昔、自分がアカデミーに通っていたときの教官から指導者にならないかと打診があった。 議員を辞めた後の職に良いと思い、それを引き受けたのだ。 「当然だろう」 「まあね。プーにはあげれないもんね」 「ところで、ラフ」 「何?」 「俺はラフに『ご息女との婚姻を許可していただけないでしょうか』と申し入れに行かなければならないのか?」 非常に重要なことである。 「あー、いいわよ、そんなの。でも、すぐに結婚って無理だから」 「...何故だ?」 前途多難なのは解っていたと思う。そのつもりだ。 でも... 「だって、まずはが此処での生活に慣れないと。此処で生活したのって前にヴェサリウスの事故の後のちょっとじゃない」 確かに。 イザークは諦めの息を吐いた。 「了解」 数ヵ月後。 とイザークは多くの人たちに祝福されて式を挙げた。 一時は離れ離れとなり、敵同士となった2人は再会して永遠の愛を誓い、結ばれる。 幸せな家庭を築いたその後も色々とあるが、変わらず周囲に愛される2人だった。 |
これでSEED連載を終了です。
うーん、長かったですね...
皆様のお陰で、此処まで長い連載を続けられました。
最後までお付き合いくださった皆様、どうもありがとうございました。
桜風
07.5.20
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