| その日はIH予選前の最後の練習試合だった。 相手校を訪ねていくと、久しぶりに見る顔があった。 「センパイ...」 隣を歩く彩子がそう呟く。 対戦校の到着に気がついたは小さく手を振った。 彩子はぺこりと頭を下げて、その横の流川はじっとを見た。 家は近いが特に家族間の交流があるわけでもなく。 それでも、小中学校までは学校が同じということと、元々面倒見が良かったの性格のおかげでよく顔を合わせていた。 しかし、よく顔を合わせていたといっても、彼女は2つ上で、中学のときは自分が入学した1年後にはもう彼女の居ない学校生活だった。 高校は、どこに行ったとか言う特に噂にのぼるほどの高い偏差値の学校に行かなかったのか、彼女の進路先は分からず仕舞いだった。 分かったからと言って追いかけるなんて事は考えてはいない。 それに意味がないと思うから。 だから、中学のときも制服を着ている彼女を見ても学校は聞かなかった。一方、彼女は「懐かしい!」といいながら自分の制服姿に笑顔を見せていた。 「センパイ、ここの学校だったんだ...」 彩子が流川を見上げてそういった。 「みたいっスね」 「...知らなかったの?!」 驚いた様子の彩子に流川はこくりと頷いた。 流川の家との家が近所だということを知っている彩子は流川のその答えは意外だった。 練習試合は、湘北の勝利で終わった。 あまり接戦とは言えない試合内容に肩を落とす選手たちには声を掛けて元気付けている。 彼らはの言葉に頷き、その様子には嬉しそうに笑う。 数年前までそうやって声を掛けられる側だった流川には彼女のその姿が遠いもののように感じられ、何となく面白くないと感じた。 当時、自分は負けても悔しくはあったが特に肩を落としたわけではなかった。 それでも彼女は「頑張ろう」と言って自分も勇気付けた。 彼女は相手に「頑張れ」とは言わない。「一緒に頑張ろう」という。 言いっ放しでない。その言葉が選手たちを力づけ、そして頑張れる元となる。 「センパイ!」 片づけを粗方済ませた彩子がに駆け寄った。 「彩子ちゃん。久しぶりね。どうしたの、湘北。強いじゃない」 の言葉に彩子は少し嬉しそうに笑った。 「けど、大会では負けないわ!...ってお互い当たるのは決勝リーグまで行かないと無理だけどね」 の言葉に彩子は笑いながら「受けて立ちますよ!」と返す。 は彩子の少し後ろに来ていた流川に気づいて手を振る。 流川は小さく頭を下げた。 「あ、流川ってばセンパイがこの学校だっての知らなかったって」 告げ口するように彩子が言う。 は笑って「聞かれなかったからわたしも言わなかったし」と返す。 「それに、わたしも楓くんが湘北っての知らなかったもの」 「近所じゃないんですか?」 「お互いそこまで有名な学校じゃないから、ご近所で噂してもらえないの」 肩を竦めてはそういい、「ね?」と流川に話を振る。 「ウス」と流川が返事をする。 「なーんか、余所余所しいわね」 苦笑してがそういうとちょうど湘北の方が「集合!」とキャプテンが号令をかけた。 「あ、行かなきゃ!じゃ、失礼します。また!」 そう言って彩子は慌しくその場を去り、流川もペコリと頭を下げてチームメイトの居る場所へと向かった。 は中学のときもバスケ部のマネージャーで、そのときからきっと彼女は変わっていないのかもしれない。 彼女を慕っている部員たちの様子を見ながら流川はそう思いつつも、何かもやもやとした感情を抱きながらその学校を後にした。 その翌日。 自転車に乗って流川がいつものように近所の公園へ向かっていると、前方にを見つけた。 チリンチリンとベルを鳴らすとは振り返る。 流川の姿を認めると「あら」と言った。 「昨日はどうも」と肩を竦めながらが言う。 「お疲れした」と流川も返す。 「なんだか、慣れたと思ってたけど、久しぶりだとくすぐったいわね」 「何がっスか?」 「それ」と言って流川を指差した。 何のことか分からない流川は眉を寄せた。 「楓くんの敬語。1年しか聞かなかったってのもあるんだろうけどね」 そう言ってくすくすと笑う。 「じゃあ、何て...」 「昔のとおりでいいわよ。姉ちゃん、って」 それは嫌だ。個人的に避けたい。なんと言うか、思い切り対象外的な雰囲気を自分から作り出してしまうではないか。 「...サン」 「あら、こっちの方が新鮮」 目を丸くしてが言った。特に嫌がっていないようなので今度からそう呼ぼうと心に決めたところで、 「で、楓くんはどちらに行かれるのかしら?」 とが問う。 「あ、公園」 「ああ、あのリングのある?わー、懐かしいね」 最初あの公園の存在を教えたのはだ。 「来る?」 「行きたいけど、残念ながらわたしは徒歩なのよ」 歩くと少し遠い。 「後ろ、乗れば?」 マウンテンバイクではない自転車なので一応荷台もついている。 「重いよ?」 「べつに」との言葉にそっけなく返す流川に彼女は少し悩んで、「じゃあ、お邪魔します」といいながら後ろに乗った。 公園に着いて、しばらく流川がシュート練習をして、それをが見学していた。 少し目を離すとが居なくなっていた。 帰ったかな、と思っていると「そろそろ休憩にしたら?」と公園の入り口からの声が聞こえて振り返る。 「投げるよ」と言って彼女は缶を投げてくる。 「ありがとう」と受け取り、一口飲んだ。 「しかし、まあ。ホントに上手くなったねぇ」 心底感心したようにが言う。 「あの、」と流川は何かを言おうとして躊躇った挙句口をつぐんだ。 は辛抱強く待ってみたが、流川は口を開きそうにない。 「普段お互い部活とかで忙しいんだから。今しかないかもよ?」 がそう言って流川を促す。 しばらく視線を彷徨わせていた流川だったが、「いつもの、あれ...」とまで言ってまた口をつぐむ。 「いつもの、あれ」とは何かと少し悩んだはやっと思いついたものがあり、にっと笑った。 「楓くん、頑張ろう!」 流川は目を丸くしてを見下ろす。 「あれ、間違った?」 「や、それ...」 しかし、まさか『頑張ろう』と言ってくれるとは思っていなかった。 彼女とはチームが違うし、一緒に頑張るような間柄ではない。だから、「頑張って」て感じになるのだとばかり思っていたのだ。 「まあ、ほら。決勝リーグを狙う弱小チーム仲間ってことで」と言っては笑った。 「ウチの方が強い」と流川が返すと「ま!生意気ね!!」と言っては笑う。 「サンって、変わんねぇ...」 流川の言葉に「ご近所さんには『大人っぽくなったわね』とか『綺麗になったわね』って言われるケドなぁ」とぼやくようにが返した。 「それも、否定しねぇケド...」 ぽつりと呟いた流川の言葉はの耳にも届き、一瞬ぽかんとした彼女は徐々に流川の言葉を理解して、ポーカーフェイスを作ろうとして失敗したように笑う。 「どーも」 の言葉に流川は返事をせずにそのまま練習を再開した。 そんな流川を眺めながらは「んー、楓くんは口が上手くなったなぁ」と流川の本心は微妙に届ききっていなかったことを証明する一言を呟いていた。 |
リクエスト内容
『ヒロインは他校に通う年上幼馴染(not恋人)で、
そこのバスケ部員と親しくしているところを見て、流川が嫉妬して甘える。』
リクエストありがとうございました!!
桜風
09.8.2
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