| 夏休みの半ば。 そろそろ宿題の進捗状況についてについてお互いが探りを入れ始める頃、全体練習の終了のついでにキャプテンが突然宣言した。 「夏祭りに行くぞ。勿論、全員参加だ!」 ...は!? うちの部員ってどれくらいいるかご存知ないんですか!! そのキャプテンの背後では身長190を越えるスタメン2人がもの凄くやる気満々の姿勢を見せる。 盛大に突っ込もうとしたところでその背高集団の一番のノッポの花形先輩が 「藤真...」 と呆れたように名前呼んだ。 呼ばれた藤真先輩はニッと笑って「冗談だよ」と言い、 「ま、楽しい夏祭りがあるらしいぞ。と、宣伝してくれって商店街の知り合いのおっちゃんに頼まれた。行けるやつは行ってくれ」 そう言う。 ああ、なるほど... 藤真先輩は老若男女問わず結構人気がある。 近所のおば様のアイドルだったり、商店街の店主の世間話の相手だったり。正直なんでもアリの人だ。 この前は、確か迷い猫のことを全体練習の終了のときに話してた。 見つけたら連絡するようにって。 結局、その迷い猫は藤真先輩自ら発見捕獲したらしい。 とにかく、人数が多いからという理由でそういうお願いを良くされるのがわが部の特徴だったりもする。 藤真先輩の言葉に納得したところで、わたしはマネージャーとしての自分の仕事を片付けるべく体育館を後にした。 「お、いたいた。」 名前を呼ばれて振り返ると、藤真先輩がのんびりとやって来る。 「何でしょう?」 「お前は強制参加な?」 一瞬何の話か分からなかったけど、たぶん、 「さっきの。夏祭り、ですか?」 と確認すると 「おう」 と藤真先輩は軽く頷く。 「...まあ、別に。これと言って絶対に行きたくないというコトはないのでいいですけど」 「よーし。んじゃ、7時に駅前集合な」 そう言って藤真先輩は再び体育館の中に戻っていきかけて 「浴衣で」 と振り返ってそう言う。 「善処します」 「おう」 今度こそ藤真先輩は体育館の中に消えていった。 部活の片付けを終わらせて一度家に帰り、母に頼んで浴衣を着付けてもらう。 「なに。ってばデート?」 そうからかう母は楽しそうだ。 「違う。強制参加の部活のイベント」 「なあんだ、つまらないわ」 そう言って帯を締め終わった母がわたしのお尻をぺしんと叩いて「はい、出来上がり!」と宣言してくれた。 鏡に映る自分は見慣れなくて少しだけ照れくさかった。 待ち合わせ場所の駅前の広場が目に入って思わず回れ右。 「まあ、待て」 と不意に手を掴まれて見上げれば藤真先輩。 「逃げんな」 笑いながら言う先輩に思わず顔を顰める。 「すっごい目立ってるじゃないですか。立ってるだけで!」 「いつものことだろうが」 と言いながら手を挙げた。目を瞑って肩を竦めたけど、いつも来る衝撃が来ない。こういうタイミングでいつも頭を小突かれる。 そろりと目を開けると寸止めの藤真先輩。 目が合うと 「おら、行くぞ」 と腕を引かれる。 何でだろう?と思っていたら 「それ、崩したら俺には直せない」 と言ってニッと笑う。 藤真先輩の指す『それ』に思わず触れる。 「凄いな、それ。どうやんの?」 じっ、とアップに纏めたわたしの髪を見ながら藤真先輩が感心したように呟く。 「えーと、お母さんがまずわたしの髪をですね」 そう説明を始めると笑う。 「の母ちゃんは器用なんだな」 「まあ、はい...」 苦笑いを浮かべる藤真先輩を見ると、自分でも出来るように練習しておこうとか思ってしまう。 藤真先輩は意外と体温が高いようで、その掌の温もりが握られている腕からじわりと伝わる。 子供って体温が高いんだよな、と豆知識を思い出す。 「でも、何か可愛いな」 藤真先輩がわたしを見ながらそう言う。 「「浴衣が」」 次に続く言葉がわかったからハモってみると藤真先輩はきょとんとしてまた笑う。 「ウソだよ、も可愛いよ。少し」 最後の一言はかなり余計だけど。 それでも、わたしの機嫌は自然と良くなって、腕を掴まれている手を解いて藤真先輩と掌を合わせて握る。 藤真先輩は驚いた顔をして、そして 「ま、これでが迷子にならずに済むよな」 と言うから 「逆、逆ですよ。これは、藤真先輩がはしゃいで迷子になったら恥ずかしいのでしっかり者のわたしがちゃんと一緒に居てあげるという決意表明の一環です」 と返しておいた。 夏なのに、掌から伝わる体温が意外と心地良いのが不思議だった。 |
企画サイト『Sweet Illution』様に納品したものです。
桜風
07.8.12
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