五月雨





久しぶりの登校だというのに、なんとも体が重い。今日は雨だ。

いわゆる五月雨ってやつだなとは思いながら廊下を歩いていた。

「おはよう、

声を掛けられて振り返るとそこに居るのは神宗一郎。海南大附属高校バスケット部の部員だ。

大きなスポーツバッグを肩にかけている彼はさわやかな表情を浮かべている。

「はよー...元気ねぇ」

「まあ、GWも変わらず部活があったからお陰さまで五月病とは無縁なんだよ。だってそうだろう?」

「残念。2連休あったのよ」

そう言ってため息を吐く。

も体育系のクラブに所属しているから休みを返上で部活動に勤しんでいることが多い。

県内トップの男子バスケ部ほどではないが、彼女のクラブもそこそこ県内でも『強豪』に入る。

「へえ?珍しいね」

「顧問がどちらも来られない用事があったから。ほら、さすがに顧問も副顧問も居ないのに部活をさせて事故が起きたら大変でしょ?」

なるほどね、と神は頷く。

「で、その2連休で見事に五月病になっちゃったんだ?」

クスクスと笑って神が言う。

「そう。見事に、ね」

肩を落としてはため息を吐いた。

「2連休、何してたの?」

「んー?ひたすら寝倒した。一応、ジョギングとか筋トレとか基本的なことはしたけど、ゴロゴロと...」

「贅沢だなー」と神は笑った。

別に羨ましいとか、次の休みはぜひ自分もそれを実践しようなんて思っていないが、それえもそういうダラダラした休日の過ごし方は贅沢に思える。

「でも、。暇だったなら応援に来てくれても良かったのに...」

神が少し恨めしそうに言った。

顔を見たらイタズラっぽく笑っている。本気ではないようだ。

「あー、パス。人が多いし、勝つって分かってる試合を見てもハラハラしないでしょ?」

「勝つ、ってのは決まってないよ。何が起こるかわからないんだから」

神が笑って言った。言ってることとその表情にかなりのギャップがある。

「何が起こっても勝てるように皆吐くほど練習してるんでしょ?4月とか、体育館傍の側溝は酷いことになってるもんね...」

「まあ、4月は特に多いよね。新入生が居るから。けど、もうそろそろ減ってくるよ。夏を過ぎるまで残ってたらたぶん最後まで残るんだろうって、去年も先輩が言ってたし。オレらの学年が一応そのとおりになってるし」

まあ、『強豪』はレギュラーの競争が激しいもんなー...

他人事のようには思った。

一応『強豪』に入るのクラブだって色々と競争が表に裏にと激しい。

「そういえば、のところもそろそろ恒例の練習試合じゃないかな?」

「あ、チェックしてるんだ?」

笑いながらが返すと「まあね」と神は返す。

「あるよ、今週末。IH予選前の大事な試合」

が言うと「あれ?」と神が首を傾げる。

「なに?」

「今週末って、雨だよね?」

「えー!」とは眉をしかめて抗議の声を上げた。

「オレに言われても...」と神は苦笑する。

「ホント?」

「うん、今朝の天気予報でそんなのになってたけど...雨天中止?」

「強さにもよる。そっか...今日と一緒で五月雨ってやつだね?5月に降る雨だから」

が言うと神は「違うよ」と指摘する。

「へ?」

「ほら、ああいう古い言葉は太陰暦。旧暦で考えるものだから、梅雨の時期の雨のことだよ。ひと月ずらして考えないと」

あー、そういえば、そうだ。中秋の名月とかも今の太陽暦の『秋』の考えとはズレがある。

「神ってバスケも勉強もできて...苦手なものは無いの?」

がずい、と不満顔を浮かべて迫って言った。

そんな彼女の行動に神は苦笑する。

がこうやって迫ってきても神の背が高いから距離は中々縮まらない。

「そうだな...」と神は考える。

考えるなんて思っていなかったは興味津々に神の返事を待った。

「敢えて言うなら...」

「敢えて言うなら?」とは続きを促す。

「恋、かな?」

は笑顔のまま固まった。

この嘘つきが、と言いたいけど言葉を呑んだ。

「モテモテのクセに?」

「好きな子に好意を返されなかったら意味無いよ。あ、これ、大きな声で言えないことだよね?」

そう言って神は自分の唇に人差し指を当ててイタズラっぽく笑う。

「そうかー。神にも苦手なものがあったのか...」

「まあね。好きな子を前にしても特別な態度を取れないのが玉に瑕というか...良いお友達で終わるんだ」

神の言葉には笑う。

「意外」

「よく言われる」

の言葉にそう返して神は笑った。









桜風
09.5.1


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