| 青い空!白い雲!輝く砂浜!そして、どこまでも広がる大海原!! 海です。 海といえば... 「あはは〜!あたしを捕まえてごらん」 「待てよ〜」 なラブコメ!! 「...馬鹿だろう、お前」 不意に頭上から容赦がない冷ややかな声が落とされる。 「うっさい、だまれ」 仰ぎ見るのが悔しいので見上げることをせずに返した。 「てか、何よいきなり。『馬鹿』って。馬鹿っていうほうが馬鹿って知らないの?」 「それって、ガキの言い分だろうが。お前、いくつだ」 ああ言えばこう言う。 「てか、そろそろ働け」 「はいはーい」 やさぐれながら返事をすれば「『はい』は1回」と余計なことを言われた。 あー、ムカつく! あたしだって、アレがやりたいわけじゃない。 実際やってるやつが居たら冷やかーな視線を進呈してさしあげるつもりだ。 しかし、あたしが言いたいのはこんなことじゃない。 良いかね?夏だよ、夏。 世の中では、『ひと夏のアバンチュール』なんて言葉があるくらい夏は『恋』の季節なのだよ。 ...『アバンチュール』の意味は知らないけど。家に帰ったら辞書を引いておこう。 それなのに、それなのにあたしと来たらどうだい? 貴重な青春をこんな汗臭いことに費やして... 3年間クラスメイトをすることになった藤真健司。 本性を知らない他校と後輩たちには超人気者の彼は、性格がアレな俺様だったりもする。 いや、その俺様な性格も意外と知られていない。 計算高いらしい彼はその俺様の性格を巧みに隠しながら学校生活を送っているのだ。 俺様な性格は言い換えると『いい性格』というやつで... 何であそこで頷いちゃったんだろう。 事の発端。それは、約半月前だ。 我が翔陽高校バスケ部は県内のトップクラスで全国大会も常連といわれていた。 しかし、今年はその全国大会こと、インターハイへの出場を逃してしまったのだ。 それなのに、彼らスタメンの3年生は冬の大会を目指して全員が現役で残った。 まあ、彼らはとてもスポーツがお出来になるから進路に不安はないのだろう。 しかし、残念なことに翔陽高校バスケ部にはマネージャーなるものが居ない。キツイらしいと言う噂は聞いたことがある。だから、すぐにやめてしまうとか。 その『キツイ』要素にはキャプテン藤真の俺様な性格も入っているとは思うのだが。 それはともかく。 夏休みに合宿を組んだとか。海だ。 しかし、どうにもマネージャーが居ないと具合がよろしくないという。 今まで居なくて困らなかったんだから今さら具合とか言われても、というのがあたしの感想だが、藤真が言うには具合が悪いらしい。 何故このあたしにそんな話をするのかと思いながら聞いていた。 何せ、このあたし、は今までの定期テストでの補習を免れたことが1度もない。 自慢にならないと友人たちは言う。確かに、自慢にはならないが、ある意味タイトルホルダーだ。今まで定期テストすべてにおいて補習を受けているのは翔陽の歴史が始まって以来、あたしだけだと以前数学教師から長々と聞いた。 もちろん、さすがに『全教科』なんてお約束なことはなく、多くて3教科くらいだ。 だが、その3教科でも補習期間的には結構取られる。しかも、今年は受験生という看板をしょっているので尚更長くなるという噂で持ちきりだ。 出来れば、1教科くらいで済ませたい。さて、どの教科を捨てようかと悩みながら適当に藤真の話を聞き流していた。 「というわけだ。どうだ、」 「良いんじゃない?」 そう、あたしは『適当に聞き流し』て、返事をした。 「よし、じゃあ今日から早速な」 満足げに藤真は立ち去っていった。 「良かったのか、」 心配そうに見下ろしてきたのは藤真のなぜかマブダチである花形だ。 花形は良心の塊で..ああ、だからマブダチなのか。フォローして回っているから... フォロー? 「へ?いま、藤真何言ってたの?」 「やっぱり聞いていなかったのか...」 ため息混じりに花形はそういい、先ほどの藤真の話をかいつまんで説明してくれた。 「は?!何であたしが??」 「だが、は返事をしてしまったんだ。ちなみに、藤真はお前が話を聞いていないのはお見通しだったぞ」 あんのヤロー! 藤真の提案であったテスト前のあたしの勉強を見るという成果のおかげであたしはタイトルを手放してしまった。さよなら、チャンピオンベルト... そして、藤真の提案の先にあったのは補習を免れた暁には、臨時マネージャーとして翔陽高校バスケ部の合宿についていくことだ。 もちろん、あたしの合宿費用は部費でまかなってもらえることとなっていた。 あたしは合宿の初日に藤真から『マネージャーのすることリスト』というものを受け取り、それをこなしていく。 とりあえず、難しいことはない。ただ、体力と気力と根性が要るだけだ。 『だけ』とか強がってみたが、意外とキツイ。何より、俺様が俺様なのだから、そりゃ夜逃げしたくもなるわ... しかし、インターハイ常連といわれる強豪バスケ部もやはり努力なのだと感心した。 今までは華やかな、それこそ結果しか見たことがなかったから知らなかった。 汗だくになって、ヘロヘロになりながら走って...彼らは1日が終わる頃にはボロボロだった。 正直、あたしには出来ない。やりたいとも思わないけど。 「どこまで行ったら満足なの?」 ふと、息抜きに、と思って合宿所からこっそり抜け出すと、走ろうとしていたのか藤真が居たから聞いてみた。 「どこまでも」 つまり、満足することはないということ..なのだろう。 正直、頭は良くないので直接的な表現をしていただけると非常に助かるのだが、直接的な表現ではしっくりこないことだってあることは知ってるから確かめない。 「藤真ってさ」 準備運動をしている藤真は「んー?」と体を伸ばしながら相槌を打つように声を出す。 「意外と凄いね」 素直なあたしの言葉だ。 俺様だけど、部活動中も俺様な王様だけど、人に言う以上に自分が努力しているのだから、言っても良いとあたしは思う。 「惚れても良いぞ」 「あ、それはムリ」 軽く返すと藤真はムスッとするかと思ったけど豪快に笑った。 「何だ。なんだったら砂浜の追いかけっこに付き合ってやろうかと思ったのに」 何故それを知ってる?! けど。 「藤真に追いかけられたらあたしなんてすぐに追いつかれるじゃない。そんでもってそのまま組み敷かれて..海老反りとか決められそうで嫌だもん」 あたしの言葉にまた藤真は笑う。 「まあ、そうだな。膝挫脚固とかもいけそうだ」 「...それってかなり痛そうなんだけど」 「おう、簡単には落としてやんねーから、覚悟しとけ」 俺様な上に鬼でもあったらしい。 「ああ、そうだ。」 準備運動も終えて走り出す寸前の藤真が名前を呼ぶ。 「なーにー?」 外の空気も吸ったし、朝も早いしそろそろ合宿所の自分の部屋で寝ようと思ったのに。 「ありがとな」 ここが、藤真の藤真たる所以だと思う。 突然の言葉にあたしの声は中々出てこなかったので、軽く手を上げて応えた。 藤真は満足そうに笑って駆け出した。 あー、何か悔しいな... |
桜風
09.7.1