一生に一度の...





一生に一度しかないことというものは、一体どれくらいあるのだろう。

成人になるのだって、それはどうひっくり返っても1回しかない。

長ったらしい式典を抜け出して、各中学の集まれる場所へと向かった。

友達を誘ってみたものの、中学時代に仲の良かった友人たちは揃って「行けない」と言った。

だから、私も欠席にしようかとも思ったけど、やはり来年チャレンジできるイベントではないから出席してみたものの..あまり面白くなかった。

どうも式典の途中に抜け出してきたのがまずかったのか、誰もいない。

じゃあ、帰ろうか...

そう思ったところに、頭にチョップをされた。

何だ、コノヤロウ!?

そう思って振り返るとそこには5年会ってなかった男が相変わらずヘラヘラして立っている。

「久しぶり、

少し、寂しいなと思った自分が腹立たしい。

「久しぶりね、仙道」

「あれ、。縮んだ?」

「ふっざけんな。仙道が私の許可なくにょきにょき伸びたんでしょうが。あー、ムカつく!」

私の言葉に仙道は楽しそうに笑う。

「そっかー、縮んでないのか」

「これでも伸びたよ..2センチ」

もう一度仙道が盛大に笑う。


ひぃひぃ言いながら何とか笑いが収まった仙道に

「しかし、まあ。どうしたの、珍しいね。こういうの面倒でしょう?」

仙道を目にしたときから気になっていたことを聞いた。

「んー、まあね」と歯切れ悪く応える仙道は相変わらずだな、と思う。

「てか、振袖は?昔、成人式の日に振袖着たいって言ってただろう?」

唐突に言われて言葉を失う。

覚えてたんだ...

「見せる相手がいないから。面倒くさいと思うのよね、振袖って」

動揺を悟られないようにそういうと「何だよ。オレはの振袖姿見に来たのに」と仙道が呟く。

今、色々と反則だと思う。

「何言ってんのよ。そんな軽い口ばっかり叩いてたら彼女に振られるよ」

そういうと仙道が笑う。

「今フリーです」

「あっそ。それは、ご愁傷様」

私の返事に仙道は肩をすくめる。

は?」

「クリスマス1週間前に振ってやった。そしたら、あいつ何て言ったと思う?『え、俺クリスマスひとり?』ひとりじゃねぇだろ!ってぶん殴ってやったけど」

私の答えに仙道は眉を八の字にして苦笑した。

「変なのに引っかかってんだな」

「初カレがもの凄くマイペースで変なのだったからね。スタートが間違った」

「それはそれは...災難だったね」

仙道は言葉を捜しながらそういう。


「...あのさ。は、オレがバスケしてなくても良かった?」

「寧ろしてなかった方が良かったと思う。まあ、もの凄く今更だけどね」

「じゃあ、オレがバスケしてなかったら、付き合ってなかった?」

「5秒前の私の言葉を思い出してほしいものね。てか、私アンタに告白されたとき、バスケ部の人だって知らなかったのよ?友達に散々怒られたけど。『あの仙道を知らないとは何事だ!お前は何を聞いて生きている!!』って。そこまで凄いのか、あれが?!って思ったけどね」

私の言葉に仙道は嬉しそうに笑う。

「そっか」

「どうしたの?今でもバスケしてんでしょう?それとも故障で出来なくなったの?まあ、バスケを取っても、人当たりのよさで何とかやっていけるんじゃないの、仙道は」

少し心配しながらそういうと

「いや。バスケは続けてる。大学もそれで行ってたし」

と何故か過去形でそういう。

「行ってた、って。今は?冬休みだからとか言ったらぶっ飛ばす」

仙道は苦笑して「アメリカに行くんだ」と言う。

「アメリカ?NBA..だっけ??」

「それ。契約したんだ」

「大学辞めて?休学とかじゃ無理だったの?」

かなり思い切ったことをしたな...

「いや、NBAってプロだから。それにほら、逃げ道あるとオレの場合逃げちゃいそうだしさ」

「あー、そうだね」

前面肯定すると「えー!?少しくらい否定してよ」と仙道が文句垂れる。

「で、は何してんの?」

「専門学校。就職先がめでたく決まったから一応一安心」

「それはよかった」と仙道が笑う。

「じゃあ、オレもう行くわ」

そう言って仙道が背を向けた。

「へ?行くって?」

「今日出発なんだよ。飛行機はみたいに待ってくれないだろう?」

「あー、そうだね」

今まで何度も遅刻された。そして待っていた自分が今では腹立たしい。

「あのさ、手紙くれよ」

「は!?」

私が抗議の意味も込めて声を上げても気にせずに自分が所属するチーム名を口にした。

「この事務所に送ってくれたらきっとオレのトコに届くから」

「甘えないでー。アンタが私に送ってきたら返事します。実家の住所は変わらないから」

「けち臭いコト言うなよー」

「アンタは甘やかしたら際限ないからね。それだときっと、私が一方的に文字を書いた紙を送るだけになるでしょう。そんなのもうこりごりなの。少しは追いかける方に回ってみなさいよ」

私の言葉に仙道はきょとんとして、やがて笑う。

「何だ、追いかけて良いんだ?」

あれ、まずいコト言ったよな。言ったな、まずいこと。

撤回しようと思ったが仙道がずい、と顔を近づけてきた。

「じゃあ、追いかけさせてもらおうか。まあ、頑張って逃げてくれよ?」

そのままおでこにキスされ、呆然としていると「またな」と仙道が駅に向かって歩き出す。

何か言わなきゃ完敗だ。

「精々頑張って追いかけてみなさいよね!」

遠ざかる仙道の背中にそう声を掛けた。

仙道は歩きながら振り返ってヒラヒラと余裕の笑みを浮かべて手を振る。

一生に一度しかない儀式の日に、一生後悔するかもしれないことをしてしまったのかもしれない。

...まあ、いい思い出になることには違いないから。いっか。









桜風
09.1.1


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