甘さ控えめ





一緒に帰る約束をしているので教室で待っていると部活を終えた神がやってきたのだが、机の上にバッグと朝は持ってなかったと記憶している荷物を置いた。

は目の前のものを目を丸くして眺めていた。

「マンガみたい」

の呟きに神は苦笑した。呆れたように、困ったように。

「俺もそう思う」

目の前には紙袋が3袋。しかも、大き目のものだ。

「マネージャーさんも大変よね」

「1年も手伝うよ」

朝にはなかった荷物はバスケ部に全国から送られてきたプレゼントだ。毎年バレンタインにあわせて大量に送られてくるらしい。

こういうイベントがないと他校生は中々プレゼントを贈れないのでこの機会を逃すことなく送られてくるようだ。

しかし、この紙袋にはそれ以外のものもある。そう、この学校の生徒からのものもある。

しかも、告白の手紙つき。

もちろん、手渡しで持ってきた子に神は「自分には彼女がいるしその子の事がとても好きだし大事だからその気持ちに応えられない」と言って断るのだが、靴箱の中や机の中。ロッカーの中にぎゅうぎゅうに押し込まれたそれについては責任が持てない。

かといって学校で捨てるのはダメだとに言われたので渋々持ち帰ることにした。

まあ、自分には姉がいるので彼女に進呈しよう。きっと喜ぶはずだ。

「どれか持とうか?」

が言うと「いいよ」と神は苦笑する。

こういうとき、『彼女』というのは嫉妬とかあってしかるべきではないだろうか。彼女はこういうことを強く言わないので時々不思議だ。他の..先輩や同級生の話を聞くと『彼女』というものはこういうことで理不尽に怒って拗ねると聞くのだが...

は、こういうの気にならない?」

「毎年見る光景のひとつだから、と思うと...ね?」

どうやら気になることは気になるが目くじらを立てて何か言うことはないようだ。

しかし、「由々しき事態だわ」と彼女が呟いた。

「何が?」

「だって、ほら。一応さ。私は学校でも結構有名人を自負しているのよ?」

「俺の『彼女』だって?」

少しぎこちなくは頷く。

「でも、これ。少なくともこの袋のうち1つは校内で渡されたものでしょう?」

「『渡されたもの』は何ひとつないけどね」

全部勝手に押し付けられたものだ。

「まあまあ」とが宥める。

とはいえ...ちらりと神が持っている紙袋の様子を見た。物凄く値の張るものまで入っている。

神がとても人気のある男子ということはこの身を持って知っている。基本的に人当たりが良いのでそれで女子も好感を持つという事も理解できる。この自分でさえドキッとすることが多いのだ。

はぁ、と神に気づかれないように溜息をついた。

しかし、神が気づかぬはずなどなくの溜息に神は首を傾げる。

「ねえ、

「はい?」

「何か悩み事?溜息とか...」

そこは気づかないフリをするのが紳士としての...とか思ったが「特には」と返す。

「うそだ。ほら、言ってごらん?俺、凄く頼りになるの知ってるでしょ?」

物凄く頼りになる。自分で「頼りになる」と言っても『自信過剰』にならないのが神宗一郎だ。

「いや...私って虫除けにすらならないのね、って。他校の子達は知らないかもしれないけど。せめて校内は...」

そう言ってちらりと神が持っている袋に目を向けた。

これから自分が神にプレゼントしようと思っているものもあの中に埋没してしまうのではないかと思うとさらに気が重くなる。

「まあ、どちらかといえば向こうはがいるから躍起になっている感じもあるけどね」

神としてはそんな感じを受けている。だって、本気で気持ちを伝えたいならちゃんと手渡ししてくるだろう。

今回、そうやって手渡しで来た子達はのことを知らないか、知っていても自分の気持ちを伝えたいって言っていた人たちばかりだった。だから、自分もきちんと応えた。

「そういえば、は?」

「んー?」

「俺にくれないの?」

「それだけもらってまだ要るの?!」

が目を丸くしてそう言い、神はうっすら傷ついた。

「『私がプレゼント』てのでも有りだよ?」

「エロオヤジなセリフは禁止」

笑ってが返す。半分本気だった神は「ちえー」と言う。

「ほら、プラスワンで申し訳ないけど...」

ありきたりのもの。せめて何か工夫したものを作るなり買うなりしたら良かった...

今反省しても仕方ない。

「それ、何?」

「ん?あー、その中の半分以上と同じもの。チョコ」

「手作り?」

「心をこめて」

神は嬉しそうに微笑んだ。「ありがとう」と受け取る。

そして包装紙を剥がし始めた。

「今食べるの?!」

「お腹空いてるし」と言いながらの手作りトリュフをひとつ口の中の放った。

思ったよりも甘くない。

「もしかして、甘さ足りない?」

慌てたようにが覗き込む。

「んー、大丈夫」

神はそう言って腰を屈めてにキスをした。

暫く重ねていた唇を離して神は「ほら、甘くなった」としゃあしゃあと言ってのける。

「...ば、ばか!!」

真っ赤になってぽかぽかと自分を叩くに「ははは」と神は楽しそうに笑う。

そしてもう1個口の中に放った。

甘さ控えめのそれはとても優しい味がする。

「美味しいよ」

「それは良かった」

が微笑んで隙が出来たので、神は再び彼女の唇を盗むことに成功し、その後やっぱりぽかぽかと叩かれた。









桜風
10.2.1