| 部活動が済み、牧が部員を呼び集めた。 「前から言っていたが、これから華道部が明日の文化祭の準備のためにやってくる。手伝ってくれ」 その言葉に全員が元気よく返事をしたところで、体育館のドアが開いた。 「こんばんはー」と入ってきたのは華道部部長のだ。 「ああ、ちょうど練習が終わったところだ」 牧が振り返りそう声を掛ける。 「ありがとう。ホントにゴメンね、迷惑掛けて」 ニコリと微笑んでそういうに違和感を覚える人物がちらほらいる。 その最たる人物はクラスメイトの牧ではなく、神だった。 気持ち悪いというか、何かを企んでいるとしか思えない... そんな疑わしそうな目で彼女を見ていると目が合った。 ニコリと微笑むその笑顔はやはり素直に受け取れない好意に満ちている。 「じゃあ、悪いけどウチの部室まで来てくれるかしら?」 そう言ったに牧が頷き、部員に声を掛けている。 「お姉ちゃん、私も手伝うね」 そう言ったのはだ。 「ああ、いいのよ。重いからバスケ部員に頼んでるんだし」 「私もバスケ部員だよ」 自分を見上げて抗議をする妹に目を細める。 ああ、可愛い。連れて帰りたい。いや、一緒に住んでいるから連れて帰るも何もないんだけど... そんな事を思いながらはの申し出をやんわりと断っていた。 の後に背の高い集団がついて歩く。 「ハーメルンの笛吹きみたい」 ポソリと呟くの言葉が耳に入り、好き好んで態々着いていく人は、確かに少ないだろうななどと思いながら華道部の部室へと向かった。 綺麗に生けてある花が並んでいる。 「部室で生けたんですか?」 「時間がないと思ったからね」 そういうに「へー」、と相槌を打ったが、ふとひとつだけ大きな花器がある。 「あれは?」 「ああ、あとで生けるの。体育館には持って行ってね」 にそう言われたので神がその花器を持つことにした。 「あー、モヤシでも男の子ね」 感心したように言いながら後を着いて来ているを振り返り 「落としましょうか?」 と言うと 「弁償してね?」 とニコリと微笑まれた。 ガサツと思われる部員と、マネージャーであるは会場の設営を手伝っていた。 バスケ部専用の体育館と言っても作りは普通の体育館と変わらない。 そのため、レイアウトについてはある程度華道部でいつも使っている体育館を使って検討を重ねてきている。 ただし、この体育館には机や椅子がないため、いつも使用している体育館から持ってくることになっていた。 ちょうど力が必要だし、何かを割ることがないだろうからという牧の判断だった。 華道部の展示の設営が終わった時刻は既に9時を回っていた。 慌てて帰る華道部員たちを見送り、は部室に残った。 鍵は牧から受け取る。 「お姉ちゃん、まだ帰らないの?」 「うん。もうちょっとね。はもう帰りな。神くんに送ってもらいなさいよ。もうかなり暗いんだから」 そういうに向かっては心配そうな視線を向けている。 それを目にした神が「信長。ちゃん送ってくれるか?」と言う。 「ちょっと、神くん?を放ったらかしにするなんてどういう了見かしら?」 かなりご機嫌が斜めな状態でがそう言った。 「先輩は俺が送って帰るから」 を無視してにそういう。 は安心したように表情緩めた。 「あー、じゃあ。神さんがそういうなら」 と信長もを送ることを了承した。 「で、一体全体どういう了見かしら?」 花の茎を切りながらがもう一度そういう。 「ちゃん。先輩を凄く心配そうに見てましたよ」 「そりゃ、お姉ちゃん想いの優しい子だもん」 少し誇らしげに胸を反らせてそう言った。 「だから、です。全く。俺だって先輩を自転車の後ろに乗せるなんて...重いじゃないですか」 「モヤシはやっぱり体力も力もないのねー」 そんな会話をしながらもは作品を仕上げていく。 ふと、その作品。まだ途中なのだろうが既視感を覚えた。 何だろう。もの凄く身近で... 静かになった神を不審に思い、振り返ったは本当に心から嫌そうな顔をした。 「もの凄く鈍感だったくせに」 のひとことで納得した。 「ちゃん、ですか?」 「黙れ、モヤシ」 そう言って再び花を生ける。 別にの顔を模しているものではない。ただ、雰囲気というかその作品から受ける印象ががそういう感じなのだ。 「題は?」 「他の作品見てみなさい。全部無題よ」 言われて見れば誰の作品かということしか分からない。 「でも、決めてるんじゃないですか?」 「...神くん。付けてみて?」 そんな事を言われるなんて思っていなかった。 神は腕を組み、まだ製作途中であるの作品を見る。 『日向ぼっこ』 ふと浮かんだ単語だ。 「日向ぼっこ、とか」 「ああ、そんな感じ。穏やかな春の陽だまり、かしらね」 そう言って最後の1本を挿した。 今の時期は既に朝晩がかなり冷え込む。春も同じだが、空気が違う。 「しかし、まあ。神くん良いのかね?あたしを後ろに乗せていたと噂をされたらが悲しむんじゃない?」 「まあ、そのときはあっさりと別れればいいけど」、とが更に付け加えて言う。 「ああ、大丈夫ですよ。先輩を良く知っている人はまずそういう噂を流すことないだろうし。もし流れたら先輩がその噂の元を潰しに行くでしょう?ちゃんが悲しむといけないから、って」 神の自信満々なその発言が気に入らない。 「と神くんの仲が壊れた後に潰すだろうけどね」 が言うと 「壊れませんけどね」 と神も返す。 「ナマイキね」 が言うと「ありがとうございます」と神がニコリと微笑んだ。 「じゃあ、帰りましょうか」と神がいい「いいよ」とが断る。 「いいよ、面倒でしょう?と違って大きいから重いし。モヤシには辛いよ?」 そう言うが意外で神は目を丸くした。 「でも、先輩を一人で帰したらちゃんに怒られるんで、とりあえず此処は大人しく送られてください。それに、重くても部活後の筋トレだと思えば別にどうってことないですから」 神の言葉には溜息をつく。 まあ、自分が断って一人で帰ったと家で報告しても怒られるだろうな... 「仕方ないな」と言って不満げには神を見る。 「ありがとうございます」と神は言って体育館の鍵を受け取り戸締りをした。 |
桜風
08.11.1
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