My dear 2





「おはよう」

いつの間にか寝てしまっていたらしい。

目を開けるとラフが寝顔を覗き込んでいた。

「ご、ごめんなさい!」

「いいのよ。さて、診察してみましょうか?大丈夫?」

「お願いします」

少し、診察らしいものが行われた。

そして、ラフは徐にバッグの中から何やら長細い箱を取り出した。

「はい、これね」

そう言って渡されたものをまじまじと見て、そしてラフを見る。

「市販のものだけど。今日来る途中に買ってきたの。使い方、分かる?」

「箱に、書いてあります...」

呆然としながら箱に書いてある説明を読んだ。

「あの...」

「たぶん、間違いないと思うんだ。前に生理があったのは?」

ラフに言われては考えて、そしてハタと気がつく。

「ね?」

にこりと微笑んでラフが同意を求めた。

「生活環境が変わったからかと思ってたんですけど...」

「ま、それを使ったらきっと出る答えよ。今は授業中だから人に会うことは少ないと思うわ」

ラフにそう促されては保健室を後にした。


戻ってきた

「陽性、とかって出たんですけど...」

と呆然と呟く。

「おめでとう」

本当に嬉しそうにラフが微笑む。

の話だと、今3ヶ月ってところね」

何だか現実味のない話のような気がする。


の記憶の中の母はとても偉大だった。

イザークの母のエザリアだって凄く偉大な存在だと思う。

「女ってのは、子供をおなかの中で10ヶ月守っているうちに母になるのよ。だから、今のがあなたのお母様やエザリア様のようだなんてチャンチャラ可笑しい話なの。
...ゆっくりでいいのよ。大丈夫、は『ゆっくり』って得意でしょ?」

コクリと頷く。

「でも、そっかー。私にとっては、ある意味、戸籍上孫に当たる子になるのよね?」

ラフに言われては噴出す。

「そうなりますね」

「絶対に、その子には私のこと『お祖母ちゃん』とか呼ばせちゃダメよ!」

「じゃあ、何て?」

「『お姉ちゃん』?んー、これは流石に図々しいとか言われるかな?あー、じゃあ。『ラフ』でいいわ」

「気の早い話ですよ」

ラフの言葉にが笑う。

「いいじゃない。中々お目にかかれないんだから、今の私たち、コーディネーターには、さ」

ラフが優しく微笑んでそう言う。

「今は、きっとつわりの期間なのね。栄養は摂取しないといけないけど、体がそれを受け付けてくれないのね。辛いわね。一応、文献漁ってみるけど、エザリア様に話を聞いてみるのも手かもよ?先輩の生の声を聞いた方がいいかもね」

ラフの言葉にが頷く。丁度チャイムが鳴った。



次の時間、授業を持っていないイザークは急ぎ足で保健室に向かう。

ラフはもうを診てくれたはずだ。

「よう、イザーク」

同じくアカデミー勤務のディアッカと廊下で擦れ違ったが取り敢えず無視をしてズンズンと保健室へと向かう。

廊下を走らないのは一応、『冷静でいろ』といつも生徒に教えている立場上やむをえない事情だ。

「何だよ、イザーク。俺は無視?」

「うるさい!」

久しぶりにイザークに怒鳴られたディアッカは驚いて一瞬足を止めたが、またイザークについて歩く。ディアッカも次の授業は休憩だ。

、元気?」

「最近体調が良くない。だから、今日連れてきた」

「ああ、ラフが来る日だもんな。え、じゃあ。心配だな」

「だから、キサマに構ってる時間は一瞬たりともない」

親友に対して酷い言いようだ。もしかして、イザークのことを親友と思っているのは自分だけなのだろうか?

少しだけ不安になった。

「エルスマン教官」

廊下で声を掛けられた。どうやら質問があるらしい。の居場所は分かったから後で追いかけよう。

そう思いながらディアッカは足を止めて生徒の質問を受ける事にした。


一応ノックをしてドアを開ける。

の顔を見て、イザークは安心した。元気そうだし、診察後だというのに明るい表情だ。

つまり、悪い病気ではないのだろう。

、ちょっと席外してくれるかしら?」

ラフに言われては首を傾げながら「はい」と返事をして廊下に出る。

自分が来た途端態々に席を外せとラフが言う。言い知れぬ不安がよぎり、胸を締め付ける。

「イザーク、こっちにいらっしゃい」

ラフの言葉が異様に重く感じる。

ゆっくりと足を動かしてラフの前に座る。



生徒の質問に答え終わったディアッカが足早に向かった保健室の前に佇むの姿を見つけた。

「お、!体調悪いって聞いたけど元気そうじゃん!てか、太った?」

「あ、ディアッカ。久しぶり!そして、久しぶりに会った女性にそれは失礼だと思う...」

少し、気恥ずかしそうに笑いながらは応えた。

「さっきイザークが鬼の形相で廊下を早歩きしてたんだぜ?あんなカリカリしてるイザークなんて本当、久しぶりで懐かしいけど、ビックリした」

苦笑を浮かべながらディアッカがさっきのイザークを思い出しながら言う。

「ホント?あ、でも。さっき保健室に来たときのイザーク、ちょっと髪が乱れてた」

も笑いながら応えていたが

『ふざけるな!』

という保健室の中から聞こえてきたイザークの声にディアッカとは顔を見合わせる。

本当に、アスランにチェスで負けたときのような癇癪をおこしている声だった。










桜風
07.6.20


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