| がプラントに上がってきて2ヶ月が経とうとしていた。 取り敢えず、ラフの主張だと今のはプラントの生活に慣れるのが先決だという。 イザークもそれに異を唱えるつもりは更々ない。自分だって今の仕事に慣れる必要だってある。 だから、早くがプラントの生活に慣れてくれたら良いなと思って、あまり頻繁ではないが彼女を誘って出かけるようにしている。 最初は近場、の住んでいるプラントの郊外、そして繁華街。隣のプラントに行ってみたり。 結構辛抱強くゆっくりなペースでに合わせていた。 「...プラントの生活には、もう慣れたか?」 「うん」 すんなり頷かれてイザークは少し肩透かしを食らった気分だ。 「えーと、どれくらい?」 「ん...?」 「いや。的にはどれくらい慣れたのかと思って」 「『どれくらい』?」 聞かれては黙り込む。 基準ってあるのだろうか? 「えーと。多分日常生活に支障を来たさない程度、かな?プラントでの生活は短いけど、結構オーブと似てるし。オーブに居たときは一人暮ししてたから。うん、慣れたって言ってもおかしくないと思うよ?」 の言葉に、イザークはちょっとダメージを受けた。 そうだ。そういえば、そうなんだ。もしかしたらこんなに待たなくても良かったのではないだろうか? は地球にいたとき一人で暮らしていたし、エレカにも乗れるようになってた。エレカの構造なんてプラントも地球も同じだし、その他生活に差異は殆ど見られない。 有るとしたら、人口くらいだ。 プラントの人口の大半を占めているのがやはりコーディネーターで、今でもナチュラルとコーディネーターの間には多少の確執はある。これは今までの歴史を鑑みても仕方のないことだとも言えるだろう。 条約を結んだからと言って簡単に仲良しなんて出来ない。 しかし、それは地球も同じで比率がプラントと逆になるというくらいだ。 のいたオーブはその確執が一番小さなところだから、気になっていなかったと思うが... 「プラントは..居心地、悪くないか?」 今自分が考えていたことをそっくりに当てはめるとナチュラルのにとって、生活がしづらいものではないか? 「ううん、皆親切なの。って言っても私がお話したりするのはご近所さんくらいだけど」 ああ、ラフは色んな方面に太いパイプを持っていそうだもんな... 何となくイザークはそう思った。何より、アイリーン・カナーバが親戚だ。そこのパイプも勝手に自分のもの扱いにしているに違いない。 『他人の物も自分の物』とか、『天上天下唯我独尊』、『私がルール!!』などが彼女の行動原理となっているような気がする。 間違っていない。 まあ、そんなことはどうでもいい。 がプラントに慣れたと言っている。日常生活に支障を来たさないとか。 だったら、もう待つ必要はないではないか。 「ダメ。何言ってんの。チャンチャラ可笑しくておへそで茶が沸くわ!」 月に1度、ラフはアカデミーの特別講師としてやってきている。 その機会に話してみると考える間も全くなくばっさり切られた。 間髪入れない否定の言葉が、ちょっとだけ辛い。 「何故だ...」 「だって、今が何不自由なく生活できてるのは私のお陰。もう一度言おうか?私の、プラントでの医学界の権威を持つ私のお陰なの。あ、勿論地球に降りても権威は権威ね!」 胸を張ってそう言う。 相変わらず自信満々だ。 何か自分のその自信に迷う事はないのだろうか? 「もう少し、分かりやすく...」 「つまり、私がの後ろ盾になってるの。此処まではその白髪頭でも分かるわよね?」 「銀髪だ。が言うには月の光だ」 「良い喩えね。ってば優しいから気を遣ったんじゃない? で、私が後ろにいるから半端な輩はに手を出せない。勿論半端な輩じゃなくても、手なんて出せるわけないけど。当たり前よね。に何かしたら私が絶対に黙っていないって、のいないところで口外してるから」 「誰が?」 「私が。学会とか。あと、アイリーン叔母様の親戚だって知られてから時々社交場に無理矢理出されているのよね。丁度いいし、釘刺しておこうかなって」 にこりと微笑む。見る人が見たらそれは圧力以外の何物でもない。有無を言わせない表情だ。 「で、此処から本題。