蒲公英








全国大会常連の我が海南大附属高校のバスケ部には、新入部員がたくさん来る。

それはひと月でかなりの人数が減るけど、それでも4月の頭はちょっと気持ち悪いと思うくらい体育館の中に人が居る。


そんな大勢居る1年生の中でひとり、仲良くなった子が居た。

清田信長くん。一字違ったら強そうだね、というか、独裁?そんな話をしたら、

「昔からそう言われてたんスよ〜」

と人懐っこい笑みを浮かべてそういった。

彼の笑顔に好印象を抱いた。

校内でも私を見つけると

さーん!」

と手を振って駆け寄ってくる。

昔犬を飼ってたから、そんな感じだなーって思ってた。


「信長に懐かれちゃったね」

部活中の休憩時間に同学年の神宗一郎にそう言われた。

彼は2年で唯一のスタメンだ。

「ねー、昔のケンタを思い出すよ」

「ケンタ?...誰?」

「柴犬なの。2年前にお別れしちゃったけど、あんな感じに可愛かったわ...」

そう言うと

「ああ、犬の話ね」

と言って笑い、「そんな感じだね」と言った。

「何の話をしてるんスか?!」

跳ねるようにノブくんがやってきた。

の昔の男の話」

神が笑いながらそう言う。

「え...」

と凄く驚いた顔をしたから思わず

「そうなの。一緒に寝たりしたこともあるわ」

と小さい時の思い出を語ってみると、ノブくんが動かなくなった。

「ちょ、冗談よ!ケンタはそんなんじゃないから」

「ケンタさんって言うんスか...」

「柴犬で、雄だったの」

「へ?柴、犬?」

「可愛かった。小さいときは一緒の布団で寝て、朝お母さんに怒られたものよ...」

昔を思い出してると

「な、何だ。犬の話っすか!」

そう言って何だかぱっと明るくなった。

面白い子。


休憩が終わって皆のボトルを回収して洗う。

ノブくんの笑顔って何だか爽やかでいいなって思う。

神の笑顔は後ろに黒いものが見えるけど、ノブくんのは、本当に真っ青な空って感じで。

空を見上げたらそんな感じだった。

余所見をしながら洗い物をしていたから手が滑って、ボトルが落ちる。

「うわ、」

コロコロ転がるボトルが止まったのは草の上。

そこにはタンポポが咲いていた。

ああ、こっちだ。そう思った。

「何やってんの?」

後ろから声が聞こえる。

「いやいや。失敗してしまって」

ボトルを拾って立ち上がる。

「俺たち、外周行ってくるから。ドリンクとタオルよろしく」

そう言って神の背中は見る見るうちに遠ざかって行った。


急いでボトルを洗って、別のボトルにドリンクを用意する。

タオルも綺麗なものを出して、体育館へと運んでおいた。

少しして牧さんが戻ってきて、それから続々とバスケ部の面々が戻ってくる。

タオルとドリンクを渡すために走り回っていた。

1年はドリンクとタオルを渡すのを手伝ってくれた。

そんな中、ノブくんが跳ねながらやってくる。

「お疲れ様」

「ありがとうございます!」

ボトルとタオルを渡すと、右手だけで受け取って満面の笑みでそういった。

ああ、やはりこの子の笑顔はタンポポだ。

そう思うと嬉しくなる。春のぽかぽかしたそんな感じ。

さん、タンポポ好きですか?」

突然そう聞かれた。

「へ?うん、好きだよ」

そう言うと彼はニカッと笑って後ろに隠していた左手を私に向けた。

その手の中には、少しだけ萎れたタンポポの花が握られている。

「さっき外周走ってたら、咲いてて。さん好きかなって思ったから」

そう照れくさそうに、笑顔で言う。

「うん。ありがとう」

そんなノブくんに私も思わず照れてしまう。

「じゃあ、失礼します!」

と去っていく。


「恥かしいね、2人とも」

そう言ったのは勿論、神。

「煩いなー」

「信長ね、それ見つけたとき凄く嬉しそうに笑ったんだよ」

それを聞くと何だか口元が緩むというか...

「まあ、今はまだ。2人は姉弟って感じだけどね」

そう言ってスタスタと去って行った。

呆然と彼の背中を見送ったあと、

「『今はまだ』って何?!」

思わず呟く。

それでも、手の中の少し萎れたタンポポを見るとぽかぽかしてくる。

まるでノブくんを見てるようだって思った。












桜風
07.5.1
07.6.1(再掲)



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