マイバッグ





授業の間の短い休憩時間、次の授業をサボるために屋上へ向かう廊下でそれを目にした。

「あれ、流川じゃねぇの?」

サボり仲間の大楠がそういう。

確かに、流川だ。

しかし、その隣に立って彼を見上げて笑っている女子生徒に見覚えがあった。

「あれ?」

「どうした、洋平」

「ああ、いや...」

そんな会話をしていると流川がこちらを見る。

それにつられたように彼女がこちらを見た。

彼女は驚いたような表情を浮かべたがやがて笑って手を振る。

「おー、オレか?!」

そう言って野間が手を振った。

彼女は困ったように笑ったが手を振ったままだった。

いい子だなぁ...

洋平はそう思いながらも自分も軽く手を上げてそのまま屋上へと向かった。


「あいつら、知ってるのか?」

手を振っている彼女、に向かって流川が言う。

「ん?あいつら、っていうか。ほら、あのオールバックの」

の言葉にああ、あいつかと流川も彼のことはそれなりに知っているので頷いた。

「あいつが、何?」

「この間、お世話になっちゃって」

「世話?」

が言うには、先日買い物をしたのだが、そのとき買い物袋の底が見事に破けてしまい、どうしたものかと途方にくれていたところになぜかマイバッグを持っていた彼に出会ったそうだ。

「借りたままだったから、返さなきゃって思ってるの。あの時も制服だったからウチの学校だって言うのは分かってたけど...楓も知り合い?」

の言葉に少し悩んだ流川は「別に」と答えてそのまま教室へと戻っていった。



翌日、はもう一度流川の教室を訪ねる。

「何だよ」

「昨日の、オールバックの人のクラス、教えてよ」

その言葉に流川はムッとした表情を見せた。

しかし、元々無表情で、ムッとした表情も正直あまり変わらないのでにはそんな複雑なオトコゴコロは届かない。

「さあ?」

「意地悪で言ってる?ホントに知らない?」

じっと目を見て言われて溜息を吐き、「7組くらい」と短く答える。

「7組?!わたしの方が近いじゃない」

「みたいだな」

そう返す流川に「ありがとう」と返しては7組に向かっていった。

流川はやっぱり面白くなさそうな表情を浮かべての背中を見送った。


7組の入り口から教室の中を覗く。

「いない、かな...」

「誰が?」と不意に背後から声を掛けられて「きゃあ!」とは思わず声を上げて慌てて手で口を覆う。

教室の視線が一斉に自分に向いていることに慌てた。

「ははっごめん。そんなに驚くなんて思ってなかったから」

そう朗らかに言うのは先日のマイバッグ男子だった。

「あ、えーと...です」

名前を呼びたいが、知らない。しかし、名前を聞く前には自分が名乗るのが礼儀と思って唐突に自己紹介をした。

そんなに少し驚いたのか、彼は少し目を丸くしてそして笑いを堪えながら「水戸洋平だよ」と名前を教えてくれた。

「水戸くん。この間は、ありがとう。これ、遅くなっちゃったけどお礼」

そう言って洋平のマイバッグとクッキーを渡す。

「ああ、そんなに気にしなくていいのに」

そういいながら洋平は礼を言いながら受け取った。

「じゃ、これで」

「ああ、ねえ。さん」

呼び止められたは駆け出そうとしていたその姿勢のままで止まった。

まるで非常口を示すあの緑色の非常灯に描かれているイラストの中の人のような格好だ。

それを見た洋平も思わずプッと噴出す。

何故笑われたか気づいたは脚を閉じてわざとらしく制服のスカートをパンパンと軽くはたいた。

「何?」

「あ、いや。ほら、昨日。流川と仲良さそうにしてたから」

そんなに仲が良さそうかな、と思いながらは首を傾げる。

「あいつが誰かと普通に話してるのって中々見ないし。結構付き合い悪そうだろう?」

「あー...そうかも。ただ、楓とは昔からの知り合いで。ウチの姉とあいつのお姉ちゃんが凄く仲がよくて、わたしもお姉ちゃんについてあいつの家に行ったりしてたから」

なるほど、と洋平は何となく納得した。だから、か。

ただ、まあ。もうひとつくらい別の理由がありそうだな、と何となくを見て苦笑する。

「水戸くん?」

「ああ、いや。そうそう。さんってバスケ部の練習の見学に行ったことある?」

は目を丸くして首を横に振る。

「じゃあ、今度行ってみない?面白いものが見られると思うよ」

洋平のいう『面白いもの』とは主に花道のことで、そして運がよければ時々繰り広げられる流川との幼稚ともいえる喧嘩の様子が見られるかもしれない。

少し考えたは頷き、「面白そうね」といった。

「じゃあ、今度声を掛けるよ。そういえば、何組?」

「3組」

「ああ、階が違うなぁ...だから、見なかったのか」

「そうみたい」

洋平の言葉には頷いて苦笑した。

「じゃあ、また」

「うん、またね」

ちょうど予鈴が鳴り始める。

「やばい、次体育だ!」

そう呟いては駆け出した。

洋平は面白そうなものを見つけた目を向けてその背中を見送った。





リクエスト内容
『ヒロインは同級生で流川とのVS風味な水戸』

リクエストありがとうございました!!






桜風
09.8.2


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