| 「そんなに気に入らないものなの?」 顔を覗きこんで聞くと牧くんはちらっと私を見て 「それはそうだろう」 とため息交じりに言われた。 いとこが一緒に住んでいて気に入らないってどういうことかしら? 複雑なオトコゴコロを目の前にして、私は反応に困る。 「何だ?」 私の表情を見て牧くんが首を傾げる。 「いや、オトコゴコロとは複雑ね」 「想像してみろ。俺が同じ年のいとこと同居している」 「あ、うん」 複雑なオンナゴコロを発揮した。 |
| 試合を明日に控えて落ち着かない。 「何だ、も緊張できる体質なのか」 朝食の席で明日試合だから緊張するって話をすると健司が真顔になって言う。 「は?」 「神経図太そうだから」 朝食にタバスコを振りかけたい衝動に駆られた。 「牧くんは試合前ってどんな感じ?」 「どんな?」 私の質問の意図がわからないらしく、首を傾げながら問い返してきた。 「えーと、緊張とか」 そう聞くと 「ああ、緊張というよりも..そうだな。神経を研ぎ澄ますというか、集中するな」 ああ、しまった。 全国区の選手に聞くものじゃなかった。 健司も似たようなこと言ってたなー。 「は?オレ様が緊張?そんなのとっくに卒業した」 卒業って何だろうとは思ったけど、突っ込んだらまたうるさそうだから私は口をつぐんだんだ。 「そうだな」 今朝の事を思い出していると牧くんが呟く。 「好きな曲を聞いてみるのもいいかもしれないな。そうやって気持ちを落ち着ける人もいるぞ」 「おお〜」 なるほど。リラックスするのね。 「そういや、はレギュラー取れたのか?」 「いや、ベンチ」 笑って返す。 「初心者でベンチは、それなりに凄いんじゃないのか?部員数はそこそこいるんだろう?」 「うん、まあね。一応、シュートフォームとか矯正してくれる人が家にいるから」 笑って言うと、牧くんは少し憮然とした表情で「そうか」と呟く。 「よし、じゃあ。明日頑張る」 何が原因で憮然としたのかイマイチわからないし、あまり突っ込まない方がいいかもしれないと思って取り敢えず流させてもらった。 「ああ、頑張れ」 試合は平日にあるから、出場者は公欠になるけど、応援者はそうはならない。 ただ、毎年全国大会に出場しているから、大会が始まると授業をさぼることを黙認される。 とはいえ。あまりそういうことをする人はいないらしい。 本当に気になるチームがいればそういうこともするらしいけど、中々休むのは難しいみたいだ。 流石に公欠にできないのは文部科学省の何たらのせいだという噂もある。あとは、ほかの生徒とのバランス。 あまりに男子バスケ部だけを特例にするとほかの生徒や保護者からの反発が予想される。 納得だ。 牧くんのアドバイスに従って音楽を聴いて試合に臨んだ。 私たちは第1試合と第2試合。 つまり、今日の試合に勝利することができた。 荷物を持って学校に帰ると閑散としていた。 放課後でも少し遅めの時間だった。 色々片づけを済ませて帰宅の途につく。 自転車置き場に向かうと牧くんがいた。彼の手には文庫本。手の大きさとの比較で凄く小さく見える。 「あれ、牧くんも自転車だっけ?」 声をかけると彼は本から視線を上げた。 「いや、を待っていた」 「あ、そうなの?何?」 何の用だろう。 「今日の試合、どうだった?」 問われて苦笑。 「出たよ」 「凄いじゃないか」 「すごいもんか!全然走れなかったし、シュートも入んなかった」 言ってて情けない。 一所懸命練習したのにな... 「悔しかったんだろう?」 「めっちゃ!」 「次も頑張れるだろう?」 「もち!」 負けず嫌いなんだ。 「それなら、大丈夫だろう?」 そう言って、牧くんが私の頭を撫でる。 大きな手が心地よくて、思わず涙がこぼれた。 「え、おい」 慌てた牧くんの声に「えへへ」と笑った。 「ど、どうした?怪我、か?」 「ううん、悔しくて」 そう言うと牧くんは「あー...」と言葉を探したように声を漏らして、ぐいと私の後頭部を引き寄せる。 「ぶっ」と声が漏れた私と牧くんはゼロ距離で。 牧くんは私を抱きしめるように背中に手を置いた。 「じゃあ、存分に泣けばいい」 そうお許しが出て私は泣いた。人前で泣くなんて情けなくて、恥ずかしいって思ってたのに、牧くんの言ったとおりに存分に泣いた。 泣きすぎて頭が痛くなった頃にそっと牧くんの体を押した。 「負けたわけじゃないのに、こんなに泣いてよかったのかなぁ...」 何か、引退試合に惨敗した人のようで少し気恥ずかしい。 「いいだろう。泣きたいときに泣けば」 牧くんに言われて 「牧くんの時間も取っちゃったし」 と申し訳なさも出てくる。 「別に、に取られて困る時間はないさ」 驚いて牧くんを見上げると彼は微笑む。 私はリアクションに困って俯いてしまった。 |
桜風
14.12.25
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