My dear 8





明け方、が居るはずの方から唸り声が聞こえる。

はっきりと覚醒しないイザークがうっすら目を開けると微かに「イザーク」と呼ぶ声が聞こえる。

それがの声だから瞬時に頭がはっきりとした。

体を起こしての顔を覗く。

「どうした?」

「来たかも...」

の言う『来た』が何を指しているか分かったイザークは飛び起きた。

そして、ハタと止まる。

「何をしたらいい?」

「先生に連絡して。そして、病院に連れて行って...」

言葉もなくイザークは寝室を後にした。


途中ガタン、バタンとさまざまな音が家の中で響く。

「ラフ!」

『んー?』

ラフが寝惚け眼をこすって通信に応じる。

「今、が『来たかも』って」

その言葉を聞いてラフは一気に覚醒した。

『分かったわ。今すぐ向かうから、を病院に連れて行って』

「でも、予定よりまだひと月も早い...」

『ま、相手は人間。数字どおりに行かないものよ。事故らないように!いいわね!しっかりしなさい。今、が頼れるのは貴方だけなのよ』

そう言ってラフは一方的に通信を終わらせた。

暗くなったモニタを呆然と見つめていたイザークの頭に先ほどのラフの言葉が響く。


急いで寝室に戻ると何とか外出着に着替えたが居た。

いつ出産という話になっても良いようにある程度荷物はまとめて鞄につめて用意していた。

イザークも適当に着替えてを支えてエレカに乗って病院へと向かう。

「大丈夫か?」

「うん、まあ。大丈夫だと思う。先生は?」

「すぐに向かうと言っていた」

「じゃあ、安心だね」

そう言って笑うの顔から痛みの表情は抜けていない。

イザークは可能な限りの一番最短距離を選びながら病院へと向かった。


病院に着くとラフが連絡してくれていたのか、対応が早かった。

病室に案内されては少し落ち着く。

「イザーク、お仕事は?」

にいわれて「休む」と答えた途端、「働け」と病室の外から声を掛けられた。

「ラフ!?」

、私が居るからもう大丈夫よ」

そう言ってにこりと笑う。

「な、何で?プラントは..シャトルは...」

まだシャトルの始発位の時刻だ。

「ああ、アレね。運命ってヤツよ。友達の家に泊まってたの。そしたらイザークの情けない声で起こされてさ。もうビックリ!」

「な、情けないとか言うな!!」

「うるさい、病室で騒がないの!」

その場に居合わせた看護師とは「どっちもどっちだと思う...」と感想が浮かんだ。

「どんな感じ?」と看護師に話を聞いたラフは

「ま、ペロって生まれないんだから仕事してきなさい。しっかり稼いでくるのよ〜」

既に追い出しモードで、しかも大人しく追い出されてしまったイザークは仕方なしに一度家に帰り、出勤する事にした。


「よー、イザーク。浮かれない顔してるな。と喧嘩?」

アカデミーではいつもの調子でディアッカが声を掛けてくる。

何の反応も示さず、ただ、一瞥してイザークは歩き出す。

いつもだったら「ふん、そんなものするか」とか「キサマのところとは違う」とか言うのに。

に何かあった?」

ディアッカのその言葉にイザークは少なからず驚く。

ディアッカはこういう勘がとても鋭い。

今朝の話をすると何故か

「え、待って。ちょっと待ってくれ。何、どういうコト?早くない??」

ディアッカも目いっぱい動揺し始める。

「ああ、早いな」

他人が動揺すると落ち着くのは何故だろう、と全く今の状況に関係ないことをイザークは思いながら再び歩き出す。

後方では、未だに混乱しているディアッカが残されていた。



昼過ぎにアカデミーの方へ連絡が入った。

が分娩室に入ったという。

病院に向かうべく早退しようとしたが、一緒にラフからのメッセージを聞いて思い留まる。

『これからのすべき事を、できる事を精一杯やるの。イザークはイザークのやるべき事を済ませて病院にいらっしゃい。大丈夫、プラント一の名医がついているんだから』

そんなメッセージだった。

いつの間にかラフの自称は『ザフトの名医』から『プラント一の名医』に変わったらしい。

それはともかく、大人しくその日の勤務を済ませてまっすぐ病院へ向かうと、連絡を受けたのか母が居た。そして、驚いた事に地球からものことを心配してやってきている人物たちが居た。

何処から聞いたのか、と悩んだが、ミリアリアの姿を見て情報源がディアッカだと察しがつく。




「イザーク、少しは落ち着きなさい」

母に窘められる。

が分娩室に入ってから既に12時間は過ぎている。

落ち着かないイザークは廊下を行ったりきたりしているのだ。

「はい」と返事をして廊下に備え付けてある椅子に座るが、全く落ち着かずまたウロウロとし始める。

「イザーク、何か食べてこいよ」

ディアッカに促されるが、「ああ、」と生返事を返すだけだった。

ディアッカはカガリの代わりと言ってプラントに上がって来たアスランと顔を見合わせて溜息を吐く。

たぶん、今は何を言っても心此処にあらずといったところなのだろう。










桜風
07.8.1


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