Kiss you





は授業もロクに聞かずにボーっと窓の外のグラウンドの様子を眺めるのが好きだった。

偶に、それを教師に見つかって「何だ、好きなやつがグラウンドにでもいるのか?」とからかわれることもある。

そんなときは乾いた笑いを返して素直に謝ることにしている。




隣に座る男子が声をかけてきた。

「ああ、何?」

ちなみに、今も授業中だったりする。

「先生、睨んでるよ」

言われて初めて気づく教師の視線。

自分は鈍いのだろうか、と首を傾げる。

仕方ないのでその時間は真面目に授業を受けるフリをして過ごした。


「さっきはありがとう」

隣に座る男子、神宗一郎に礼を言った。彼は苦笑して「いいよ」と返す。

「でも、ってホント、授業聞いていないよね?」

感心するやら呆れるやら。そんな表情で神が言う。

「うーん、まあ。ね?」

歯切れ悪くは答えた。

まあ、授業は聞いていない。そのとおりだ。

「何かさ。ここ、わたしの居場所じゃない気がして...」

あ、しまった。

思わず零した言葉を今さら回収できない。今までこの言葉を零せば皆に笑われた。電波か、と。

しかし、神は違った。

「どういう意味?」

普通に聞き返してきた。

「わかんない。何となく、そう思うだけ。フィーリングなの」

「そうなんだ...」

神は神妙な顔でそう返してくれた。その後、彼が別の場所で笑っているかもしれない。でも、今はこうしてちゃんと聞いてくれたのが嬉しかった。



そんな話をしてから数日経った日の放課後。委員会が終わったら外が暗かった。

まあ、進みもしない話し合いだったからなぁ、と溜息を吐く。

息苦しくて、皆誰かがすれば良いという空気を醸し出していた。そうやって少し非難がましく思うが、結局自分も同じ気持ちだったので非難は出来ない。

?」

靴箱のところで声をかけられた。

「あれ?バスケ部はまだ練習?」

神がバスケ部に所属していることはでも知っている。とても有名だ。

「全体練習は終わったけどね。は?」

不思議そうな表情を浮かべて神が言う。

「委員会」と短く答えると「あれ?何だっけ?」と返された。

「文化祭実行委員」

「あ、面倒なの休んだときに押し付けられてたんだっけ?」

は苦笑して頷いた。

「男子は?えーとたしか...」

「今日、休み。潔いというか、清々しいというか...」

苦笑してが言う。

「本当に体調不良だったら悪いよ」と神が窘めた。

は大人しく肩を竦めて「ですね」と反省の色を見せる。

の家って遠いの?」

突然そう聞かれて「ううん」と返した。

「じゃあさ、俺に付き合ってよ」

神の言葉には首を傾げながら頷いた。何とも半端なものとなった。


体育館が広いのは知っている。

でも、バスケ部が練習しているその風景を見たことがあるがその風景は何となくこれほどの広さの体育館でも窮屈だった。

「神くんだけ?」

キョロキョロと周囲を見渡しても誰もいない。

「ああ、うん。皆帰ったみたいだね」

そう言って神は淡々とシュートを始めた。

「ほへー」と口を開けてはその様子を飽くことなく眺めた。

暫くして神が手を止めて振り返り、ブッと噴出した。

、もうちょっとこう..ね?口くらいは閉じた方が良いと思うよ」

指摘されては慌てて口を閉じた。

ああ、道理で喉が渇くわけだ。

「何か飲む?喉渇いたから買って来るけど」

「俺はいいよ。そこにあるから」

そういえば、さっき神が靴箱に来たときにペットボトルを持っていたなと思い出した。きっと喉が渇いてそれを買いに足を延ばしたついでに靴箱にやってきたんだ。

そう思いながら自販機設置場所に着いてボタンを押す。

パックのジュースを買って飲みながら体育館に戻った。その途中で「あれ?」と思った。

このコースだと靴箱は通らない。何で神はあの時あそこに来たのだろう。

不思議だなー...

戻るとまた神は淡々とシュートを繰り返していた。

これまた暫く続け、結局神が手を止めたときにはその練習が終わったときだった。

「ねえ、神くん」

「何?」

片付け始めた神をが手伝う。「ありがとう」と返す神に「良い物を見せてもらったから」とが笑う。

「さっき、どうして靴箱のところに来たの?」

に聞かれて神は目を丸くして、苦笑した。

「どうして?」

「さっき、あれ買いに行ったんだけど。靴箱のところを通ったら遠回りだと気が付いたの」

体育館の隅に置いている飲み終わったジュースを指差してそう言った。

「ああ、そうか」と神は呟く。

「...何となく、が居そうな気がしたから」

「神くんってエスパーなんだね」と言った後に「あれ?」と首を傾げる。

「何で、わたしが居ると思ったの?」

神は困ったように笑って「居ると思った、というか。居てほしかったというか」と言って目を細めた。

「何か手伝うことがあるの?」

素直に返されて益々神は困る。

「前にさ、言っただろう?居場所がここじゃないって」

「気持ちの問題だけど...うん」

何で突然そんな話になるのだろう。

「でもさ、俺はにここに居てほしいんだ」

だから、何を手伝えば良いのだろう?

そう思っていたことが顔に出ていたのだろう。神はどんどん困っていく。

「あー」とか「うー」とか声を出していたが意を決したようにの前に立った。

は神を見上げて言葉を待った。

しかし、神からは言葉がなく、その前に神の顔が接近してきた。

「...こういうこと」

「あ、はぁ...」

何か気の利いたことを言えたら良いのだが、今は立っていられる自分が凄いと思う。

「だから、にはここに居てもらいたいって思ってる」

物の喩えで、フィーリングだった。

でも、こうも自分の存在を求められると少し..困惑する。

「えーと。じゃあ、あの..もうちょっとここを居場所にしておく。神くんの、隣」

俯いてがそういった。

「あ、うん。ありがとう」

そう答えながらもしまったな、と神は後悔していた。言葉で伝えなかったから答えも何となく分かりにくい。

でも、まあ。

「今度仕切りなおすから」と神が言うと「あ、その方が助かるかも」とが答える。

お互い顔を合わせ、そして、同時に噴出して声を上げて笑った。









桜風
10.5.1