| 休憩時間にグラウンドの隅の水飲み場で顔を洗う。 「あれ、?」 背後からそう声を掛けられた。 取り敢えず、この濡れている顔を拭いてしまいたい。 ペタペタと目の前に置いたハズのタオルを探して手探りしていると 「ほら」 と私の手の上に柔らかい布が置かれる。 それを手にとって顔を拭いた。 私の隣には汗だくの男子バスケ部キャプテン、藤真が立っていた。 「バスケ部も休憩?」 「おう。しっかし暑いなー、今日」 藤真は手で日陰を作って空を見上げた。 「だね」 タオルを肩に掛けて水飲み場に軽く腰掛ける。 「そうだ。女子テニスって史上初らしいな、全国。おめでとう」 不意にそう言われて一瞬言葉に詰まった。 そんな私に気づかない藤真は私が使っていた隣の水道の蛇口を捻って顔を洗い始める。 「ありがとう。...いい加減、鬱陶しいくらい言われたかも知れない言葉、言ってみて良い?」 そう言うと藤真は「なんだー?」と俯いたままタオルを手探りで探しながら答える。 私はさっきのお返しに藤真のタオルをその手に渡した。 「残念だったね。今年のインターハイ」 顔を上げた藤真は苦笑いをして 「ああ、なるほど。耳タコだな」 と言う。 「だろうねー」 「てか、今年ウチからインターハイに出るのって本当に少ないみたいだな」 「だね。でもさ、正直全員が冬まで残るとは思わなかったよ」 「俺ら?」 藤真の言葉に頷くと小さく笑った。 「やっぱ、アレが最後って納得できないだろう?最後は全国に行かないと」 「あら?『全国で優勝』とか言わないの?」 下から覗き込んで言うと藤真は一瞬面食らった顔をした。 「流石にそこまで豪語できないってのが本音かな?」 「目標は高くないと」 私が言うと 「じゃあ、今回インターハイに出るテニス部の目標は?」 と聞き返されて私は満面の笑みで 「ベスト16!」 と答えた。 「人に全国で優勝とか言っておいてそれか?」 笑いながら藤真が言った。 「たっかい目標じゃない。初出場で『初戦突破』じゃなくて『ベスト16』だよ!?」 「ああ、たしかに...」と言いながら藤真は笑っている。 「ねえ、全国ってどんなところ?」 藤真は驚いたように目を大きくして、そして空を見上げる。 「そうだな...凄いところ」 「子供の作文でも合格もらえそうにない感想だね」 「仕方ないだろう?肌で感じるものなんだから」 「なるほど」と私も空を見上げる。青い空にきれいな真っ白の飛行機雲が線を描いていた。 「は、いつからテニスしてんだ?」 「中学に上がってから。スコートが可愛いなって思って」 「ああ。良いよな、あれ」 「藤真、オヤジくさい」 私がそう言うと「うるせー」と笑った。 「私って昔から習い事をやっても続かなかったんだけど、テニスだけは全国大会に一度で良いから出たくて、いつの間にか6年も続けちゃった」 「良かったじゃないか。最後にそれが叶って」 藤真に言われて頷く。 「大学に行っても続けるのか?」 「やらない」 「何で!?勿体ないだろう??」 「あのね、テニスって外じゃん?」 私が言うと藤真が頷く。 「もう、日焼けの跡がくっきりとね?私、今水着なんて着れない状態だよ?!キャミも無理だな...」 そう言うと 「じゃあ、が全国から帰ってきたらプールに行くか?可愛い水着着ろよ?」 「嫌がらせか!!」 そういうと藤真は声を上げて笑う。 つられて私も笑った。 「藤真ぁー!」 「キャプテーン!!」 私たちはそれぞれ呼ばれる。 「休憩終わりみたいだ」 「同じく」 「じゃあ、頑張れよ」 「バスケ部も。冬は全国だよ?」 私の言葉に「おう!」と笑って藤真は体育館へと駆けていった。 私もテニスコートへと足を進める。 一度体育館を振り返ると藤真も振り返ってきた。 藤真に向かって拳を突き出してみると、藤真もそれを返してくる。 そして私は再び体育館に背を向けてテニスコートへと向かった。 取り敢えず、自分で口にした目標は何とかクリアしてみたい。 無謀ともいえるそんなことを思った。 空を見上げると青空にもう1本白い線が増えていた。 |
桜風
07.7.22
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