ちょうどいい





目の前に座る男の子の睫は長く、首から上だけだったらもしかしたら女の子に間違われるかもしれない。
あ、いやないな。そんな立派な喉仏があると間違いようがない。
でも、幼少のみぎりはきっとかわいらしい、下手ずればそこら辺の女の子よりも可愛かったに違いない。

「藤真ってさ」
声をかけると俯いたまま視線だけを向けてきた。
美人だなぁ、と何度目かの感想が浮かぶ。
「なに?」
「身長、いくつだっけ?」
「178」
短く、少し不機嫌に返されてしまった。
「まあ、あの人間山脈に囲まれていれば……」
「口に出てるぞ」
「おっと」
178センチなんて、普通に生活していたら「背が高いね」と声を掛けられるレベルじゃないだろうか。少なくとも、バスケ部所属であっても小さいの部類には入らないだろう。
なのに、彼は少し小さく認識されている。
いつも周囲に身長190センチを超える大男4人がいるからだ。一度あの大男たちに囲まれたことがある。
圧がすごかった。軽く恐怖を覚えたほどだ。
彼らのことは知っている。友人と言って差し支えないと思うが、それでもちょっと怖かったのだ。
身長って軽い武器だなと思った。
ああ、だから女の人は大人になったらハイヒールを履くのか。
「だったら藤真もハイヒール履けばいいんじゃん」
「あー、ナイスアイディアだな」
適当に返された。
「藤真、適当」
「オレは、の発言の方が適当だと思うし、それに合わせたんだ」
返された言葉に納得した。確かに、適当だ。
「ねー、藤真」
「今度はなんだ。便所か」
「レディに対して失礼な。デリカシーってものを持ってよね」
チラと一瞥した藤真はため息を吐いて、手元のノートを一枚破り、『のし』と書いて畳んで渡してきた。
「律儀な……」
『のし』と書かれた紙を手に取り呟くと、藤真が伸びをする。
「休憩するか」
「賛成」
試験勉強だというのに、一向に進まないこちらの手元を見て藤真はため息を吐く。
「赤点取っても知らないぞ」
「藤真君はご存じないようだ」
「何をだ?」
「私の類稀なる運の良さを」
胸を張って言うと「あー、なるほど」と彼は納得する。
「確か、ってうちより偏差値低い学校に落ちてどうしてか翔陽に受かったから裏口か何かかと疑われたんだっけ、担任に」
忘れて、と思いながら何かいい言葉を探すが簡単には見つからない。
昔からの友人というのはどうしてこう……都合の悪いことばかり覚えているのか。
中学も同じだったから、ある程度の過去は知っている。お互いだが、藤真は意外と粗がない。


「おー、奇遇」
人間山脈が近づいてきた。どうやら彼らも学校で試験勉強なるものをしていたらしい。
「どうした?」
「迫力が……」
山脈があるところに向かうのはいいが、向かってこられるとちょっと怖い。
適当な大きさの壁に隠れると身長178センチの壁がため息を吐く。
「オレにもビビれよ」
「いや。藤真はちょうどいい」
「お? はどうして藤真の背後に回ってんだ? 俺のかっこよさが眩しかったか?」
そんな軽口にため息をひとつ零してしまう。
「人間山脈が近づいてきたから怖かったんだと」
「よく言われる」と苦笑した長谷川に手を合わせて謝る。
「お前らも休憩なら一緒にどうだ?」
藤真が誘うと彼らは少しためらい、視線を向けた。
「大丈夫。山がやってくるのは怖いけど、山と同じ方向に行くのなら平気」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
取り敢えず、食堂に向かっていたため、行先はそのままで。
「藤真が楽だ」
ぽつりと零した言葉を拾って「好意的な意味で取っとくぞ」と藤真が確認した。
人間山脈は首が痛くなるから、藤真くらいがちょうどいい。
頷くとどこか満足そうに「素直でよろしい」と藤真が呟いた。









桜風
18.12.31


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