mouth to mouth





此処最近、何となく体調が良くないなー、とは思っていたんだ。


ホントにこの時期って服に悩む。朝晩は結構冷え込むくせに、昼間はまだ暖かかったりして、どっちにあわせるべきなのか...

高校時代は、制服なるものがあって、そういった意味では悩むことはなく、しかも若さからかこんなことを思わなかった。

でも、今は毎朝思う。

何着てったら快適だろう...


高校を卒業して1年も経たないのにこうして高校時代の若さを懐かしみ、そして、羨ましいとか思ってしまう。

でも、友達に聞いたらみんな同じで、制服を着て学校帰りにキャッキャ買い食いとかしている女子を見たら「若いねぇ...」と思わず零してしまうそうだ。

わたしも学校帰りにはそんな女子たちを見かけることが多く、同じように零す。


今朝起きて熱を計ったら微熱という程度の熱があったが、体の調子から言ってたぶんこれから勢いを増してぐんぐん上がるんだと思う。

「学校、休めないの?」

「午前中は絶対に出ないと単位もらえない授業があるから...」

熱を計っている姿を見たお母さんが心配してそう言ってくれたが、あいにくとそういうわけにはいかない事情があるのだ。

ただ、バイトは休ませて貰おう。

念のため、市販の解熱剤をカバンの中に入れて家を出た。

背後からチリンチリンと音がして振り返ると何だか久しぶりに見る顔があった。

「おはよう、宗ちゃん」

「おはよう、ちゃん。あれ?熱でもあるの?」

相変わらず敏いなぁ...

2つ下の幼馴染というか..ご近所さんの神宗一郎。

昔は『おねえちゃん』って慕ってくれていたのに、いつの間にかわたしの背を遥かに追い越して呼び名も『ちゃん』といった具合に『お姉ちゃん』な感じが省略された。

けれども、宗ちゃんはしっかり者だから、彼の方がお兄ちゃんっぽいところが見え隠れするし、お姉ちゃんが省略されるのも無理ないことだ。

今はバスケの名門校に通っていてレギュラーに定着しているとご近所ではもっぱらの噂になっている。

「ちょっとね。風邪っぽい」

「大学、休めないの?」

宗ちゃんは自転車を降りて押しながら並んで歩く。

「うん、午前中はどうしても休めない講義があるから」

心配そうに顔を覗き込む宗ちゃんから慌てて顔を逸らした。

「じゃあ、駅まで後ろに乗ってく?」

「移るよ」

「大丈夫、鍛え方が違うって」

そう言って笑った宗ちゃんが自転車に跨り、「座れないけど、大丈夫?」と言って促す。

「ごめんね、遠回りになるのに...」

「いいよ、大丈夫」

「朝練、今日はないの?」

自転車の後輪のところに足を引っ掛けて宗ちゃんの肩に手を置く。

「うん、今日は休み。たまにこういうことあるよ。でも、今日がその『たまに』でよかったよ」

そう言って宗ちゃんがペダルを踏み、自転車がスーっと走り出した。

徒歩だとこの3倍くらいは時間が掛かる。しかも、体調不良の今日は殊更時間が掛かったと思われるから、宗ちゃんに拾ってもらえてよかった。

「じゃあ、ちゃん。無理はしないようにね」

「うん、ありがとう。じゃあね」

そんな会話をしてわたしは駅の中に、宗ちゃんは学校へと向かった。



午前の講義が済んで、あとは友達に頼んで帰宅する。

家に着いたときには既に朦朧としていて、帰ってきて正解だと思った。

本当なら病院に行って薬を貰った方が良いのだろうが、もう体力がない。これ以上は動けないので、病院は明日以降に持ち越しだ。

お母さんはパートで夕方まで居ない。

取り敢えず水分を取って、ベッドに潜り込んだ。


うとうとしていると人の気配がある。

たぶん一応睡眠は取ったんだろう。外が随分と暗くなっているから夕方はもう終わってそろそろ夜の時間になっているはずだ。

だとしたら、帰宅したお母さんが様子を見に来てくれているのかと思う。

「おかあさん、ポカリ飲みたい」

喉もとうとうやられたらしい。

「うん、買って来たよ」

聞きなれた、けれども今此処で聞くことがないはずの声。

起き上がろうとしたら節々が痛く、結局数センチしか体は起き上がらなかった。

「宗ちゃん?!」

「大丈夫?結構辛そうだね」

覗きこんできた顔は間違いなく宗ちゃんで、益々分からない。

「なんで?」

「お見舞いにきたら、おばさんが部屋に居るからどうぞって」

苦笑しながら宗ちゃんが言う。

何でお母さんはこう..気軽に通すかな...

ひんやりとおでこに何かが置かれた。

何か、というか...

「宗ちゃんって意外と手が冷たいんだね」

とても大きな手だ。

「ん?そうかな?でも、それって今はちゃんの体温が高いからだと思うよ。計ってみる?」

そう言って枕元に置いていた体温計を渡してきた。

受け取って熱を計っていると「ポカリだよね」と言って足元をガサゴソとしている。

ビニール袋の音がするから、コンビニで買ってきてくれたその足できてくれたのかもしれない。制服だし。

「コップに注ごうか?このまま飲む?それとも、飲ませてあげようか?」

ペットボトルを手に宗ちゃんがそういう。

というか、最後の選択肢は何?

気になって聞いてみたら

「ああ。マウストゥマウス」

とさらりと言われてわたしは固まった。

「そ..宗ちゃん?」

何を言うの、の意味を込めて名前を呼んでみる。

敏い彼はわたしの声に込められた想いは感じ取ってくれるはずだ。

というか、此処はいつものその敏さを全開で発揮するところよ?!

しかし、宗ちゃんは笑顔で「何?」と聞き返す。

「マウストゥマウスの意味は..」

「キスでしょ?」

けろりと返され、それに耐えながらわたしが口にしたのはもちろん

「コップで!!」

だった。

「あー、ざんねん」

そういいながらコップにポカリを注ぐ宗ちゃんに

「そんなことをしたら風邪が移るでしょ」

というと

「風邪って誰かに移したら治るって知ってた?」

と返された。

そういう問題じゃないでしょう...

渡されたコップに口をつけながらこっそり宗ちゃんを見るとニコニコと微笑んでいて、

「今からでも訂正きくよ?」

と言われたので、

「しません!!」

と返しておいた。


なんか、もう..疲れた...









桜風
09.11.1