My dear 9





空が白み始めた頃、分娩室の中から赤ん坊の泣き声が聞こえた。

廊下をウロウロしていたイザークも足を止める。

呆然としたようにゆっくり分娩室の前へと足を動かし、そして、その扉が開いた。

は!?」

出てきたラフに一言そう聞く。

「ち、近い...」

あまりにもドアの側、近いところにいたイザークはラフが出てきたすぐ目の前に立っていたことになる。

ラフは一歩イザークと距離を取り、そして微笑む。

いつもの自信満々なちょっと小馬鹿にしたようなそれではなく、優しく目を細めて。

イザークの頭を撫でて

は無事よ」

そう一言言った。

イザークがきょとん、とラフを見返す。

「イザークは一番にの心配をしたから褒めてあげたの。あの子、凄く頑張ったんだから。弱音ひとつ吐かずに。勿論、子供たちも頑張ったわ。貴方の誇れる家族よ」

そう言ってラフは廊下を歩いていく。エザリアの前に差し掛かったときにはお互い深く頭を下げあった。


「子供、たち...?」

イザークが呆然と呟く。そういえば、赤ん坊の泣き声が少し多いような...

「お父様、ですね?」

中から看護師が出てきた。

「はい」

「中に入ってお子様たちをご覧になりますか?」

あれ、また『たち』がついた...

そんなことを思いながらイザークは頷く。

案内されての元へと行く。



「あ、イザーク。凄いよ」

そう言って笑い、少し離れた台のようなものを見つめる。

イザークはゆっくりそちらに向かい、そして覗き込む。

そこには、月の光と喩えられた自分と同じ銀髪、そして、瞳の色は黒、少しの瞳よりも茶色がかって薄いだろうか。そんな容姿の男の子。

そして、意外なことにもう一人。こちらはとそっくりの漆黒の髪に、瞳の色がイザークのアイスブルーを濃くした感じの色を持った女の子がいた。

つまりは、双子だった。

を振り返るとにへら、と幸せそうに笑う。

イザークは込み上げてくるものを堪えて憔悴しきった表情を浮かべるのそばへ行き、「ありがとう」とキスをした。

「名前、両方とも考えてくれてるよね?」

が聞くと

「ああ。だが、先にゆっくり休んでくれ。落ち着いてから名前、言うから」

そう言って頬を撫ぜる。

は頷いてそして、ゆっくり目を瞑る。

凄く幸せそうな寝顔だった。



流石にその日は仕事を休んでイザークはについていた。

地球から態々プラントまで上がって来てくれた友人たちも殆ど睡眠を取っていないため、良ければ自分の家に、とイザークが招待した。

家の方に連絡を入れて、そちらはメイドたちに任せてある。

「イザーク?」

の病室で本を読みながらその目覚めを待っていると名前を呼ばれた。

本を閉じて立ち上がり、の顔を覗きこむ。

「大丈夫か?」

「うん。ねえ、子供たちは?」

「やっぱり少し早かったから暫く保育器で様子を見るそうだ。まあ、殆ど心配はないとラフが言っていたから、心配することはないと思う」

「そっか。残念」

そう言って笑う。幸せそうに、嬉しそうに。



「ん?」

「ありがとう」

そう言って今度は額に口付ける。

「こちらこそ、ありがとう」

自分に対して何が『ありがとう』なのかイマイチ分からないイザークは首を傾げた。

「イザークと一緒に居ると沢山幸せを貰えるから」

「それは、こっちのセリフだ」

微笑みながらイザークが言う。

「ねえ、発表してよ」

期待感を込めた瞳で言うの言葉にイザークが頷く。

「まず、女の子の名前だ。『』。のように優しく育ってくれたらと思う」

「『』か。ステキな名前ね」

は微笑みながら頷く。

「そうそう。はどこにも嫁にはやらんからな。さっき顔を見て決めた」

真顔で言うイザークに

「まだ早いよ」

は思わず突っ込む。娘が生まれたら絶対に溺愛すると思っていたが、それはもう始まったようだ。

「まあ、いずれそうなるということだ。そして、男の子だけど。...『』」

その名前を聞いては瞳を大きく見開く。

だって、それは

の兄上の名前を貰った。大切なものを揺るぎない気持ちで守れる男になってほしい。事後承諾だが、いいか?」

に言葉はなく、涙を流しながら頷く。

「ありがとう、イザーク」

「それは、こっちのセリフだ」

の髪を梳きながらイザークがそう微笑む。

先ほどと同じ言葉を繰り返し、そして口付ける。大切な人へありがとうの気持ちを込めて。










桜風
07.8.8


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