| それを目撃してしまった私はその場から走って逃げた。 私ってば、何のためにこの学校を受験したんだろう...? 大好きな先輩が居た。 その先輩が海南大附属高校に進学したって聞いた日から、私の進路も海南大附属高校に変わっていた。 誰かの後を追いかけるだけの進路だったけど、それでも目標ってものがあって、それだけを見つめていたから迷いはなかった。 そう、ほんの数分前までは... 高校の入学式が終わって帰る前に先輩の背中を見つけた。 走って追いかけると、先輩はきれいなお姉さんと憚ることなく廊下でキスをしていた。 私の持っていた鞄が腕からすり抜けて、階段を滑り落ちていく。 「おい」 声を掛けられた。 というか、今すぐ高校辞めてもいいかしら?? そんなことを思っていると 「おい」 ともう1回声を掛けられる。 うっさいなー!今感傷に浸ってるんだけど!! と思って振り返ると、そこにはガタイの良い先生が居た。 いや、違う。制服着てる。ってことは生徒ですか!? 「おい、聞いてるのか?」 「は、はい!!」 間違いなく先輩。そう思った。 「鞄、落ちてきたぞ」 そう言ってさっき私の腕から抜け落ちて階段を下った鞄を軽々と渡してくる。 「ども」 重いはずなのになーって思いつつ、あまりにも彼が軽々と持っていたからそんなつもりで受けとると、やっぱり重くて思わず鞄を取り落とした。 「何やってるんだ?」 呆れながら再び彼が鞄を拾ってくれる。 「ごめんなさい。ありがとうございます、先輩?」 そう言うと彼の眉間に深い皺が刻まれる。 「1年なんだけど。しかも、お前と同じクラスなんだけどな、」 そう言われた。 ダブルパンチ!! え、同級生?先輩じゃないの??同じクラス!?覚えてないなぁ... 一応、クラスで自己紹介があったけど、私の場合は先輩のことで頭がいっぱいだった。 クラスメイトの自己紹介なんて聞いてない。 「え、えーと」 彼は溜息を吐いて 「牧。牧紳一だ。もう忘れないでくれよ」 そう言って私にしっかり鞄を持たせて彼は去っていった。 「まさか、また同じクラスになるとはな」 アレから2年。 私たちは最終学年になった。 先輩への恋心は、意外にもすんなり消えた。 お陰で私は『楽しいハイスクールライフ』ってのを満喫している。 まあ、今年は受験生って事もあってそうはいかないだろうけど... 「牧くんと3年間同じクラスって。腐れ縁という運命を感じるよ」 そう言って笑うと牧くんも「そうだな」って笑う。 牧くんは、良く知らないんだけど、バスケが凄く上手くて神奈川の帝王らしい。 そんでもってバスケ部のレギュラーってのはモテモテだそうだ。 牧くんも例に漏れず女の子たちによく呼び出されている。 律儀にそれらに返事をしていく牧くんは時々凄く疲れているように見える。 「大丈夫?」 と牧くんの隣の席に座って声を掛けると 「どうも苦手でな。人の好意を返せないってのはちょっと堪えるよ」 そう言って苦笑いを浮かべる。相変わらず人がいいなぁ... 「誰かと付き合っちゃえば?彼女がいるなら、他の子も何も言ってこないんじゃない?」 「そのためだけに好きでもない子と付き合うってのもな。相手に悪いだろう?」 私の提案を受けて牧くんがそう答える。 「そっかー...」 まあ、確かに。 「じゃあ、さ。牧くんには好きな子とかいないの?」 興味本位で聞いてみる。 牧くんは驚いたように、少し眉を上げる。 そしてまたしても苦笑い。 「どうだろうな」 「あ、誤魔化した!ってことは居るね?牧くんから告っちゃえば?」 そう言うと牧くんの目が少し寂しそうに細められる。 「いいや。相手はそんな風に見てないからな」 そう言われた。 おお〜!居るんだ!!牧くんにも色恋沙汰があるんだ!? 達観してるように見えてたから、もうそういうのも色々悟りきってるんだと思ってたけど、牧くんも高校3年生で悩める青少年の一人だったんだ!! 「ねえ、誰?私の知ってる人?」 聞いても私を見て溜息を吐くだけ。 「ねえ、教えてよ。アドバイスできるかもよ。ホラ、私も一応女の子だし。...え、牧くんの好きな人って女の子だよね??」 「それ以外に何があるんだ?」 呆れたように言われてしまった。 「うん、そうね...」 人妻とか言われたら流石に私も応援できないって言うか... 「じゃあ。例えば、だったら何て言われたいんだ?」 「私?うーん、ストレートに『好きだ』って感じかな?回りくどく言われるとイライラすると思う。寧ろ、何言ってんの?状態だと思うわ」 そう言うと「ほう?」と牧くんがなにやら興味を示してきた。 それが何だか居心地が悪くて 「まあ、牧くんが告白したらその子も頷いちゃうんじゃないの?」 と強引に話を締めくくった。 「本当にそう思うか?」 「うん、そう思う」 牧くんは「そうか」と言って立ち上がった。 私を囲むように右手を机に、左手を椅子の背凭れに置く。 窓際の席に座っていた私に逃げ場は無く、どうして良いのか分からなくて牧くんを見上げる。 彼の顔が近付いてきて耳元で「好きだ」と囁かれた。 牧くんの低く響く声に背中がゾクッとした。 見上げた先の牧くんの顔は少しイタズラっぽい笑みを浮かべている。 「まあ、そういうことだ」 そう言ってあっさり私を解放して自分の席に着く。 「い、いつから!?」 3年間同じクラスだったというのに、全然気付かなかった。 「が失恋した日から」 それって入学式の日ですよ、牧くん!! 「まあ、最初は一目惚れみたいなところかな?で、話してるうちに段々が好きになったよ」 そんなことをさらりと言う。 言われた私は全然余裕なんて無いのに!! 「で。頷いてくれると凄く嬉しいんだが?」 そう言った。 ぱくぱくと口を動かすも、声が出ず、勿論答えもまだでない。 グルグル考えているとチャイムが鳴った。 「席に戻れよ」 牧くんに声を掛けられて「はい!」と思わず立ち上がる。 それを見た牧くんはクツクツと笑っていた。 授業にも全然集中できなかった私は 『牧くんの事は好きだけど、そういう好きじゃないと思うんだ。だから、何と言うか、どうしたらいいのか分かんない』 と書いたメモを牧くんまで回してもらった。 牧くんから帰ってきた返事は、 『じゃあ、取り敢えず俺と付き合っとけ。絶対に惚れるぞ』 と素っ気なく、且つ、自信たっぷりだった。 牧くんを見ると、彼は振り返ってやっぱり自信満々な笑みを浮かべて私を見ていた。 こんな風に始まる恋も悪くない。 目を見て頷くと、彼は少し照れたのか慌てて顔をそむけた。 意外に可愛いところもあるようだ。 残りの高校生活も楽しく過ごせそうで何だか楽しみが増えた気分だ。 |