| 自分はかなり要領がいいほうだと思っていた。 少なくとも、チームメイトのあいつに比べたら断然自分の方が要領が良い。 しかし、どんなに要領がよくて色々と立ち回れても、自分のいないところではその能力―――生まれ持った才能と言うか、約18年の人生経験で培って手にした能力かは定かではないが、―――を発揮することなんて不可能だと思い知る。 『文化祭実行委員』 この学校にある委員の中で最も面倒くさいと言うか、貧乏くじと言うか... とにかく誰もしたがらない委員なのだ。 何せ物凄く局地的に忙しい。 行事の委員だからそれこそあって2ヶ月程度のものだろうと普通は思うだろう。確かに、委員としての仕事は2ヶ月程度だ。 だが、しかし。その2ヶ月の間は『忙殺』と『ストレス』という単語に押しつぶされそうになるとか。 最初聞いたときには鼻で笑ったが、笑っていられないとすぐに悟った。 一方、その対極にあると思われる『体育祭実行委員』。 こちらも確かに行事の委員で忙しい期間も2ヶ月程度だが、何より体育系の部員たちが手伝ってくれるし、勝ち負けがはっきりと分かるものだから結構団結して周りも協力してくれる。 自分も、そっちの方が好きだから体育祭のときは委員の手伝いできる限りしていた。 目の前の山積みのプリントを見て深く息をつく。 どんなに学校の希望と期待を背負っているバスケ部の選手兼監督と言った肩書きを持っていても自分は学生で。 この学校の方針は、『学校行事優先』と来ている。 「くっそー...」 パチン、パチンとホッチキスを合わせる音が教室に響く。 委員というのは普通は2人組みだ。 そして、この教室にいるのは自分ひとり。 委員が決まったときにはちゃんと2人だった。しかし、相方と呼べる者はただ今入院中だ。 何でも、うっかり階段を踏み外して蒲田行進曲もビックリな階段落ちを披露したそうだ。 だったら誰か手伝ってくれても良いじゃないかと思う。 しかし、クラスの誰も手伝ってくれない。それでも、文化祭でクラスで行うものの話し合いはそれなりに積極的に参加してくれたほうだから、協力的といえば協力的なのだろう。 「はぁ...」 ホッチキス止めをした山とまだホッチキス留めが出来ていない山。比べるまでもなく、ホッチキスで留めていない山の方が高い。 「あっら〜?」 頓狂な声がしてドアを見た。 「あ、さん」 「どうしたの、藤真君。君ともあろう人が、もしかしなくても文化祭実行委員デスカ?」 愉快そうに笑いながらは昨年自分が通っていた教室に足を踏み入れた。 藤真は苦笑して「オレともあろう人が、文化祭実行委員なんですよ」と返す。 彼女は藤真の前に座った。数個机をくっつけて作業台にしているので、椅子は適当に引き寄せる。 「相棒は?格好つけて帰しちゃったの?」 大抵こういう委員ものは男女がペアだ。 「蒲田行進曲」 短く、内容の良く分からないことを言う藤真に眉間にしわを寄せながら詳細を促した。 藤真は溜息と共に相方が階段落ちした旨を話し、それを聞いたは苦笑した。 さすがに大爆笑はまずいだろうが、笑わないで居られなかったので、何とか可笑しいのを抑えての笑顔だ。 「で、大人しく藤真君が。こう、くらーくホッチキスでパチンパチンですか」 「ですよ」 そう言ってパチンとホッチキスでまたプリントを留める。 「クラスの皆は友達甲斐ないのね」 「友達甲斐があったらオレが欠席のときにこんなこと決めませんよ」 ああなるほど、とは納得した。藤真の性格を考えたらこんなのに絶対に立候補しないだろうし、早々にスケープゴートを差し出して自分は別の楽そうな委員に立候補していたはずだ。 「予備とか持ってないの?」 そう言いながらはホッチキスを動かすような仕草をする。 待ってました、という表情で藤真は机の中から職員室から借りてきたホッチキスを取り出した。 受け取ったは針の残量を確認し、まだホッチキス留めをしていないプリントに手を伸ばした。 「速いなぁ...」 感心したように呟く藤真には得意気に笑った。 「そりゃ?強豪翔陽男子バスケットボール部のマネージャーを3年間しましたから?合宿とか大きな大会のときに栞を作ってたでしょ?ホッチキス止めもマネージャーが頑張ってパチンパチンしてましたよ」 藤真より学年がひとつ上のは昨年まで男子バスケ部のマネージャーを3年間務めた。藤真もよく世話を焼いてもらったし、彼にとっては頭が上がらない先輩のひとりだ。 しかし、一人のときよりも自分の手も速く動く。 藤真は感心しながらホッチキス留めの終わったプリントの山を眺めて苦笑した。 「はい、終了」 「あー、助かりました。あざーす」 「楽勝よ。あ、でも今度なんかおごりなさい」 「後輩に集るんですか?」 「正当報酬よ」 の言葉にちょっと詰まった藤真が 「んじゃ、文化祭でなんかおごりますから来てくださいよ」 と返した。 「安くつけるのね」 笑いながらも了承したようでは頷く。 「さて」と言いながらは立ち上がる。 「そういや、さんは何で学校に来たんですか?」 「書類の発行を頼みにね。で、久しぶりに自分が1年間お世話になった教室を覗いて回ってたら孤独な藤真君を発見したの」 「あー、確か...今年も受験生でしたよね?」 何気なく、自分の持っている情報を口にした藤真には渋面を作った。 「そうよ。わたしの実力が足りなくて。どうせ高望みよ」 少し拗ねたようにいうに藤真は慌てる。 「や、そうじゃなくて。第一、さんは冬まで残ってくれたじゃないですか。マネージャーが居なくて、さらに、オレが監督とかまでしなくちゃいけなくなったからって。もう少し世話焼いてあげましょうって。オレ、凄く嬉しかったし、助かりました」 「それは自分で選んだことよ。そして、大学に落ちたのも自分の実力と努力が足りなかったから。誰のせいでもないわ」 苦笑したは「じゃあね」と言って教室を出て行こうとした。 「あ、さん」 藤真に呼び止められて振り返る。 「電話、します」 何だろう、と思ったがそれが表情に出ていたらしく藤真は苦笑して自分の目の前に積んだたプリントの山を指差して「お礼の話」と言う。 「ああ、そうね。藤真君も忙しいだろうから時間決めたほうが合理的ね」 とは頷き「去年の連絡網、まだ持ってるね?」と確認する。 藤真が頷くと「じゃ、よろしく」と言ってひらひらと手を振り、今度こそ教室を後にした。 「やっぱ勝てる気がしねぇ...」 2年間思っていたことを今回もまた痛感した藤真はポツリと呟いた。しかし、その表情は言葉と違ってとても優しかった。 |
桜風
09.5.1
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