桜並木





ふと、人の気配がして振り返ると待ち人が写真を撮ったり絵を描くときに構図を決めるときにするように両手の人差し指と親指でフレームを作ってこちらを見ていた。

「なにしてるんですか?」

ゆったりと足を動かして彼女の元へと向かう。

「んー、ちょっと懐かしくて」

笑いながら彼女は手を下ろした。

「遅れました」と彼女が言い、「いつものことです」と神が返す。

ゆっくりと川沿いの桜並木を歩く。

「あれから、もう3年だ」

呟く彼女を見下ろした。

今日は帽子を被っているから顔が見えにくい。

「オレが海南に入ってから、ですか?」

「わたしが初めてここで神くんを見てから、です」

彼女の返事に神は眉を上げる。

どういうことだ?

彼女は自分を見上げてニッと笑った。


神と手を繋いで共に歩いているのはバスケ部のマネージャーだっただ。彼女は昨年卒業した神より1学年上の先輩だ。

つまり、神は2年間彼女の世話になった。

性格が飄々としており、どんなときでもマイペースな彼女に敵うものはいないと思った。少なくとも、バスケ部の中では彼女に勝てる人間は居なかった。

隣を歩くは「神くんは忘れちゃったかなー」と呟いている。

「オレも、さんに会ったんですか?」

さっき『見た』と言ったから目撃されただけだと思っていた。

「うん、会話..したと思う。だって焦ったから」

どういうことかさっぱり分からない。

神が問うと彼女はくすくすと笑う。

「神くんって、ほら。高校の合格が決まってからすぐに部活に出てきてた組でしょう?他にもいたけど」

の言葉に神は頷く。

「だからわたしのこと、知ってたよ..ね?」

「ええ。さんは元気の良いマネージャーだな、って」

当時は特にそれ以上の感情は抱かなかったわけだが、今ではそんな彼女と手を繋いで並んで歩く仲となっている。

「で、その時期。神くんは小さな女の子を助けた」

そこは記憶にない。

神は首を傾げた。

そんな神の反応には笑い、話してくれた。



がこの土手を歩いていると目の前にひょろっとしたのっぽが桜を見上げていた。

この土手は部活の練習では使うことは殆どない。

走りこみは学校の周りを何周かする、という形だから態々こんなところまで足を伸ばさない。

だから、も安心してこの辺りをふらふらしていた。

すると、来年度入学する予定の子が桜を見上げていたのだ。

最初は「背が高い子だなー」くらいしか思わなかったが、よく見ると先日から部活に出ている入学予定者だったのだ。

やばいな、と思った。

何せ、自分は部活動サボってふらふらしているのだから。

たまには息抜きが必要と思って、実は時々サボっている。生理痛が酷いという話で。

と、言うわけで、本来なら家でゆっくりしておかなければならなかったのだが、どうにも気候が良くて家から出てしまった先での遭遇と言うわけだ。

逃げてしまおう、と思ったが何だか様子が気になる。

神は桜を愛でていたわけではなく、その枝に引っかかっている風船の紐を睨んでいたのだとやっと気が付いた。

足元に泣いている小さな女の子がいるから、彼女のものなのだろう。

しかし、あれだけしっかり枝に嵌っていたら簡単には取れない。

目を凝らしてその風船に印刷されているロゴを確かめては回れ右をした。


風船に印刷されていたロゴからその風船を配っている店が分かったので、そこで風船を貰って先ほどの場所に帰ってみるとやはり風船は割れたようだ。

少女が豪快に泣いている。

は被っていた帽子に自分の長い髪を入れた。

いつもコンタクトだが、今日は面倒くさくて眼鏡にしていたのでたぶん自分だとバレない、と少し安心する。

「これ、どうぞ」

が差し出した風船を不思議そうに見上げていた少女はぱっと表情を明るくして「ありがとう、お兄ちゃん」と言って駆けていった。

ちなみに『お兄ちゃん』といわれたのは、だ。

服装も、弟の服を適当に着て出てきたのでちょっと背の低い男の子に見えたようだ。

んー、それはそれでどうだろう...

複雑な気持ちでは振り返って笑顔で手を振る少女に笑顔で手を振り返した。

「あの」と神に声を掛けられて息を潜める。

見上げると少し複雑そうな表情を浮かべた神が「ありがとうございました」と礼を言った。

「あー、いや。さっき見上げてた姿見たからさ。ちょっと難しそうだったし...余計なことをした..んだよね?」

がいうと神は困ったように笑った。

「でも、あのままだとあの子ずっと泣き続けたと思うし。オレにはもう何も出来なかったから。ありがとうございました」

何だか居心地が悪くて「あー、じゃあ」と言ってはその場を後にした。



の話を聞いていた神は目を丸くする。

そのエピソードは覚えている。

小さい子が苦手になったのはそのときからだ。

神が信じられない、と言った表情を浮かべていたので、は自分の髪を帽子の中に仕舞った。

あの時被っていた帽子はキャップだから、今被っているキャスケットとは多少印象は違うかもしれないが...

「あ...」

神は呟いた。納得したようだ。

「サボってるのばれたらまずいなーって思ってさ」

そう言っては小さく舌を出す。

そんなを仕方ないな、と言った表情を浮かべて神は苦笑した。

本当に、仕方のない人なのだから仕方ないのだ。

「どこに行きますか?」

ノープランデートなので今からプランを立てなければならない。

「じゃあ、とりあえず東へ」

の言葉に「はいはい」と返して足は東ではなく、桜並木に沿ってゆっくりと進めた。









桜風
09.3.1


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