月見と白玉





朝、家を出て西の空を眺めると白い月が浮かんでいた。


「おはよー」

教室に着いたと同時にチャイムが鳴る。

「おはよ」

仲のよいクラスメイトに声を掛けながら自分の席に着いたら既に隣の席の人物は寝る気満々と言った様子で机にうつぶせていた。

「藤真、はよ」

一応声を掛けると頭の下に敷いていた右腕を抜いて緩慢な動きで微かに挙げてまた頭の下に敷く。

「毎朝ご苦労様だね」

そういうも朝練を終えてこの教室にやってきた。

隣の席の藤真をして校内最速の短距離ランナーだったりする。

翔陽はバスケは十数年前から常に強いが、それ以外のスポーツはその年によって強さが違う。

つまりは、入学してきた生徒の運動能力にその成績が左右されている。

それが普通といえば普通であろう。

バスケ部が特別なだけだ。

そして、の所属する陸上部は県下ではかなり注目されているのが現状だ。

ここ数年バスケ部以外の体育会系の部活が注目されることがなかった分、陸上部への期待度もかなり高いらしい。

はそういうのが気にならない性質だから周囲からそんな情報を聞かされても首を傾げるだけだった。


授業中は隣の席の藤真は殆ど寝ていた。

それでもあまり注意されないのは得だよなーとは何となく思っていた。

放課後は授業中に養った英気のお陰でどんなハードな部活だって乗り越えられる。

そんな事を言いながら藤真は教室を後にした。


毎日のメニューである学校の外周のランニングをしていると沢山の足音が聞こえた。

振り返ると思ったとおりでバスケ部だ。

何でこんなに溢れるくらい部員が所属するんだろうなーと思いながらは道の端に寄る。

足の速さで言ったらの方が上だが、これだけの人数を引き連れて走りたくない。

ランニングは体力づくりという面もあるから全力で走る必要はないし、流しても誰かに何か言われることはない。

返ってくるのは自分だから、自分の判断でそうすることにした。


「おー、

と並んだ藤真が声を掛けてきた。

「早く先行ってよ」

走るペースをのそれに落とした藤真に向かってそう言った。

「まあまあ。そうそう、今日満月だな」

「何で知ってるの?」

今朝見た月がそうだった。

もう少ししたらまた昇ってくるはずだ。

「オレ、たぶんよりも家を出るの早いはずだぜ?」

そうか、とは納得した。

結構遠くから来ているといつか聞いたことがある。

「じゃあ、電車の中で寝ちゃってればいいのに」

授業中寝ずに、という意味で言ったが

「ああ、いつも電車の中では寝てるって」

と既に実行済みらしいことを言われた。

「でさ、今日の帰りになんか食って帰らないか?」

「冷やし白玉ぜんざい」

「甘味かー。たまにはいいかな。オッケー」

「藤真のおごりで」

「それは飲めない条件だなー」

「ケチめ」

「あっさりオレにたかろうとしたお前は酷い奴だと思うぞ?」

そう言いながらも楽しそうに笑っている。

「まあ、仕方がない。また今度の機会に奢ってもらうから」

が言うと

「それは花形に頼め。こいつは優しいぞー」

と矛先を友人に向けている。

結構酷い奴だな、と今更なことを思いながら一緒に走っている花形に視線を向けてみた。

「花形、今度帰りに甘味処に寄らない?」

「馬に蹴られたくないから嫌だ」

そう言って走るペースを上げた。

「馬に蹴られるって?」

藤真を見上げると

「んじゃ、部活終わったら部室で待ってるか体育館に顔出せよ」

と少し早口にそう言って藤真は走るペースを上げた。

後ろから見ていると藤真が花形のお尻を蹴っている。

「酷い奴だ」

じゃれている同級生の背中を苦笑しながら見送り、は自分のペースで足を動かす。

「あんみつでもいいなー...いや、でも白玉系は外せないよね。お月見でしょ?」

既にの頭の中は部活後の甘味でいっぱいだった。









桜風
08.9.1


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