小さな嫉妬心、大きな疑問





 海南大附属高校バスケットボール部。

男子は全国大会常連であり、神奈川では17年連続地区大会優勝という快挙を今年達成した。


「神先輩」

背後から声をかけられて振り返ると思った通りがいた。

「おはようございます」

「おはよう」

「バスケ部凄いですねー。新聞にもたくさん載ってましたよ。神先輩もきっと大活躍だったんでしょうね」

「そうなんだ?」

「あれ?興味ないんですか?」

小首をかしげて彼女が言うと

「そうだね。それに、昨日の試合は、スタメンのほとんどは途中でベンチに下がったからね」

と神が頷く。

「あいつも、神さんみたいに大人だったらなー」

少し眉をしかめて彼女が言う。

彼女の言う『あいつ』が誰かわかった神は一瞬だけ眉をひそめた。


学年が違うため、2人は下駄箱の前で別れた。

(はぁ...)

心の中でため息を吐く。

彼女は中学の時の後輩で、今年、入学してきた彼女を見た時には驚いた。

中学時代はバスケ部マネージャーをしていたから、当然に高校に入ってもそうだと思っていたが、彼女はそれを選ばなかった。

少し意外で、さみしくも感じた。

ただ、彼女は神のことを記憶しており、そして気後れせずに声をかけてくれた。

それは結構嬉しかった。

そう、素直にうれしかったのだ。



昼休憩にクラスメイトともに食堂に向かった。

階段を降りながら1年の教室のある階に差し掛かると目の前を凄いスピードで後輩が去っていく。

運動部に所属しているのに、彼は先輩である神に気づいていないのだ。

「清田ー!」

という廊下の向こうから聞こえる声に対して

「焼きそばパンがなくなるんだよ!!」

と返しながら彼は猛然と階段を降りて行った。

「お前んとこの後輩スゲーな」

クラスメイトが苦笑していう。

清田はバスケ部員としても有名なのだ。

「まあ、...」

なんと返していいかわからずあいまいに返していると

「今日、焼きそばパンを食べなくても明日があるでしょーーー!!」

と階段まで出てきてが階下に向かって叫ぶ。

これには神もきょとんとした。

「まったく」と呟いて彼女が顔を上げると神と目が合った。

「わ、わぁ...!」

彼女は恥ずかしそうに声を漏らして

「あの、えと。失礼しましたー」

は真っ赤になって回れ右をした。

「信長、何から逃げたの?」

「あ、えーと。日直です。資料を職員室に返しに行かなきゃいけないのに、焼きそばパンを買いに行っちゃって...」

「先行っててくれないか」とクラスメイトにそういって神はを見下ろした。

「オレが手伝うよ」

「え、いいですよ。神先輩はお昼を食べに行くんじゃ...」

が言うと「んじゃ、行っとくわ」と神のクラスメイトは階段を降りていく。

「神先輩を忘れてますよー」

階段を降りていく見知らぬ先輩たちに若干小声で訴えるが、振り返ってもらえなかった。

「じゃあ、行こうか」

「いいんですか?」

「いいよ」

「では、お言葉に甘えて...」

そういっては教室に向かい、神も彼女の隣を歩いた。


「これ?」

「はい」

「信長には、オレからちゃんと言っておくからね」

資料は結構な量だった。

(女の子にこれを全部持たせるなんてね...)

クラスにバスケ部のレギュラーの先輩がやってきたことで少し、女子が浮足立っていたが、神はその様子を見にすることなく、山となっている資料をひょいと持った。

「あ、わたしも持ちます!」

「いいよ」

ニコリとほほ笑んだ神に「あ、ありがとうございます」とは礼を言う。

職員室に向かいながらも、会話がない。

(何か、何か気の利いたことを...!)

さんって、信長と結構仲良いよね」

不意に神が言う。

「え?あー、清田ってバカだから」

(どういう意味だろう...)

神は少し考えたら、もしかしたら気が楽なのかもしれないなと思った。

彼は本当に言葉の通りで裏表がない。

が神を見上げると、彼と視線が合う。

慌てて外してしまい、後悔した。

(凄く失礼なことしちゃった...)

こうなると、再び彼を見上げることは難しい。

「オレはさ」

「はい?」

「正直面白くなかったりするんだよね」

「はぁ...」

(何がだろう)

さんと信長が仲良いと」

「そう、ですか?」

「どうしてだと思う?」

そう神に問われて彼女は首を傾げた。

さんを取られた気がするんだよ」

「へ?!」

もう見上げられないと思っていたのに、うっかり驚いて彼を見上げてしまった。

「やっぱり、やでしょ?」

「あの、えと?」

「あ。職員室に着いたよ」

そういって神は器用にドアを開けて職員室に入っていく。

担当教員には、「先輩を使うとはやるな」と笑われたがそれどころじゃない。

職員室を出てドアを閉めた途端、は神を見上げた。

「あの、神先輩。さっきの」

さんはどういう意味だと思う?」

「え、と。や、それが聞きたいといいますか...」

「だめだよ。最初から考えずに答えを求めたら」

いたずらっぽく笑って神が言う。

「夏休みの宿題だね。夏休みの間、ずっとオレのことを考えておいてよ」

そういって神は食堂に向かっていき、残されたの顔は、茹でタコのように真っ赤だった。









桜風
13.5.1


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