恋すてふ ―ハロウィン―





バスケ部の休憩時間中にワラワラと女子生徒たちが入ってきた。

その先頭が、バスケ部連中にとっては良く話をする女子生徒ナンバーワンであるだ。

彼女が引き連れてきたその女子生徒たちは、やはりバスケ部専用の体育館に足を踏み入れるということで多少緊張のようなものも感じているのか、表情が硬いが、言うまでもなく、はいつもどおりに不敵に笑いながら腰に手を当てて仁王立ちとなり、体育館の中を一瞥してしっかりと頷いている。

相変わらず偉そうだな...と軽く溜息を吐いてドリンクを口にした。


「Trick or Trick!」

背後から聞こえた声は間違いなく、さっき目に入った人物のものだ。

自分の愛しくてたまらない可愛い恋人のそれに似ているのはどうしても仕方のないことだが、ちょっと遠慮してほしいとか思ってしまう。

「イタズラしかないんですけど?それとも、正しい言葉を忘れたとか?」

振り返って神が言う。

「だって、神くんにお菓子貰っても..ねえ?何か色々入ってそうじゃない?」

要らない、というのを表情で示されて

「俺も、先輩にあげるお菓子は持ち合わせていませんけどね」

と返しておいた。

「で、どうなの?」

「どうなの、といわれても。選択の余地がないんでしょ?ほら、どうぞ?どんなイタズラですか?」

両手を広げて挑発してみた。

「ほほう?良いのかな?そんな余裕臭い笑顔を浮かべても。と言うか、相変わらずその笑顔が胡散臭いよね。モヤシくん?」

ニコリ、と彼女の性格を知らない者が見たら見惚れてしまうような笑みをたたえて言う。

「誰の事ですか?というか、胡散臭いって思っているのは先輩くらいじゃないですか?自分が後ろ暗いことが沢山あるからそう見えるんですよね?」

ニコリと神が返す。この笑顔に悲鳴のような歓声が上がった。

ちらりとその方を見て神は改めて首を傾げた。

「ところで、何で先輩はこの体育館に?」

「あら?あなたのところのキャプテンに聞いてないの?やーねー。耄碌したのかしら?」

「相変わらず色々と酷いと思うんですけど?」

神が溜息交じりに抗議した。

自分のチームのキャプテンになんて言い草だ。というか、クラスメイトだろうに...

「で、何で体育館に?部活の最中じゃないんですか?」

「だから、来たのよ。今度の文化祭で華道部の展示場所としてこの体育館を使わせてもらうってことになってるから。一応広さを見させてもらってレイアウトを、ってね」

なるほど、と納得して神は頷いた。

「というか、先輩がそういうのって想像つかないんですけど。華道って何だか大人しい人、というか大和撫子って感じの人の嗜む文化っていうイメージがあるから」

苦笑しながら言う神には半眼になって抗議をし、少し向こうにいる妹を見かけて声をかけた。

「何、お姉ちゃん」

「ほら、これ。今度この体育館で華道部が展示させてもらうからね。手伝ってもらうことにもなっているし、皆さんに配ってあげて」

そう言いながら、チョコレート徳用袋を2つ渡した。

部員数は家で聞いても良かったが、多いのは知ってるし、余ってもが持って帰れば良いやと思って適当に買ってきたものだ。

「あ、ありがとう。皆疲れてるからきっと嬉しいよ」

そう言って袋を開けている妹の頭にカチューシャを着けた。

「何?」

、少し前髪伸びたねぇ。ちょっと邪魔じゃない?」

「うーん、そうでもないけど。でも、ありがとう。あ、神先輩。どうぞ」

神にチョコレートを渡しては駆けていく。

何とか笑顔で「ありがとう、ちゃん」と応えることは出来た神が「...先輩」と低く呟く。

「何?」

ニコリと微笑むに神は一瞬言葉に詰まった。

これか...!

につけたカチューシャは所謂猫耳という奴だった。

何処からそんなもの出した?とも思ったが、徳用袋を入れて来た鞄に潜ませていたのだろう。

「...イタズラ相手が違うんじゃないですか?」

搾り出してそういう。

「だって。神くんとしては、あんな可愛いを、こんなどーでもいい男どもが見ているって嫌でしょう?」

もの凄く楽しそうな、神としては“嫌な”笑みを浮かべてが勝ち誇ったように言った。

その通りだ。

その通りだが..何で誰も突っ込まないんだ!!

振り返って神は部員たちを見るが、彼らはそれを指摘したらが猫耳を外すのが目に見えているし、そういうのに興味がない人物は逆にの恐ろしさを知っているので指摘出来ないという状況らしい。

「ま、そろそろ休憩時間終了でしょう?イタズラも成功したみたいだし、体育館の広さも何となく把握できたし退散しましょうかね。まあ、文化祭前日には搬入も手伝ってもらえるらしいから、そのときはよろしく!」

ポン、と軽く神の肩を叩いて華道部の部員たちに声を掛けては体育館の外へと向かった。

スキップしそうな勢いで体育館を後にするの後姿を見送り、くるりと振り返る。

どう言ったら、にあの猫耳を気づかれないまま没収できるのだろう...

色々と言葉を捜しながらに向かって足取り重く彼女に向かった。









桜風
08.10.1


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