差し入れ





ふと体育館をぐるりと囲んでいるギャラリーの中に見慣れた少女が居た..ような気がする。

花形は首を傾げた。

体系的に人ごみが得意ではなさそうな彼女が、何でまた態々休日の今日に学校に来て、さらに人ごみの中にまぎれているのだろうか。

その合理的な理由が思い浮かばなかったので見間違いということにした。

と、言っても。

我が翔陽高校の制服を着たあんな小さな女の子は彼女くらいしか居ないと思うのだが...


試合が終わって体育館裏の流しに向かった。

体育館の中は息苦しい。

試合を終えたばかりの選手たちに女子たちは我先にと群がっていた。その女子の中には、他校の子もいるのだから、いやはや何とも...

「花形くん」

顔を洗っていると声をかけられた。

これまた聞きなれた声だ。

タオルで拭いて眼鏡をかける。彼女は流しの向かいに居た。遠くから見ると、もしかしたら流しの仕切りに隠れて見えないかもしれない。

、どうしたんだよ」

やはり、あのギャラリーの中にまぎれていたのはだった。

「んー、これ」といってなにやら可愛らしい手提げ袋を掲げた。

その中身が分からないため、花形は首を傾げる。

「藤真がね。昨日、差し入れをよこせって言ってきたの」

言いそうだ。

ホントに言いそうで、「申し訳ない」と花形は素直に謝った。

「そしたら、体育館の中では握手会が始まってるじゃない?アレに並んでまであげたいとは思わないし...で、花形くんを発見したらこうして声をかけたの」

へへ、と笑ってが言う。

「中身、何?」

花形が聞いた。

最初何の話か分からなかった風なだったが、「ああ、これは甘いもの。ゼリーだよ」と答える。

「藤真のだけ?」

「...だって、部員さん何人居るかわかんないもん。物凄く多いぞーって藤真が言うし。全員分は無理」

それは非常に面白くない。

「けど、藤真ってば何であんなにプレゼントをもらえるのに差し入れよこせなんて言ったんだろう...」

ブツブツとが呟いている。

「それは、にちょっかいが出したいんだよ」

「えー!?かなり迷惑!」

はっきりというに苦笑する。

は、可愛いからな。素直に反応してくれるし」

花形がそういうとは目を丸くして止まった。彼女の周囲の時が綺麗にフリーズ状態に陥った感じだ。

?」

花形がしゃがんでの顔を覗き込む。

腰を曲げて覗き込むよりも随分その方が楽で早い。

「...あ、あのね花形くん。年頃の娘さんに『可愛い』とかいうのは良くないと思うのよ。かなりに破壊力があるからね。男の子にとってはそんなに気にならない言葉かもしれないけど...」

わたわたとが言った。

『年頃の娘さん』という単語が少し面白かったが花形は笑わずに「年頃の男にとっても簡単に言える言葉じゃないな」と返す。

「は..花形くん?!」

花形の言葉によるのパニック状態は続く。

だが、それをあっさりと打ち消したのも花形の言葉だ。

、それ俺にくれないか?」

そういってが藤真に作った差し入れを指差す。

「へ?え、あ..あれ?」

首を傾げるに花形は「ダメか?」と念を押す。

「ううん、ダメじゃないんだけど。ホントは花形くんのも作ってこようと思ったんだけど、花形くんは差し入れを一切断ってるって聞いてたから...」

なんと惜しいことをしたのだろう...

「まあ、確かに。断ってるけど...」

普段は藤真のように試合後に一々差し入れやプレゼントをくれる子を相手にするのが億劫だったからそのようにしたのだ。

「でも、そうだね。どうぞ」

はあっさりと手提げ袋を渡してきた。

欲しいと言ったのは自分だが、ホントに良かったのだろうか。

「大丈夫。藤真が文句を言ってきたら『文句があるならベルサイユへいらっしゃい!』って言ってやるから」

カラカラと笑いながらが言う。

何のことやら、と思った花形は苦笑をした。

受け取った袋からかわいらしい器に入ったゼリーを取り出す。

「グレープフルーツの寒天ゼリーだよ」とが解説する。

「美味そうだな」

「うん、美味しいよ。ちょっと酸味が効いてるから疲れてるとちょうどいいんじゃないかなって思ってるの」

「次、試合があったら俺に差し入れを作ってきてくれるか?」

は目を丸くした。

そして、苦笑をして「けど、試合は見なくてもいいかな?」という。

何故だろう、と思っていると

「場所取りに負けちゃったら見えないの...今日も実は試合が良く見えないまま終わっちゃった」

と少し寂しそうに言う。

ああ、そうか。

今日は人垣の向こうにいたから試合が見れなかったかもしれない。

かといって、朝早く来て場所取りをしてまで試合を見てくれなんて言えないし。

1年に場所を取らせてもいいけど、それはそれでが気を遣うだろう。

「見て欲しいのは山々だけどな」

そう自分の気持ちを口にしつつも彼女の事情も分かるので頷いた。

「ありがとう」といっては笑った。





リクエスト内容
『短編の「憧れの150センチ」シリーズの設定で練習試合観戦をヒロインがする
→試合後に花形のところに行く(差し入れ付き) で、ちょっと甘めな感じ』


リクエストありがとうございました!!





桜風
09.7.5


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