| 我が家の近くには公園がある。 その公園には珍しくバスケットのリングがあった。 そして、そのバスケットリングが目的の少年が毎朝やって来る。 背が凄く高いけど、顔立ちを見たら高校生位だろうって思ってたら、何とまだ中学生! でも、今年から高校生になるっていうから、まあ間違いじゃなかったみたい。 彼は毎朝早くやってきて何本もシュートの練習をしていた。 バスケに詳しくなくても凄いって分かるプレイに私は魅せられていた。 「おはよう」 「うす」 少し前から私は彼、流川楓くんの練習を見させてもらっている。 初めてそれをお願いしたときには無表情ながら彼は困惑していた。 それでも、最後には「いいけど...」と了解してくれたのだ。 バスケというものは学校の授業意外で触れた事がない。 だから、彼のような凄いのは見たことが無い。 どうでもいいけど、『凄い』意外で表現できない私ってボキャブラリーないのかな?? 「ねえ、楓くん」 名前を呼ぶと返事はしないけど、私の目を見る。口数が極端に少ない子だ。 「高校決まったんだよね?」 「湘北」 ポソリと答える。 「湘北!?」 私の通ってる高校だったりする。 「え、でも。湘北ってバスケ部強かったっけ?」 聞くと 「知らねぇ。近いから、湘北」 とあっさり答えられた。 ええー!?楓くん凄いから県内の強豪とかからお誘い来てたんじゃないの?? 聞いてみると 「あったような気がするけど...遠いから」 と一言。 まあ、高校進学の学校を決めるのに近い遠いは大切な理由よ。 「そっかー...じゃあ、さ。楓くんは私の後輩になるんだね」 そう言うと少し驚いた顔をした。 「私も湘北。今年で2年。ヨロシクネ」 そう言うとやっぱりいつものように「うす」と答えた。 春休みが終わって、学校が始まる。 バスケ部の活動が本格的になったって聞いたから体育館へ足を運んでみた。 相変わらず個性豊かな面々だと思う。 というか、マネージャーが一番元気な気がする。 変な赤い髪の子も居て、こりゃ賑やかになりそうだ。 「珍しいじゃない。見学?」 マネージャーであるクラスメイトの彩子が私を見つけてやってきた。 「うん、まあ。ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」 改まってそう言うと彩子も構える。 「バスケ部って強いの?」 そう聞くと彩子は溜息を吐いた。 「ううん、残念ながらそうでもないのよ。でも、今年は流川が入ったし、期待は出来ると思うんだ」 そんなことを言う。 彩子は楓くんと知り合いのようだ。 ふと、体育館の中の楓くんと目が合った。 彼は小さく会釈をして練習を続けた。 「ん?今流川、に会釈とかした?」 「どうだろう?周りにギャラリーがいっぱい居るから、その中の誰かかもよ?」 そう言うと 「まあ、確かに。多いわ、流川目当ての女の子たちが」 呆れたように彩子は溜息交じりでそう言って体育館の中へと戻っていった。 私も見学を続ける気にもならず、家に帰ることにした。 学校帰り、私は寄り道をする。 楓の木が植えてある大きな庭を持つ家がある。 その家の前を通るんだ。 四季折々の花々を見ることが出来るし、何よりその花たちで心が和む。 楓くんの名前を聞いたとき、すぐにこのお屋敷を思い浮かべた。 この楓は秋になると燃えるよな赤い色に移ろう。 その葉っぱを思わず持って帰ってしまって、結局私の家には紅葉の押し花の栞が大量にある。 「今日、一緒に帰らないスか?」 朝の楓くんの練習を見学していたらそう言われた。 「へ?」 「いや。やっぱいい」 そう言ってシュートするけど、珍しく外した。 そんな楓くんが少し可愛いから 「いいよ。待ってる」 と思わず返事をした。 振り返った楓くんはやっぱり無表情だけど、 「約束」 と言って私を人差し指を向けてきた。 「うん、約束」 私も楓くんを指差した。 楓くんの放ったシュートはきれいな弧を描いてリングの中に吸い込まれていった。 放課後、「待ってる」といったけど、何処で、ってのまで言わなかった。 さて、どうしよう?って悩んだ末に靴箱くらいしか思い浮かばなかった。 彩子に部活の終わる時間を聞いてその時間に靴箱に行けばいいかとのんびり構えていた。 暇だなーと教室で本を読みながら時間を潰しているといつの間にか寝てしまったらしい。 目が覚めたときには既に窓の外は暗くなっていた。 まずい、と立ち上がるとぱさりと何かが落ちる。 拾ってみると大きな学ラン。 その胸ポケットから紙が少しはみ出ていて、それを広げればお世辞にもきれいと言えない字で『体育館で待ってる』と一言だけ書いてあるメモが入っていた。 ああ、楓くんか。 そう思って鞄を持って、ついでだから学ランに袖を通して体育館へと向かった。ブカブカだぁ... 体育館のドアを開けると、楓くんが制服のままバスケをしていた。 「ごめん、探しに来てくれたんだね」 そう言うと 「先輩、よく寝てたから」 と一言感想を述べられた。 はい、気持ちよく寝てました。 「これ、ありがとう」 「うす」 学ランを脱いで渡す。楓くんはそれを受けとってポイッと投げた。 「もう少し」 といったので私は投げられた学ランを回収して体育館の隅に座って楓くんのシュート練習を見守った。 暫くシュート練習をしていた楓くんも気が済んだのか、ボールをカゴに戻して用具室に仕舞う。 「ホントごめんね。帰る時間遅くなったね」 「や。俺もバスケしたし」 そう言いながら自転車を押す楓くん。 この子は何で突然一緒に帰りたいって言い始めたのか分からなくて考えたけど、まあ、何でも良いやって思う。 「あ、ねえ。楓くん。寄り道してもいい?」 そう聞くとコクリと頷いた。 私のいつもの帰り道に向かう。大きな屋敷があって、ご立派な楓の木。 「これ、凄いと思わない?」 「凄いっス」 楓くんもちょっと驚いていた。 「これね、楓の木なの。秋には綺麗な紅葉に変わるのよ。圧巻なんだから」 そう言うと楓くんは改めて木を見る。 「私、この木が好きよ」 そう言うと 「俺も、好き、です」 と言ってきた。 自分の名前の木だもんね。 「先輩が好きだ」 は?今、何だろう。私が全く予想してなかった言葉が聞こえたような... 「先輩が応援してくれてたら、もっと頑張れる」 そう言う。 「えーと」 何と言って良いのか分からない。 けど、私の方をじっと見てるってコトは何かしらの答えが欲しいってことだろうし... 1回深呼吸をして、 「応援してる。全国に行くんだったらちゃんとそこまで行って応援するよ」 そう答えた。 「今年のインターハイは、広島っス」 「オッケー。広島ね...広島ぁ!?ち、ちょっと遠いね...」 「じゃあ、先輩もマネージャーすれば一緒に行けます」 大胆な提案をしてきた。 「ちょっと考えさせて」 そう言うと楓くんは「うす」といつものように返事をした。 その3日後、私は決心して鈴木先生の元へと向かった。 一枚の紙を持って。 |