十六夜





満月の次の日。

その方が月が明るいと聞いたことがある。

本当かなぁ...

空にぽっかり浮かんでいる月を見ながらそんなことを思った。

でも、月は大きくなったり小さくなったり忙しい。けれども、直視できる。うん、人にやさしくできているのだ、きっと。

「お待たせ」

声を掛けられて振り返る。

「お疲れ様」

待ち人来たる。

日もとっぷり暮れている。秋の日は釣瓶落としなんだっけ?

「またなんか色々考えている」

愉快そうに神が言う。

「うーん、まあ。人間は考える葦である。...誰だっけ?」

「パスカル」

「そうだった。苦手なのよね、こういうの。言葉だけは覚えているんだけど」

「まあ、は理系だもんね」

「そんなことを言う神は..パーフェクト?」

「数学は、好きじゃないなー...」

「得て不得手で話をしたら?」

「まあ、そこそこ」

そんな会話をしながら学校の敷地を後にする。


「乗る?」

「うん」

神がサドルに跨り、わたしはその後ろに立つ。

「トンボ、買おうか?」

『トンボ』とは後輪に装着して足を掛け易くする物だ。

「ううん、大丈夫」

神の自転車は比較的足が掛け易い。

「じゃあ。荷台付けようか」

「それも大丈夫」

そう言うと「ま、が言うなら良いけど」と神が呟く。

「さ。いっけー!」

そう言って前を指差す。

わが海南大附属高校は坂の上にある。来るときは大変、でも、帰るときは気持ち良いのだ。

自転車のときに限るけど。

風を切って自転車が坂を下る。

「あははは!」と思わず笑い声を上げる。

坂を8割下った頃から神はブレーキを掛けはじめる。ゆっくりと減速。そして、危なくない速さで公道に出る。


「知ってた?今日は十六夜だよ」

神に声を掛けると「え、本当?昨日団子食べてないなぁ...」という呟きが返ってきた。

「人の心って月の満ち欠けに影響されるって言うじゃん?」

「うん、聞いたことある」

「あれって、ホントかな?」

興味本位で聞いてみた。「うーん」と神が真剣に悩み始める。

「けど、昔は今みたいに街灯がなかったし。だったら、新月は真っ暗だろうから悪いこととかしやすかったっていう環境の話じゃないのかな?」

「わ、冷静...」

「面白くなくてごめんね」

わたしの感想がからかいと思ったのか、神は少しだけ機嫌を損ねたような声音でそういった。

「いえいえ。けど、きっとそうなんだろうね。心理学とかで分析したら結局『なーんだ』ってなりそうな現象だ」

そう言って空を見上げる。


いつまでもついてくるお月様。

「ねえ、神」

「んー?」

「今度月に行こうよ」

手を置いている神の肩が震える。

「んー、それはちょっと時間掛かるかもな。色々と障害が多くて大きそうだ」

「ま、気長に」

「それなら、たぶん..は得意だね」

「うん、任せてよ」

そう答えると「ははは」と神が声を出して笑う。

は月に行って何をしたいの?」

「餅をつく!」

拳を握った右手を空に向かって伸ばした。

「ウサギは良いの?」

「そこは、臨機応変に」

「じゃあ、バニーさんの格好したら?ウサギさん」

「神もお年頃ね」

「まあね。どうせ見るのは俺だけだろうし」

「残念。スペースシャトルのパイロットさんが居るわ」

「それは盲点」

そう言って神が笑う。


次の角を曲がればわたしの家。

空を見上げる。

では、またあした。

空にぽっかり浮かんでいる月に挨拶をして自転車を降りた。

「じゃ、また明日。今日もありがとう」

「うん、おやすみ









桜風
10.9.1