| ストップウォッチを見ていた彼女は徐にホイッスルを口に運んだ。 そんな彼女の動きが目に入った者たちの中には安堵の息を吐く。 ピーーー!!、と鋭いホイッスルの音が体育館に響いた。 「よーし、集合!」 そう部員たちに声を掛けたのはキャプテンで監督の藤真だ。 「今日の練習はココまで。んでもって、お前と、お前」 そう言って部員を指差す。 「グラウンド10周してからあがれよ」 暴君藤真の言葉に2人はぎょっとした。 何故かを問おうと口をあけるとその前に理由が返ってくる。 「ホイッスルなる前に、手ぇ抜いただろう」 つまりは、そういうこと。 見られていたとは気づいていなかった彼らは諦めて体育館から出て行った。 「相変わらず厳しいな」 花形が言うと 「甘やかす道理はない」 と藤真が返した。 そんな藤真の言葉に苦笑する。 そして、首を巡らせてマネージャーの牧を探した。彼女は練習後の部員にドリンクを配っていた。 「ああ、」 花形に呼ばれては「はい!」と返事をして駆けて来た。 『牧』 本来なら苗字で呼ぶだろう部員たちも彼女のことは名前で呼んでいる。 何せ、彼女は海南大附属高校のキャプテン、牧紳一の妹だ。 彼女が入部したときは「海南のスパイか!?」など、からかい半分、ちょっぴり本気で言っていた部員たちもいた。 普通なら気を悪くするところだろう。しかし、彼女はそれを気にすることなく淡々とマネージャーとしての仕事をして部員たちを支え続けた。 さすがに、からかい半分とはいえ彼女にあんなことを言ってしまった部員たちは罪悪感を感じた。そして周囲に自分たちと同じような誤解を与えないように彼女を苗字で呼ぶものはいなくなった。少なくとも、この翔陽高校バスケット部にはいない。 「すまないが、明日の練習前にこれを買ってきてくれないか」 そう言って渡されたリストに首をかしげた。 「あれ?これもうなくなったんですか?」 「ああ、昨日な。まだ在庫があるけどやっぱり予備は置いておきたい」 「わかりました」 そう言って花形からリストを受け取ったの手からリストが消える。 「ふむふむ...ああ、そうか。は昨日来れなかったもんな」 頷いて藤真が言う。あたかも今思い出したかのように。 昨日は法事があったとかでが部活を休んだ。そういう理由なら仕方ない。 1日居ないくらいで部活が成り立たないわけではない。 まあ、居てくれたほうが助かるのだが... 「んじゃ、明日。練習前に付き合ってやるよ」 誰も頼んでないだろう... 周囲は心の中で突っ込みを入れた。 リストを見ても重いものとかはない。ひとりで十分だと推測できる。 が、賢明なことに誰もそれを口に出さない。 何せ相手は『暴君』だ。 も不思議そうにしていたが、「お願いします」と頭を下げた。 そして、翌日。 部活が始まる前、昼前にと待ち合わせをしている駅前に藤真は向かった。 午後1時半からの練習だから、昼前に出なければ部活に間に合わない。 しかし、昼前に出掛けるとなれば昼食は一緒にとることになるだろう。それは、仕方のないことだ。 ああ、仕方ないなぁ... 何に対してか分からない言い訳じみたことを考えていた藤真はの姿を目にして、ぴたりと足を止めて呆然と呟いた。 「何で、お前らが居るんだよ...」 牧と神がなぜかの傍に立っていた。 どういうことだ、と思いつつも少し足早に彼女たちに近づいた。 「何でお前たちも一緒に居るんだ?」 「が部活前に買い物に行くって言うからな。俺もそこに用事があったし」 と答えたのは牧。 「オレもちょうど買っておこうと思ったところだったんで。もしかしたら部活に遅れるかもしれないって牧さんに電話をしたらちゃんも同じお店に用事があって午前中から出かけるけどどうかって誘ってもらったんですよ」 ニコニコと笑って言う神の背後からは何かが漂ってくる。 牧は、特に害はない。 というか、彼の場合は天然だ。妹と同じところに用事がある。じゃあ、一緒に行こう。藤真が居る?別に一緒でいいじゃないか。 そういったところだろう。 しかし、目の前でニコニコと笑顔を浮かべているこの男。神宗一郎。こいつは違う。 藤真は半眼になって神を見た。 まず、牧に連絡を入れたのは『もしかしたらが電話に出るかもしれない』という浅はかな期待によるもののはず。そして、もし彼女が電話に出たら少し話をしてあわよくばデートなんて事を言い出すに決まっている。 同じくバスケを愛するもの同士。特に用事はなくてもスポーツ用品店に付き合ってくれないかとか言えば、はその裏にある企みに気づかずに頷くだろう。 ああ、何て計算高い。けど、浅ましい男だ!! 藤真の心境が手に取るように分かる神は少し目を細めて挑発的に笑った。 「じゃあ、行きましょう」 無言の喧嘩を買おうとしたところでにそう声を掛けられた。 「あ、ああ...」 渋々、自分よりも大きな男を引き連れて藤真は歩き出した。 「ねえ、藤真さん」 腕を引いてが声を掛けてきた。「ん?」と視線を下に向ける。 「昨日、あれからチェックしてみたんですけど。これ以外にもまだ買わなきゃいけないものがありました」 「今日か?」 少し遅れるようなら今のうちに花形に連絡を入れておかないといけない。 「あ、いえ。すぐに、ってワケじゃないです。在庫はまだありましたし」 「ふーん、」と答えた。 は何を言いたいんだろう... 「だから、またご一緒していただけますか?」 藤真は目を丸くして「仕方ないなー」と『適当に』を装って頷いた。 藤真の背後では、なにやら不穏な空気を醸し出している神と、「キャプテンとマネージャーが仲がいいというのはチームにとってもいいことだ」とか思っている牧がいた。 |
リクエスト内容
『藤真VS神の腹黒対決!牧妹の取り合い』
リクエストありがとうございました!!
桜風
09.8.16
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