大凶





おみくじを引いた途端「げ..」という言葉が漏れた。

『大凶』だ。

何だか今年1年が物凄く不幸な1年になりそうで深い溜息を吐いた。





正月休みが終わり、部活が始まる。

と、いってもあと数ヶ月で卒業の自分は出る必要はないが体を動かすことが好きなので、出席していた。

正直、後輩からしたら目の上のたんこぶかもしれない。

まあ、知ったことではないが...


そうして、「奇跡的」と周囲は言っていたが自分の進路先の海南大附属高校の合格通知が来たのはその1ヵ月後だ。

そのときには、もうおみくじでなにを引いたかなんて覚えていなかった。



春休みのうちに部活には出た。

体を動かすのが好きなので、以下略だ。

元来の性格からか、先輩たちには可愛がられた。

そして、殊更自分を可愛がってくれる先輩が居る。バスケ部のマネージャーだ。

「ノブ」と自分のことを呼んでくれる。

優しい、先輩だと思う。

周囲の先輩たちは「いやいや、だまされてるぞ」と言うが、それを真実だとは思えないくらいいい先輩なのだ。

そう、思えなかったのだ、当時は。


せんぱぁ〜い!!」

「情けない声を出さないの、ノブ!」

ぴしゃりと怒られた。

現在、信長はマネージャーのにこき使われている。

本人は全くそのつもりはないらしい。

さすがに信長がかわいそうになった先輩たちが「あまりこきつかってやるな」といったのだが、彼女はきょとんとしたのだ。

ああ、コイツ自覚ないな...

そう悟った先輩方は皆、彼女の説得を諦めた。

そこまでの労力を使ってまで信長を救出する気がなかったのだ。だから、それは仕方ない。

「オレ、レギュラーで大変なんですよ」

「あたし、マネージャーで、もっと大変なのよ」

ああ言えばこう言う状態。

「マネージャーなんてそんなに大変じゃないじゃないスかぁ...」

あ、と周囲は息を飲む。

なんて事を言ってくれた、信長!

そう声に出して非難したかったが、万が一の確率で今の信長の言葉を流してくれるかもしれない。そんな彼らの希望を断ち切ったのは彼女の「ふっふっふ」という低音の笑い声だ。

「そう?じゃあ、あたしは要らない子なのね?」

そう言って目の前の仕事を放り投げてはそのまま体育館を後にした。

「バカ!」「謝って来い!!」

などなど、先輩たちからの非難轟々に信長も余計に意地になる。

そんな信長を見てキャプテンは溜息を吐いた。




翌日、教室に赴いて牧は昨日仕事放棄したマネージャーを尋ねた。

「なんでしょうか」

「清田も反省している」

「残念でした。今朝、靴箱で盛大にあたしの悪口を間の悪いことにあたしの耳に届くくらいの音量でこぼしていました」

本当に間が悪い。

「お前も大人気ないぞ」

溜息混じりに牧が言う。

が信長を気に入っているのは見ていてわかる。

その感覚も何となく分かる。

信長は、こう..忠犬という言葉がつきそうなくらい、まっすぐなのだ。

可愛いといえば、まあ、可愛いと思う。

がそういうタイプが好きなのは知っている。

何せ、は愛犬家だ。

「あいつの言い方が悪かったのは確かに納得する。オレがあとでちゃんと言い聞かせるから。けどな、。あいつは1年で唯一のレギュラーだ。ついでにいうと、それは大変だし、練習量も自ずと増やさなければならなくなる。お前も2年目なんだから分かるだろう。少しは手加減してやれ」

さすがにキャプテンのお説教というか説得を耳にしてはしゅんとした。

明確な返事はなかったが、たぶん、彼女も分かってくれただろう。

牧はそう判断して「放課後、部活に来てくれよ」と声をかけてそのままの教室から去っていった。

その日の放課後はちゃんとマネージャーが居る部活だった。

ただ、マネージャーが物凄く不本意そうに、嫌そうにしている。

それはそれで士気が下がるのだが...

信長の失言は注意しておいたが、その元となったのはの分かりにくい可愛がり方だ。

もうこれ以上首は突っ込みたくない牧は静観することにした。自分だって好き好んで巻き込まれたいとは思っていない。


「あ、あの..先輩」

信長も昨日の失言は反省していた。そこで牧に注意されたので此処がちょうどいいタイミングなのだろうと思って謝ることにした。

「今年の初詣でね、大凶引いたの」

「は?」

何だ?何の話が始まった??

信長は気をつけの姿勢になった。

「いやの事がたくさんある1年になるんだなーって思ったの」

「...はぁ」

「でも、楽しかったから..ちょっと調子に乗ったの」

えーと、つまり。何だ?

「ごめんね?」

「あ、いや。あの俺もすみませんでした!」

信長は深々と頭を下げた。

「時々は、手伝ってくれると嬉しいのです」

が言うと信長はニッと笑った。

「いいっスよ!!」

「ありがと!」

はそう言って笑った。









桜風
10.1.1