オージャ・カイナン





昨晩から降り始めた雪は結局止むことなく朝まで降り続いた。

学校に着くと校庭は一面白銀の世界になっている。

―――はずだった。

しかし、が学校についた時には既に校庭の雪がまばらとなって、その下の土が見えている。

なんちゃって白銀の世界を期待して学校にやって来たというのに...

不満に思いながらもジャージに着替えて体育館へと向かった。


廊下から繋がっている体育館の鍵は既に開いていた。

1年が早く来ているのだろうか。

何となく、休日の部活の日は自分が一番乗りだから負けた気分に陥る。

「おはよう」

声をかけて体育館に入ったが、誰もいない。

但し、外へと繋がっているドアが開きっぱなしだ。

このドアから部員が入ってくることはない。だから、部活が始まるまで開けることは殆どない。誰かが外に出ているのだろう。

ひょいと覗くと、何の呪いの儀式だと聞きたくなるくらいの大量の雪だるまが置いてあり、今でもせっせと製作中の様子だ。

「何してんの、ノブ?」

声をかけられて信長は驚いたように振り替える。

先輩!」

「何してんの?」

もう一度聞く。何の儀式なの、と聞きたくなったが、それはやめておいた。

「雪だるま製作中ッス!」

額に汗して満面の笑顔で信長がそういう。

「まあ、そうだろうね。でも、何でこんなに大量に作ってんの?」

「これ、牧さんです!で、こっちが神さんで...」

つまり、部員の雪だるまを作っているのか...

「あたしは?」

興味本位に聞くと信長は待ってましたとばかりに満面の笑顔になった。

「これッス!」

指差したそれはちんまりとしたものだった。

「これ?じゃあ、ノブは?」

「オレはこっちッス」

指差した信長の方が大きい。

ナマイキな!

は下履きに履き替えた。

マネージャーのは体育館外の流しで作業をすることが多いからいつも下履きをもって体育館にやってくる。

「えー、と。どれが紳兄の?」

「これです」

「神くんが...」

「こっち」

「で、ノブがこれよね?」

「そうッス!」

はそれぞれの雪だるまを確認した。

「そーれ!」

そう言って回し蹴りで牧だるまの首を落とした。

「ああ〜〜〜!!」

泣きそうな声が体育館の裏に響く。

「もいっちょ!」

続いて神だるまに踵落とし。

「神さんの頭が〜!!」

「あらよっと!」

ノブだるまは拳で一突き。

「オレ〜!!!!」

半泣きの信長がにツカツカと迫ってきて

「何するんスか!例え牧さんの従妹でも酷いですよ。牧さん、首がなくなっちゃったじゃないですか!!」

「俺の首が何だって?」

体育館裏の騒ぎが気になり、体育館にやってきた部員たちが覗いている。

「わぁ...凄いね。この雪だるまって何の呪いの儀式?」

神も来ていたようで素直に感想を述べた。

「牧さん、先輩が酷いんスよ!」

半泣きの後輩に縋りつかられて牧は少々困った表情を浮かべた。

「どうしたんだ...」

信長にではなく、に問う。

「ああ、紳兄の雪だるまの首を落として、神くんの雪だるまの頭に窪みを作ってノブの雪だるまを潰したの」

そう言いながら手にしているのは、ちんまりとして掌サイズのだるまだ。

グシャッとそれも潰す。

「何してんスか。それ、先輩ですよ!?」

信長が慌てて駆け寄った。

「そうね。ほら、全部潰して!」

「ええ〜〜〜!!」

「おっきいの1個作った方が良いって。さっき神くんも言ってたでしょ?こんなにたくさん雪だるまがあると何かの呪いの儀式みたいなんだもん」

「そう..スか?賑やかでいいじゃないスか...」

「いいから潰す!」

そう言っては時計を見た。

まだ部活開始まで時間がある。


「高砂さん、すみません。良かったら手を貸していただけませんか?」

部活開始5分前にが体育館の中にいる長身の先輩に声をかけた。

「おう、できたか?」

経緯を聞いているのか楽しそうに体育館外へと出てきた。

「でかいな...」

「ノブが張り切っちゃって。流石にノブだとこれは上げられそうにないなーって。もし、よろしければ、ですけど」

「任せろ。けど、オレひとりで上げたら崩れるかもしれないな...牧!」

体育館の中の牧に声を掛ける。

「何だ?ああ、凄い大作じゃないか」

苦笑しながら牧が出てきた。

高砂が話をすると牧も苦笑しながら手を貸してくれる。

「さ、部活始まるぞ」

いい時間だ。

信長も雪だるまを作成していたから体が温まっているだろう。

「凄いの作っちゃったね」

体育館に戻ると神が声をかけた来た。

「ああ、うん。オージャ・カイナンだよ」

「は?」

「カタカナね。全部カタカナで、『オージャ・カイナン』です」

「何かの戦隊もののロボットみたい」

笑いながら神が言った。

「そんなイメージ」

も笑いながら言う。


部活が終わる頃、信長が体育館の外を見たら『オージャ・カイナン』は半分くらいに溶けていた。

「あー、オージャ・カイナンもそろそろ限界ね」

さらりと言いのけたの言葉に信長が敏感に反応する。

「縁起悪いこと言わないでください!!」

は笑いながらマネージャーの残りの仕事を片付けていく。そんなの後ろを「酷いッス!」と言いながらついて歩く信長。

ちゃん。完璧、遊んでますよね」

その様子を眺めながら神が呟く。

も、いい加減。適当なところでやめてやれば良いんだけどな...」

それでも注意しない牧がそう呟いた。









桜風
08.12.1


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