| 「ねえ、イザーク。これは提案なのだけど、さんが落ち着くまでこの家で働いてくれている人、何人か貴方の家で手伝ってもらうというのはどうかしら?」 食事の時にエザリアが持ち出した。 母の申し出は有り難いが、がどう言うか... 今、は食事の匂いがダメなのでこの部屋には居ない。 「と話してみます」 「そうね。ずっとと言うわけではないのよ。育児が落ち着くまで、とわたしは思ってるの」 たしかに、ここ数日体調不良の原因が分かったからか、は調子がいいと言っているが、助けがあったほうが楽なのではないだろうか? それに、自分が家を留守にしている間、が一人となると心配で後輩の育成なんぞしていられない。寧ろ、そんなものどうでもいいとか思ってしまうこと請け合い。 その日はジュール邸に泊まる予定で、勿論その予定通りにした。 「、さっき母上から提案されたんだが...」 「メイドさんたちのこと?」 言う前に答えられてイザークは目をぱちくりとした。 「私もエザリア様のお話伺ってるときに言われたの。イザークは、どう思う?」 「正直、ありがたい事だと思う。その方が俺も安心できるし」 素直にそう言った。 「そう..なんだよね。私もそう思った」 そう言ってはイザークを見上げる。 「じゃあ、言葉に甘えて頼む事にしよう。期間は、の様子を見ながらということで」 「うん」 翌朝、エザリアに昨晩話したことを話すと嬉しそうに快諾した。 しかも、昨晩のうちにイザークの家に誰を送るか考えてリストまで作ったらしい。 「しかし、我が家は此処のように大きくないので住み込みというわけには...」 「大丈夫。彼女たち用にマンション借りる手配も済ませてあるの」 相変わらず手際がいい。 さすが、元マティウス市を代表していた評議員だ。パイプはまだ生きているらしい。 メイドが家に来るようになってイザークも落ち着いて出勤できる。 母の選んだメイドの中には、出産経験者が居るという。とても心強い。 兎にも角にも。一応、『後輩を育成してもいいかな』、と思う生活環境が整った。 「イザーク」 アカデミー内を歩いていると名前を呼ばれた。 自分の名前を呼び捨てにする者なんて、この敷地内ではディアッカのみだ。恩師は『ジュール』と呼ぶし。 そして、この聞き覚えのある声にイザークは無意識に顔を歪める。 振り返ると趣味の悪いサングラスをした人物が立っていた。 「迷子か?」 「何で、俺がこの中で迷うんだ」 溜息を吐きながら彼が言う。 「どっちで呼んだらいい?アスランか?アレックス、とか言ったか?」 「もう偽名は使ってないよ」 そう言ってアスランはサングラスを外した。 終戦したての頃は、何かと面倒が起こる可能性があったためアスランは偽名で生活していた。 が、今はもう世界もかなり安定しており偽名を名乗るのをやめたのだ。 ふん、とイザークは鼻を鳴らす。そんなこと、知ってる。 「何の用だ?」 「戦友に冷たいな」 誰が、戦『友』だ。 「のこと、聞いたよ。おめでとう」 素直にそう言われてイザークは面食らう。ぼそぼそと「ああ、ありがとう」と答える。 「で、俺がイザークに会いに来たのは他でもない。イザークに頼まれたっていうラクスからの預かり物と、あと、カガリとミリアリアからも」 そう言って何やら中身が詰まっていそうな紙袋をくれた。 中を覗くと、出産育児関係の地球の書籍が詰まっている。前に頼んだときあまり時間をおかずに第1便を送ってもらったがまだ探してくれていたようだ。その他、手紙やぬいぐるみやら入っている。 「ああ、すまない」 「カガリもこっちに来てるんだ。仕事だけどな。時間が取れたらに会いたいって言ってるんだけど、家の方にお邪魔しても大丈夫か?」 「ああ、家の方に事前に連絡をくれたらいいぞ。メイドが来てくれてるし」 アスランが少し驚いた表情をする。確か、はイザークがメイドを雇うといったら即行断ったと聞いたのだが... 「母の提案だ。その方が安心だしな」 アスランの表情で考えていることを察したイザークが肩を竦ませてそう言う。 アスランはなるほど、と苦笑しながら頷いた。 「しかし、アカデミーも変わったな」 廊下からグラウンドを見下ろしながらアスランが呟く。 「まあ、兵士を育てるだけの施設ではなくなったからな」 少しずつだがカリキュラムが増えている。軍人になりたい者や学者、研究者色々ある。 校内の雰囲気もだいぶ変わった。 「ザフトも変わったんだろう?」 「ああ。オーブ軍と同じような理念になったな。いや、元々そういうものだったはずだが」 つまりは、『自衛目的以外の軍事行為を禁ずる』といった感じだ。 自衛のラインが難しいと思うが、まずは話し合いというルールがある程度出来ている。 とは言え、条約なんて役に立たないのが戦争だ。 それは自分たちが身を持って知ったことだし、実践した。 「じゃあ、俺も戻らないと。これでもカガリの護衛なんだ」 「護衛が抜けてきてどうする?」 苦笑しながらイザークが言うと 「ホントにな」 アスランも笑いながら答えた。 「じゃあ、」とアスランが軽く手を挙げ、イザークも「ああ、」とそれに答えて手を挙げる。 大きな紙袋を提げてイザークは自分の教官室へと向かう。 本当に、色々変わったなと先ほど会話をしていた相手との付き合いを思い出して微かに笑った。 |
桜風
07.7.11
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