が仮に万が一、奇跡的にイザークと結婚したとして」 何故そんなに『仮定』を強調するのだろう... 「流石にジュール家に嫁いだのあれこれに私は口出しできないでしょ?したくないし。だったら、私はの後ろ盾と呼ぶには遠すぎる。じゃあ、の後ろ盾は誰?イザークでしょ?」 「まあ、そうなるな」と頷くイザーク。 「じゃあ、イザークはどれだけを守れる?」 驚いてラフを見る。 「今のイザーク、どれだけを守れる自信がある?『愛があれば』とかそんな薄っぺらいふざけた言葉を口にするなら、今すぐ二度と言葉を紡げないようにその口縫ってあげるから」 笑顔のラフに言われて口をつぐんだ。 確かに、イザークの家は今でも『名家』と呼ばれるが、それはイザークのものでもないし、結局今では名前だけという感じもしないワケではない。 先の戦争で、母は戦犯となった。それでも、二度と政治の場に姿を現さないというのが条件で仮釈放されている。 そう、仮釈放だ。 戦後の復興に於いてのイザークの功績で、母は一応今はあのジュール邸で生活しているが、いつまたあの生活に戻るか分からない。 母を頼るつもりは無いが、それでもマティウス市の代表評議員をしていた母の名前とコネは今でもある程度生きている。 それに対して、イザークはどうだろう? 全くと言っていいほど何もない。 ザフトに所属していたときはダークレッドの軍服の袖に腕を通していた。つまりは『エリート』と呼ばれる存在だった。 だが、ザフトに戻るつもりのないイザーク。寧ろ、ザフトを裏切る形をとってしまったため、望んだとしてももうザフトには戻れない。 後輩育成のためにアカデミーで教官が出来ている今の状況の方が奇跡に近い。 「確かに、私は言ったよ。がプラントの生活に慣れるまでダメだって。これは私の誤算。よくよく考えたらっては環境適応能力が桁違いに高かったのよね。 がプラントに慣れた頃にはイザークもそこそこになってるんじゃないかなってのも思ってた。因みに、今のイザークは全く話になってないから。やっと仕事に『慣れた』ってところでしょ?まだまだ私のは渡せないわねぇ」 頬に手を添えて悩ましげにラフが言う。 イザークは全く反論できない。 腰に手を当てて天井を仰ぎ、そのまま溜息を吐いた。 「ま、精々もがいて足掻いて根性見せなさいよね、ジャリたれ」 そう言ってラフは控え室に使っている保健室を出ようとした。本日の講義は終了したため、職場に戻るつもりだ。 講師のときは職場を抜けてきているから、講義が終わると大抵すぐに帰るのだ。 「3ヶ月」 力強く、イザークが言葉を口にする。 ラフは足を止めて振り返る。 「あと3ヶ月でラフを納得させてみせる」 自信に満ちた瞳でまっすぐラフを見る。 「やれるもんならやってみなさい。ま、期待せずに見守ってあげるわ」 そう言ってラフは保健室を後にした。 職場への帰り、エレカに乗りながらラフは呟く。 「何でまず私の許可を取ろうとか思うのかねぇ。即にもっかいプロポーズでも何でもしたらが答えを出すでしょうに。あの子は他人に何かを決めてもらうまで待ってるお姫様じゃないんだから。が『イザークと結婚したい』とか言ったら私は全く反対するつもりがないのに...」 馬鹿だねぇ...と呟きながらも口元は綻んでいる。 本当は、イザークのに対する真っ正直なその姿勢が嬉しい。 だけどそんな態度は全く見せずにが「イザークと結婚したい」というまで、イザークはいつものようにラフに遊ばれる。 それは、ラフによる歪んだ愛情表現だが、それに気付くにはまだ何年も掛かる。 この可愛くて仕方がない娘婿は、この先も娘が可愛くて仕方ない『自称天才』のお陰で心労が絶えない。でも、その頃には癒しの存在がいつも側に居る上、本人も結構タフにもなっている。 そして、何となくその自信満々な自称天才の気持ちも察する事ができるようになる。 ―――勿論、それはまだまだ先のお話になるのだけれども。 |
10万打リクエスト。
『結婚式までのラフとイザークの大攻防戦』でした。
桜風
07.6.6
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