入学した時から貫禄があって、「おいくつですか?」と思わす聞いてしまってもわたしに罪はないと思う。

...聞くのをぐっと我慢したけど。

今なら聞ける。

「おいくつですか?」

「同じ年だぞ?」

目が笑っていない笑顔って凄く怖いの、初めて知った。






振り返って 1





 15の春。

私は海南大附属高校に入学した。

出席番号の縁ではないけど、隣の席はえらく老け込んだ..大人びた男子がいて。

彼は本来、出席番号的には一番前の席だったのだが、そのガタイの良さで一番後ろに座ることになった。

割を食ったのは、「一番後ろだ、やった!寝れる」と呟いていたクラスメイトで入学早々、高校生活初同情を向けたのは彼だった。

ずいぶん大きいな、と思って見上げているとその視線が不躾だったからか、彼が私を見る。

「よろしくな」

不躾な視線を向けてくる相手にも挨拶ができるという、人間的にできた彼は牧紳一と自己紹介していた。

「よろしくね、牧君」

私も挨拶を返す。

「牧君、大きいね。身長どれくらい?」

「まだ180はないが...」

“まだ”ということは“いずれ”ということだ。

「スポーツやってる人?」

「バスケをな」

「あ、」

思わず声が漏れた。

「どうした?」

(この牧君の事かぁ...)

数日前からさんざん聞かされている“マキ”君が目の前にいた。

「そっか。ウチ、バスケ強いんでしょ?」

「ああ、楽しみだ」

そう言って笑った彼の表情は、少し凄味が出て怖かった。


高校に入って初めて運動部にチャレンジをしてみようと思う。

男子部の陰に隠れているはずの女子バスケ部。

そこに顔を覗かせてみた。まずは見学だ。

卓球部と、バレー部とひしめき合った体育館。

体育館の半分を使っているようで、部員数はさほど多くない。

でも、バスケは5人でプレイするものだから...単純計算で3チーム作れるくらいには人数がそろっていた。

「見学?」

私の姿を目にした先輩が近づいてきた。

「はい」

「女子部は強くないよ?」

「私、初心者です」

「じゃあ、ちょうどいいかも」

先輩は笑い、「ゆっくりしてって。できれば入って」と言って練習に戻って行った。

ルールは、身近にうるさいのがいるから一応頭に入っている。

頭に入っていなかったら、めちゃくちゃ馬鹿にされるから、ムキになってしまった。

あとは、体が動くかどうか。

運動神経は良くも悪くもなく、集中力は..まあまあと自負している。

全体練習が終わるまで見学した。

大丈夫かな。吐くかな...

地味な練習が多かったけど、地味なものって意外とキツイ。

「どう?」

「前向きに検討中です」

「そのまま突っ込んできてね」

先輩とそう会話をして体育館を後にした。


少し時間が早いし、と思って男子バスケ部専用体育館に足を向けてみた。

ツンと鼻を刺激する匂いに込み上げてくるものを飲む。

排水溝が詰まらなきゃいいけど...

聞いたことがある。

最後には吐くものがなくなるらしい。

そこまですることの意味が私にはわからない。けど、きっとそこまでする価値があると思っている人がそこまでするんだろうって思う。

体育館のドアからそっと中を覗くと熱気がすごい。眼鏡装着してたら、きっと曇ってた。

体育館の中に響く声はどれも緊張感があって。

同じ競技なのに、さっきまで見学していたそれとは別物に見えた。

「あぶない!」

鋭い声に反応してドアに隠れるとヒュンと何かが過ぎていってゴンと背後の壁の衝撃音がした。

私の頭があった場所にボールが飛んできたらしい。

「だ、だいじょぶかい?」

今にも倒れそうなひょろい男子が声をかけてきた。

「え、はい」

年上かどうかわからないから敬語。

「よかった」

そう言って彼はボールを拾おうとして、取りこぼす。

もう体力がないのかもしれない。

代わりに拾おうとして手を伸ばすと「だいじょうぶだよ」と言われた。

これは手を出すのが失礼だと思って「がんばってください」と思わずこぼれた言葉。

「ありがとう」

そう返した彼はボールをやっと拾ってフラフラしながら体育館に戻っていく。

そして、クラスメイトの牧君は、何か同じくらいの体格の男子とコートに入って練習している。

きっと先輩。

「すごいなー」

思わず賛辞の言葉を呟いた。









桜風
14.11.20


ブラウザバックでお戻りください