大掃除





「なにそれ。汚すぎる...」

ポツリと呟いたの言葉に皆はぴたりと止まる。

ギギ、とその部屋の中の人物たちが振り返り、数秒沈黙。

「...きゃーーーー!」

その沈黙を破ったのはその部屋の中に居た藤真の気持ち悪い裏声だった。

「キモい」

「いや、恥らえ、お前が!お前がそんな能面だからオレ様が優しく悲鳴を上げたんだぞ!」

「『奇声』の間違いでしょ。第一、パンツの1枚や2枚..どうってことないわよ。それに、そうやってドアを開けっぱな自分たちが悪いんでしょ」

鼻で笑いながらは答える。

に言われて部員たちはやっとそのことに気がつき、長谷川がそっとドアを閉めた。

通常練習を終えた後に残って練習をしていた1年5人は部室の中で顔を見合わせてそっと溜息を吐いた。


暫くしてドアが開いた。

「まだいたのかよ」

最初に出てきた高野が苦笑してに言う。

「大掃除」

「...は?!」

「そんな不衛生極まりない部屋、年に1回くらいは掃除なさいよ」

藤真に続いて出てきた2年たちもの前で足を止めていた。

「えー、不都合ねぇからいいよ」

と高野が返し、長谷川もそれに頷く。

「第一、今年の部活は今日でお終いだろう?」

永野が言うと

「だからこそ尚の事、都合が良いじゃない。どーせ、2年の先輩たちは明日来ないし1年はあんたたち5人。イケルイケル」

ニコニコと笑ってが言う。

「明日..な。そうだな、明日な」

藤真が納得したように頷いた。

「サボる気でしょ」

すぐさまが返す。

「しっつれいだなぁ!お前、仲間を信じられないと言うのか!?」

「仲間、じゃなくて藤真を信じらんない」

の言葉に藤真は声を上げて笑う。

「まあ、明日な。10時で良いなー。午前中に済ませちまえば良いだろう?も出席なー」

そう言いながら藤真は更衣室から遠ざかって行き、そのまま他の3人も帰っていった。

。送っていくか?」

最も背が高い花形が足を止めて聞いてきた。

「学校の隣に住んでいるので大丈夫よ。ありがと」

の言葉に頷いて花形は駆けて行った。




「ほぉ〜?」

翌日9時50分。

が学校の、バスケ部の更衣室前につくとそこに居たのはただ一人、花形透。

他のメンバーは?と問うとそれぞれが都合よくお腹と頭と腰が痛くなり、親戚の伯父さんの法事があると言う理由で欠席を表明したとか。

「あいつら、年明け覚えてろよ...」

唸るようにが呟き、それを聞いた花形は苦笑する。

「どうする?やめるか?」

「する!そのためにあたしは態々出てきたんだから!」

「学校の隣からな」

花形の補足に肩を竦めて部室の鍵を開ける。

はマネージャーだから鍵を預かっているのだ。

「換気!」

夏だったら最悪じゃないか?

そんなことを思いながらは更衣室内に突進して窓を全開にしていった。

部員数が多い翔陽高校のバスケ部は更衣室もそこそこ大きい。

1年は1個のロッカーを数人で共用するが、それでも部屋は他の部の3倍くらいはあると聞いたことがある。

黙々と掃除をしながらはふと思った。

「ねえ、花形」

「何だ?手伝いがいるか?」

今はそれぞれ別のところを掃除している。

それでも、脚立を使わなければらないところは声をかけるようにと花形はに話をしていたのだ。

「あ、ううん。まだ大丈夫。そうじゃなくて...なんで花形はサボらなかったの?」

残りの4人はサボリだ。間違いない。決定だ。

「...誰も来なくてもは大掃除しようと思っただろう?」

「まあ、きったなかったからね」

愕然とした、という一言も付け足した。

その言葉に花形は苦笑し、「そこまで酷いか?」と言う。

「酷いと思うよ。みんなこれ気持ち悪くないの?」

「慣れ、だな。中学のときもこんなもんだったし」

「うへぇ」と漏らして顔をしかめるに花形は苦笑する。

「ああ、そうそう。さっきの質問の答えな」

「何だっけ?」と首を傾げているに「サボらなかった理由」と答える。

ああ、そんなことも聞いたな、とは頷く。

「こんなきったない部屋。さすがにだけに掃除してもらうのは悪いだろう。あいつら、絶対にサボると思ったし」

とのこと。

「それはまた、ビンボーくじですねぇ」

は困ったようにそういう。

「けど、意外とそうでもないんだよな」

花形はそう答えて掃除を再開した。

「花形って、掃除好きなの?」

意外そうにが問うと花形は再び手を止めた。

「嫌いじゃないが、部室に関しては、まあ..積極的には挑みたいとは思っていないな」

「じゃあ、何で?」

「さあ?何でだろうな」

花形は笑ってそう答え、気になったが何度もその詳しい理由を聞いても答えてくれなかった。









桜風
09.12.1