It's so happy





うっかりすると『ストーカー』とみなされそうだな...

最近の自分をそう思う。

気が付けば目で追っているあの背中。10組の流川くん。

もう背中だけで『誰』というのはわかる。



クラスメイトに声を掛けられてわたしは窓の外に向けている視線を教室の中に戻した。

「何見てたの?外見るの好きだよね」

「だって、教室はごちゃごちゃしてるじゃない」

実際ごちゃごちゃしてると思う。

「まあ、そうだけど...あ!わかった。好きな人が次の時間は体育なんだ」

彼女はそう言って「どれどれ〜」とわたしの机に手を置いて窓から乗り出す。

「危ないよ」と言うと「誤魔化したー」とからかう。

「いない、いない」

だって、本当に今のグラウンドにはいないもの。

これから体育のはずなのにいないということは、たぶんサボリなんだろう...

彼は結構人気が出るような顔をしている。と、思う。

今まで散々友人達に審美眼について疑問を呈されていた自分としては少し自信はないがそれでもやっぱり彼にはファンクラブと言うものまであるらしいからそれなりに人気があるのは間違いないだろう。


チャイムが鳴ると友人は慌てて自分の席に着く。


授業をぼうとしながら受けて、いつの間にかその時間は終わっていた。

と、なると次はお昼だ。

教室から次々に食堂へ向けて皆が駆け出す。

人気のメニューだとか、パンだとか。

そういうのを確保するにはやはり何と言ってもスピードが勝負だ。

そしてわたしは屋上に向かった。

来る前にコンビニに寄っておけばお昼の争奪戦に加わらなくて済むのだ。

階段を昇ってドアを開けると既に人が数人いた。

今日は天気もいいし、そんなに暑くないし。良い気候だから皆考えることが同じなんだな...

ドアを開けてすぐのところだと自分が大口開けてご飯を食べているのが不特定多数に見られる。それはさすがに恥ずかしい、ということで日陰だけど少し離れたところに向かった。

「うわっ」と思わず声が漏れる。

まさかまさかの...

「流川..くん?」

ゴロリと寝転んだ巨体。彼の雰囲気は何となく猫を連想させる。だが、こんなでっかい猫がいたら普通は逃げる。

逃げるのだろうが...

「これはこれは...」

なんとも運が良い。

気持ちよさそうに寝ているので起こさないようにして、そしてわたしは寝顔を拝むことにした。

チャイムが鳴っても気づかないってすごいな...

コンビニで買ってきている菓子パンに手を伸ばした。

「腹減った...」

あんぐり口をあけたところにその声が届いてわたしは固まる。

目の前の巨体がゆっくりと体を起こす。

わぁ、やっぱり間近で見たら大きいな...

同じ『座っている』状態なのに見上げている。

ポリポリと頭を掻きながら彼は周囲を見渡した。

「今何時?」

「え..12時...」

何分か、時計を確認していると「昼飯...」と彼が呟く。

「お弁当、教室なんじゃないの?」

「もう食った」

早弁...

そうか、流川くんでも早弁するんだ。

ぐぅ〜、とこれまた大きな虫の声。

「これ、良かったらどうぞ。全然足りないと思うけど」

買っておいたおにぎりを渡す。

「...ありがとう」とお礼を言われただけでこんなに嬉しくなるものか...

意外と不器用にその包装を解いてぱくりと一口。

「何だよ」

「あ..いや、意外と大口だなって...」

一口でおにぎりの半分って...

「自分だってでかい口開けてただろうが...

え?!なんで??

名札はないし、どうやって...

「流川くんって..まさかのエスパー?」

恐る恐る聞いてみると「それ」と言ったのは上履き。

そうか、上履きに名前書いてるから...

いや、うん。そうじゃなくて...

「大口って、見てたの?!」

「目をあけたらでっかい口をあけてるヤツがいて。食われるかもって思った」

どこか愉快そうな雰囲気で流川くんが言う。

「女の子に対してそれは失礼よ」

「わりぃ」と呟き、彼は立ち上がる。

「ありがとうな、

そう言って流川くんはその場から去っていった。

凄い奇跡が起きた何の変哲も無いお昼休憩だった。









桜風
11.5.3


ブラウザバックでお戻りください