| 朝起きると弟が丁度学校へ行く時間だったようで、玄関で靴を履いていた。 「はよー」 声を掛けると振り返って「ああ、ねーちゃん。今起きたのか」と弟が言葉を返した。 いつも生活にだらしなく、ついでに学校での成績もイマイチな弟だが、一応、得意なものは有る。 「朝練、毎日頑張るね」 中学の頃から弟はバスケでそれなりに注目をされているプレイヤーだった。 の通っている学校もバスケが有名で、推薦の話が来たがが一緒の学校に通いたくないと大反対したため、弟は県下ナンバーワンの海南大付属高校に通っている。 勿論、受験勉強など一切せずにバスケ推薦でだ。 「おうよ!あ、そういえば。姉ちゃん知ってたか」 「何が」 まだ覚醒しきらない頭で弟との会話を続ける。 「神さん、今日が誕生日らしいぜ」 途端に覚醒する。 「何だって、今。今日今この瞬間に言うのよ愚弟がぁーーー!」 思わず弟を蹴っ飛ばした。 今言われても何も出来ない。 せめて前の日曜までに聞いていたら何か考える余裕があったというのに。 は元々朝は強く方ではなく不機嫌で家を出るのが日常だが、今日の不機嫌また格別だった。 悶々と考える。 どうしても何とか行動してみたい。 諦めるのは性にあわない。 が、も部活をしている。マネージャーだが、中々休めない。 「あー!もう!!」 通学途中に思わず叫ぶ。 周囲には奇妙なものを見る視線がに注がれるが、意外とは気にしない。 「ノブのせいだ...」 全く八つ当たりも甚だしいが、にとってはそれほどまでに今朝の弟の言葉が悔しかったのだ。 放課後、意を決して3年の教室を訪ねる。 「おー、どうした?部活始まるぞ」 訪ねたのはキャプテンの教室。 「藤真さん!」 「お..何だ?」 勢いよく名前を呼ばれて少し体を引きながら返事をする。 「私、今日は腹痛が痛いので部活は休ませてください!!」 3秒ほど呆然とした藤真だったが、はっと我に返ったように瞬きをした。 「腹痛が、痛いのか?」 「はい!」 聞き返しても彼女はしっかりはっきり頷く。 「...わかった。明日はちゃんと出て来いよ」 「ありがとうございます!!」 は勢いよく頭を下げて廊下を走り去っていった。 「なあ、藤真。清田、“腹痛が痛い”って言ってたぞ?」 花形が聞き返す。 あからさまな仮病だと言いたいのだろう。 「まー、な。でも、いつも一生懸命頑張ってくれてるし。それこそ、無遅刻無欠勤だぞ?休みの日でも毎日。だから、まあ。今日くらいいんじゃないか。物凄く重大な理由があるみたいだし。それに、いつもがやっている仕事は1年にさせたら良いんだから」 藤真は苦笑しながら返す。 「何だ?好感度上げようとしてんのか?」 からかうように高野が言うと藤真は「いまさら!」と楽しそうに笑った。 「神さん、今日誕生日なんスよね。おめでとうございます」 部活が終わって信長に声を掛けられ、神はきょとんとした。 「違うよ」 「...へ?」 意外な神の言葉に間抜けな声が漏れる。 「え、でも。この間話してたじゃないですか」 部活が終わって更衣室で着替えているときに誕生日の話になった。そこで、誰かが今日を誕生日だといって、それに対して神も「同じだ」と言ったのだ。 「ああ、あれ。俺の従兄弟が同じ誕生日だったんだよ。年も同じだから、驚いちゃってさ。全く同じ誕生日って意外と珍しいだろう?」 ふと、今朝怒っていた姉の顔が浮かぶ。 この事実を彼女に伝えたら喜ぶだろうか。いや、怒られる。 「どうしたんだ?」と神が聞くが、「いえ、何でもないっス」と嫌な汗をかきながら信長は返した。 部活を休ませて貰ったのはありがたいが、何も思い浮かばずに結局消化不良のまま日はとっぷりと暮れてしまった。 「ノブのせいだ...」 今朝も呟いた同じ言葉をまた呟く。 「あれ、ちゃん?」 不意に声が聞こえて振り返るとそこには神宗一郎が自転車を押していた。その隣には現在の消化不良の原因を作った弟の姿もある。 「こんばんは」 が挨拶をすると神は笑顔で同じ言葉を返す。 神の隣に立つ信長はしまったという表情を浮かべているが、はそんな彼の様子には気づかなかった。 「そうだ。神君、誕生日おめでとう」 思い出したようにがそういうと神はきょとんとした。先ほど信長に見せたそれと同じ表情だ。 益々信長は逃げたくなる。 「ありがとう。けど、実は今日じゃないんだ」 神の言葉には一瞬固まり、すぐに信長を睨みつける。 信長は、何だか帰りたくないなーとか思うがそういうわけにもいかないので、帰宅後に自分がどんな目に遭うのか想像していた。 「ごめん、ノブから今朝そう聞いたから」 とが言うと「俺もさっき言われたよ。勘違いしてたみたいだね」と神が返す。 暫く取りとめのない話をしていたが「じゃあ、そろそろ」と神が言い帰ることになった。 自転車にまたがって神が「そうそう」と言いながら振り返る。 「ちゃん」 声を掛けられたも振り返る。 神はそのままこれから数ヵ月後のある日を口にした。 「じゃあ、またね」と言ってペダルを踏んで清田姉弟から遠ざかる。 神の口にしたその日付が何か最初は分からなかったが、何となくそれに気づいたときは笑った。 「...姉ちゃん?」 「ほら、荷物持ちな。これで、チャラね」 そう言って自分の持っている鞄を信長に押し付ける。が、表情は少しだけ柔らかい。 神の口にした日付は、きっと彼自身の誕生日だ。 「今度はどうやって休ませてもらおうか...」 腹痛はもう使ったから今度は頭痛か。 そんな事を思いながら心持ちスキップをしながら上機嫌に家へと向かった。 |
桜風
08.5.1
08.5.18(再掲)
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