| 「おじゃましまーす」と幼馴染である流川の家に上がり、そのまま気にせずにまっすぐ目指した部屋のドアを開けてはむせた。 「うっわ。今年もまあ、大漁ですなぁ...」 不機嫌な表情で振り返った流川に悪戯っぽい笑みを浮かべる。 「ほい、トドメ」 そう言って自分が持ってきた菓子もちょこんとその山に乗せた。 「持って帰れよ...」 「毎年悪いわねぇ...で、チョコじゃないので市販のもの、どれ?」 目の前の不機嫌に全く怯むことなく、は山を漁り始める。 「そっち」と既に山を仕分けていたのか、小ぢんまりとした山を指差した。 「まあ、少ない!」 「市販のもの、っつったらそれだけになるんだよ」 「そりゃ、バレンタインコーナーっていうところには、嫌がらせのようにチョコレートしか並んでないもんね。あ、このあられ可愛いよ」 さっそく包装を解きながらが言う。 うきうきとした口調のに流川は溜息をついた。 欲しくて貰っているわけではない。 自分は甘いものが好きと言うわけでもないし、これは結局贈る方の自己満足だろう。 こんなことを部活で言えば物凄く怒られそうだが、本当にこれを持って帰る者の身にもなってもらいたいものだ。 「どうやって持って帰ったの?」 「が手伝わねぇから、何とかひとりで持って帰ったに決まってるだろうが」 やはり不機嫌だ。 「だって、楓と懇意であることを知られてしまったら、わたくし、素敵なハイスクールライフを送れませんもの!」 しなを作って口調を変えてが言う。 「気持ち悪ぃ...」 そりゃそうだ、と心の中で同意しつつ「と、いうわけです」とは自分の主張を締めくくった。 は元々流川の家の近所に住んでいた。 しかし、両親が念願のマイホームを購入することなり、引越しを余儀なくされた。 と、言っても流川の家までは自転車の圏内だし、今では学校が同じだ。 中学2年で引越し、高校で再会した。 全く懐かしいという感慨はなかった。 同じクラスになるでもなし。それなりに言い距離が取れる。 ただ、流川は良い意味でも悪い意味でも有名で、彼の言動はよく耳にする。 まあ、最後に見たときから背が高くなっていたのには驚いたが... は中学のときから2月の半ばはおやつに事欠かなかった。 何せ、幼馴染がおすそ分けしてくれる。 レベルとしては『おすそ分け』ではないが... 「もてるのも大変ねぇ」 からかうように言うと流川はを軽く睨んで視線を外した。 ご機嫌を損なってしまったようだ... 肩を竦めては流川が用意していた菓子に手を伸ばす。ポリポリと小気味の良い音が部屋に響いた。 「あられ、美味しいよ?」 そう言ってが流川にそれを差し出す。 彼女の手にあるまま流川はそれにぱくりと食いついた。 「甘ぇ...」 「ざらめがついてるもん。けど、あられがちょっとしょっぱいから丁度良くない?」 「茶が欲しくなるな...」 「淹れてこようか?」 の言葉に流川が頷く。 お茶を淹れて戻ってくると流川がの持ってきた菓子に手を伸ばしていた。 「それ、賞味期限はまだ先だよ」 お茶を置きながらが言うと、「これは食う」と流川が言う。 市販のものの残りはおそらく彼の姉に行き、手作りは申し訳ないがさよならなのだろう。 2人でテーブルを囲んで菓子を食べる。 地域限定ものとかもあって盛り上がった。一見だけが盛り上がっていたように見えるだろうが、流川もそれなりに盛り上がった。 「さーて、帰ろうかな」 伸びをしてが言う。 自転車圏内と言ってもそれなりに時間は掛かる。 部屋の時計を見て「ああ」と流川が頷いて立ち上がる。 「送ってやるよ」 「だから、素敵なハイスクールライフのために」 「見えやしねぇよ」と言いながら流川はコートを着始める。 では、言葉に甘えようかと思ってもコートに手を伸ばす。 「おい、」 名を呼ばれて振り返る。 「ビックリした」 ポリポリと音をさせながら流川が口に突っ込んできたプリッツを食べる。 それは自分が彼に持ってきたもので、自分の好きなものでもある。 「行くぞ」 「はいな」 流川からもらった菓子もしっかり手に持ち、は彼の部屋を後にした。 |
桜風
11.2.14
11.4.24再掲
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